21 / 65
やる気満々(若干一名除く)
しおりを挟む鮮やかな紅玉を見据えて、好戦的に唇の端を引いた。
「ゼロス様、わたくしも是非お相手して下さいません?」
突然対戦を申し出たクローディアに指名したゼロスよりも周りがどよめいた。
「クローディアっ!いきなり何を・・・!?」
止めようとするジルベルトを一瞥だけして、ゼロスへと視線を戻す。
「如何かしら?以前、わたくしの能力を見たいと仰っていたでしょう。丁度よい機会でなくて?」
「別に構わないケド。でもキミの元の力量を知らないから効果わかんなくナイ?」
「勿論一対一で挑む気はありませんわ。旦那さまに助太刀を頼もうと思いますの。彼の力量ならよくご存じでしょうし、それなら威力の違いも一目瞭然でしょう?」
勝手に巻き込まれたジルベルトが傍で驚いてるがスルーで。
彼を巻き込む事はクローディアの中で決定事項だ。
却下は聞かない。
何せ一対一で敵うわけがない。本職の彼の部下達でさえ多い時には十対一で勝てない相手だ。
諦めて欲しい。
「面白そうだね。でもジルベルトは一定位置から動くのは禁止ね。他に何人でも助っ人入れてもいいよ」
好奇心に紅玉がキラキラと輝く。
了承を得られた事にクローディもにっこりと笑った。
「いつもゼロス様がなさっているようにもし勝てた場合はわたくしのお願いを聞いて下さいな。わたくしおねだりしたい事がありますの」
「別にいーよ。何?」
「まだ内緒です。条件・禁止事項は?」
「待ってください。勝手に話を進められても」
「余興だと思えばいーじゃん。別に部外者の参加が禁止されてるわけじゃナイんだし」
「酷いですわ。わたくし一人で戦えと仰いますの?」
止めに入ったジルベルトの言葉は自由な二人に遮られる。
セオから同情の視線が飛んだ。
「禁止は、そうだな。ジルベルトは描いた円からでないコト!!これは絶対!ボクも円から動かないし。あとは好きにしていーよ。クローディアは助っ人なり魔道具なり何でもアリで。ルールはシンプルに相手が敗北を認めるか、膝を着かせれば勝ち」
楽し気な瞳が待ちきれないとばかりに輝き、彼が場内の真ん中へと向かおうとするのを止めた。
「やる気満々な所申し訳ないのですが、わたくし着替えないと無理ですわ」
やる気満々だったゼロスの気を削いで、数刻後。
同じくやる気に満ちて、今日は最初からゼロスに挑むつもりで持参していた鍛錬時に使っている服に着替えて戻ったクローディアは若干遠い眼をした。
「何故ギャラリーがこんなに?」
クローディアの恰好を見て眼を丸くしたジルベルトがまじまじと全身を見た後で、戸惑ったように答える。
「貴女が着替えに行っている間に噂を聞いた野次馬が集まりまして・・・。それより、その恰好は一体?」
クローディアの恰好は躰に沿った黒い上下。乗馬服や、色から受ける印象としては眼の前の彼が着ている団服にも近いものがあるかも知れない。下は勿論ズボン。長い髪は高い位置で一つに括った。
やたらと驚いている彼に、女性の騎士や魔術師もいるのだから男性的な恰好の女性も見慣れていないわけではないだろうにと思うが、確かに普段ドレス姿しか見てない相手の恰好は意外なのかも知れないと思い直す。
「似合わないかしら?」
「いえ、とても似合ってはいますが」
人前でした事のない恰好なので不安になったが、似合っているならいいかと流す。
「何故急にあんな事を言い出したのですか?」
「別に急ではないのですけど。手合わせを偶に拝見してて、わたくしも相手をして頂きたいなと思ってましたの」
ゼロスはよく大多数の部下を相手にしている。
負ける事がないからだろう。相手のやる気をあげる為にか、自分に勝てたなら何でも一つお願いを聞いてあげる。そんな条件をつけて。
クローディアも前々から相手をしてもらいたいと思っていた。
ゼロスがいる方へと向かