おままごとみたいな恋をした

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モットーは、「生者こそが勝者」

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「最近やたらと知らない方に声を掛けられますね」

 もはやクローディアの執務室(仮)と化している小部屋で書類にペンを走らせているとマリーが不思議そうに声をあげた。資料の仕分けを手伝ってくれているマリーの発言にクローディアは手は止めないまま確かにと頷く。

「以前は遠巻きに見られる事は在っても近づいてらしゃる事はなかったものね」

 視線は常に感じていたけど。
 率直に言うなら避けられていた。

「最近はクローディア様のとこの子だって挨拶してくれる方とかいます」


 避けられていたのはクローディアがこの国にくる前の経歴が噂になっていたから。
 そしてジルベルトが一目惚れしてプロポーズしたという妄言が信じられなかったから。
 面倒事の香りをぷんぷんさせるクローディアに関わりたくなかったのだろう。

 長い間仕事を手伝うようになって少しずつ嫌悪や好奇の視線が和らぎ、特に第三魔術師団の中では軽く挨拶を交わしたり、拝んだりしてくる人が徐々に増えた。それでも軽々しく声を掛けられる事はほぼなかったのだが。

 それが一転したのが何時からかといえば、思い返すまでもなくゼロスとの手合わせの直後。

「声を掛けてきてるのの大半が第一騎士団の連中ですよ。あそこは戦闘能力は随一なんですけど、脳筋・・・戦闘能力に特化してる人が多いんで。クローディア様の戦闘をみて思うところがあったんだと」

 言い直したけどはっきり脳筋って言った。
 クローディアとマリーは思わずセオを見た。

「正直自分も驚きました。あんなにお強いと思いませんでした」

「私も見たかったです。クレアさんが色々凄かったって大興奮でした」

 胸の前で腕を組んで羨まし気な声を上げるマリーに若干遠い眼になる。
 果たしてそのとは戦闘に関してだろうか、その後のに関しての大興奮な気がしてならない。

「わたくしとしては色々忘れて欲しいのだけど」

 勝利に気を取られ特に気にしてなかったけれど、そもそも男性の上に馬乗りになるとかアウトな気がする。その後もジルベルトに凭れ掛かったり、運ばれたり。

「いやぁ、あのインパクトある闘い方は忘れられないと思います。団長が負けるなんてびっくりですもん」

 因みにゼロスには「もうキミとは闘いたくない」と宣言されている。

 別に機を てらったから勝てただけで次に闘えば確実にクローディアが負けるだろうに。ジルベルトと闘うのも嫌がるが、防げる防げない以前に物理的攻撃が眼前に迫るのは怖いらしい。

「キミ本当に恐いんだけど。何アレ、ガチで急所狙いにきてんじゃん!!」とはゼロスの談。

 負傷を顧みない戦闘スタイルやガチ加減がお気に召さなかったらしい。
 心外な。生者こそ勝者は鉄則なのに。

 勝利と言えば、今日あたり戦果が仕上がる筈だ。クローディアは処理済みの書類の束を纏めると顔を上げた。

「マリー、わたくしこれからゼロス様の所へ書類を持って行った後、そのまま旦那さまの所で食事をとるわ。給仕は平気だからセオと食事に行って構わないわよ」

 頬を真っ赤にしたマリーがわたわたと手を振る。

「で、でも。私の仕事ですのでそんな訳にはっ!」

「丁度人払いしたい話もあるし。外で待っていて貰うのも悪いから逆にその方が気を遣わなくていいもの」

 気にする必要はないと告げると視線を惑わせながらも僅かに緩む口元と色づいた頬が愛らしかった。セオも取り繕っているものの嬉し気な表情を隠しきれていない。初々しいなと改めて思う。




 ゼロスの執務室前までセオとマリーに送ってもらって、扉の前で別れる。
 ノックをして中に入れば、ゼロスがソファに寝っ転がって寛いでいた。勤務時間内なのだけど。

「お約束の物を受け取りに参りましたわ」

 書類の束を渡しながらそう言えば、厭そうな顔でサインの必要なその束を受け取ったあとすぐにそれを机へと置きさって「出来てるよー」と彼が立ち上がる。

 机の引き出しを漁って取り出されたそれを受け取る。

 繊細なカットが施された美しい緋色の宝石。ゴールドの爪で支えられた緋色の宝石の美しさが際立つシンプルな造りのネックレス。願った通りの色合いにゼロスへと微笑む。

「とても綺麗。有難う御座います」

 受け取ったばかりのそれを早速身に着けるべく留め金を外した。首の後ろに回した手で再び留め金を嵌めて摘み上げた宝石を服の中へと入れる。今日は深緑色のシックな襟の詰まったドレスを身に着けていたので、緋色の宝石は完璧に服の中へと隠れた。

「何の為にボクにそれを頼んだのか聞いてもイイ?」

 一連の動作を興味深げに眺めていたゼロスの面白がるような質問に

「嫌ですわ。でも多分ゼロス様のお考えの通りじゃないかしら?」

 同じような表情を返して服の上からペンダントをそっと撫ぜた。





「クローディアは本当に『出来損ないの聖女』なの?」

 マフィンでまぐまぐと頬を膨らましながらゼロスが問いかけた。

「団長っ」

「お行儀が悪いですわ。飲み込んでから話して下さいな」

 昼食を取りながらの雑談中またしても放たれたゼロスの唐突な質問。
 そして返された非難は全然意味合いの異なるものだった。クローディアを気遣うジルベルトの非難と、食事のマナーに対しての非難。

 配慮はないが素直なゼロスは大人しく口を閉じてもぐもぐごっくんした上で再度口を開いた。

「だって、正直思った以上の効果だったじゃん。最初のクローディアの話じゃもっとしょぼい効果上昇しかしないと思ってたのに。素質のない聖女であれなら皆もっと凄いって事でしょ」

 好奇心でキラキラ輝く瞳は相変わらず楽しそうだ。

「確かに・・・あれには驚きましたが」

 ジルベルトも気にはなっているのだろうが、この話題に触れていいのか躊躇っているのだろう。

「いつもはあんなに効果が出ないですけど」

 ティーカップをソーサーに戻した後、「手を貸して下さる?」と両手を差し出せば首を傾げてクローディアの手に重ねたゼロスの手を包み込むようにして瞳を閉じること数秒。

「魔術を使ってご覧になって」

 手を放し促せばゼロスが氷の塊を空中に顕在させる。拳大よりは大きく、顔よりは小さい氷の塊が宙に浮かぶ。

「ジルベルトの時と全然威力が違うんだけど。拳大でイメージしたから効果は上がってはいるけど」

「他の方であそこまで威力を引き上げられた事はないですけど」

「相手によって差があると言う事ですか?」

「魔力の供給とかでも相性によって効果の違いはあるけどね」


 掌を握る動作で氷を砕けさせたゼロスはそうは言うもののどう見ても納得いってなさそうだった。


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