26 / 65
うっかりときめく
しおりを挟む「コレとコレ。あとソレ2つづつお願いね」
テキパキと注文をしていくレイの後ろでクローディアは興味津々でその様子と屋台の品々を見ている。
今買っているのは様々な具材が挟まれたパンで、選んだのはパストラミとリーフレタス、アボカドとエビと玉葱、茹でて切った卵と潰して和えた卵がダブルで入っている卵サンドの三種だ。その前によったフルーツの店ではカットしたフルーツを容器に入れ、可愛いピックを刺してくれた。
「1つずつ半分に切ってくれる?こちらのお嬢さんはそんなに大きな口出来ないだろうし」
レイが店のおば様に声を掛ければおば様も「それは大変」と笑いながら食べやすいように切り分けたうえで紙へと包んでくれる。「ありがとうございます」と礼を告げれば、「可愛らしいお嬢さんだね」と惣菜をおまけしてくれた。
辿り着いた公園で大きな樹の近くにベンチを発見。
丁度付近に人も居ないし、優しく木漏れ日が差し込むその場所で食事をすることにした。
レイが敷いてくれたハンカチの上に座って、さてどれから食べようと悩む。一番食べやすそうなパストラミとリーフレタスのサンドを選んで、お手本とばかりにレイを見る。
包みを上半分だけ開いたレイがぱくりとかぶりつくのを見て成程と頷く。包みを全部取り去らない事で手が汚れないのかと納得し早速真似をする。隣でレイがくすくす笑った。
「美味しいわ」
「それは良かった。それで?さっき話を聞いて欲しいって言ってたけど」
飲み物を渡してくれながら問いかけるレイに、色々思い出して長い溜息を吐く。
「お疲れだね」
「本当よ。聞いて、もう最悪なの。前に破局した相手がね、わたくしと話がしたいとか言い出しやがったの。しかも今一緒に居る人を通して」
「それはまた。ディーが振ったの?」
「あっちからよ。しかも他の女がいるわ」
「なのに話がしたい、と。今の彼氏さんもよくそんな話を通したね」
「・・・・・」
パクリとかぶりついてもくもくと咀嚼する。
彼氏ではないのだけど。その言葉が言えないまま。
「ディーは彼氏さんがそんな話を振ってきた事が嫌なの?それとも元の相手に未練がある?」
「どっちでもないわ。そういうのじゃなくて・・・彼の言動がこの頃わからないの。自分の感情も」
込み入った事を話し過ぎだと思った。
だけど、吐き出さないととても今まで通り振る舞える自信がなかった。
「まるで、わたくしのことが気にかかるみたいな言動をするんだもの」
「えっ?そっち?だって付き合ってるんだよね、だったら気にするのは当然じゃない?」
「利用価値があるから傍に置いただけで恋愛感情なんてないもの」
「は?!」
飲み物を飲んでいたレイの動きが止まった。
真顔で見られる。
「待って、ディー。その男、大丈夫な男?」
「別に騙されてるわけじゃないし。それに彼は誠実で優しい人よ」
「思いっきり悪い男に引っかかった女の常套句なんだけど、それ」
真顔で突っ込まれて、確かにと思わず納得した。
傍から聞けば騙されてる女の典型だなと思う。尤も私たちは最初から偽物の関係なのはお互い様だし。
本気で心配してくれているレイに笑う。
「大丈夫。自分でちゃんと全て話して謝ってくれたし、真面目で嘘が吐けない人だからこっちは始めから気づいてたの。ただわたくしの方にも事情があってあえて乗っただけだし。それに裏のある付き合いや結婚なんて珍しくもないわ」
「確かに貴族間じゃ事情のある付き合いなんて珍しくないか」
言ってしまってから「あっ」とレイが口を押えた。
「ごめん。検索する気はないんだけど」
「別にいいわ。でもやっぱり気づいてたのよね」
「そりゃ勿論。どう見てもディーは庶民のお嬢さんには見えないし」
見えないのか…。と思わず自分の服を見下ろす。
相手は貴族だし、何なら前の男は王族。
自分も養子とはいえ元貴族で王妃候補だけど生まれと現状は庶民なんですけど。
心の中で色々突っ込むけど、そこまで言ったら確実に身バレするのでお口にチャック。
「それに元々、貴族様とは多少付き合いがあるしね」
肩を竦めるレイに首を傾げる。
「僕、商家の出なんだ。さっき後で話してあげるって言ったこの恰好もそれ関係っちゃそれ関係。結構大きな商会で貴族様ともそこそこ付き合いがあって、だけどウチ男の子が生まれなかったんだよね。父親が男が欲しかったって煩かったから思春期に当てつけで始めたのがこの恰好」
そう言って自分の服を指す。
「とても似合ってるわ。レイは顔が整ってるし女性の姿も似合うと思うけど。どっちも素敵」
真剣に告げれば「ありがと」とレイは笑う。
「もう跡継ぎ問題も解決したし、本当はこの恰好を続ける意味もないんだけどね。もうこの恰好の方が楽だし、それに女性客の評判もいいんだよね」
「凄く良くわかるわ」
「僕の事情はそんな感じ。ごめんね、ディーの話から逸れちゃって。それで事情があって付き合ってたけれど本当にディーが好きになっちゃったって話じゃないの?」
「・・・そんなわけないわ」
「何で?」
話に夢中になって手が止まっていたからレイから次のパンを渡された。アボカドとエビと玉葱のサンド。具が多くて零れそうなので慎重に口を開く。こくりと飲み込んでから俯く。
「好きになられる理由が見つからない」
「・・・理由。そんなの普通にディーが可愛いからじゃないの」
「可愛くなんてないわ」
パンは口に入っていなかったけれど頬を膨らませる。
自分が可愛気がないのは知ってるし、シュネールクラインでもレオンや周囲に散々言われた。取り繕う事ばかり覚えて、だけど取り繕いきる事さえ出来ない。
「男の人なんて皆、か弱くて可愛らしい女が好きじゃない」
フローラを思い出した。
守ってあげたくなるような、庇護欲をそそる女の子。
愛されて、無知で無邪気だからこそあんなにも純粋でいられる。自分がかつて見ていたような夢を見たままで生きられる女の子。
「それをこんな恰好してる僕に言うのもどうかと思うけど。まぁ、言いたい事はわかる」
「でも問題ないんじゃない?」と膨らんだ頬をぷすっと突かれた。
「ディーは凄く可愛い」
甘く微笑まれて、思わずときめきそうになった。
危ない。
言われ慣れない「可愛い」の言葉に頬が僅かに熱を持つ。レイが女性客に大人気なのに物凄く納得した。
結局、買ったパンはとても全部は食べられなかったのでレイに少し手伝ってもらって、名残惜しいながらも別れを告げる。愚痴を吐き出したお蔭で少しだけ気分がすっきりした。
別れ際、レイが商会の場所を教えてくれた。店のお客さんとしてじゃなくてもいいから、もし用があったら直接お店においでと。ふらふらうろついてまた絡まれるのを心配してくれた模様。まだ少し気晴らしに散策しようとしたけれどそれも一人じゃ危ないからと却下された。
ちゃんと撃退出来たわ!と訴えたのに。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
おとぎ話のお姫さまに転生したようですが王子さまの様子が変です
ミズメ
恋愛
修道院で過ごすヘンリエッタには、前世の記憶があった。本を読むのが好きな、日本人の記憶だ。
いばら姫にシンデレラ、人魚姫……たくさんのお姫さまたちが登場するこのおとぎ話のような世界で、彼女はある日気がついた。
「わたし、人魚姫の恋路を邪魔したあの王女ですね」
魔女に人魚に狼に……何でもアリなこの世界ですが、せっかく魔法が使えるので人魚姫の悲恋もわたしが何とかします!そう思っていたのに、ヘンリエッタは何故か王子に追いかけ回されるのだった。
「――へえ。姫は追いかけっこがしたいんだね?」
✳︎アンデルセン、グリム童話、おとぎ話が色々混ざっています。
苦手な方はご注意ください。
✳︎ゆるふわっとした気持ちでご覧ください
✳︎2019.8.24改題、改稿しました。大まかな流れは同じです
✳︎小説家になろうにも掲載中。別名です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

異世界から来た聖女ではありません!
五色ひわ
恋愛
【完結まで毎日更新・予約投稿済み】
ミシュリーヌは、第四王子オーギュストの妃としてフルーナ王国の王宮で暮らしている。しかし、夫であるオーギュストがミシュリーヌの寝室に訪れることはない。ミシュリーヌは聖女の力を持っていたため、妻に望まれただけなのだ。それでも、ミシュリーヌはオーギュストとの関係を改善したいと考えている。
どうすれば良いのかしら?
ミシュリーヌは焦っていた。七年間かけて国中の水晶を浄化したことにより、フルーナ王国は平穏を取り戻しつつある。それは同時に聖女の力がこの国に必要なくなったことを意味していた。
このまま、オーギュストの優しさに縋ってお飾りの妻を続けるしかないのだろうか。思い悩むミシュリーヌの前に現れたのは、オーギュストの恋人を名乗る女性だった。

僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる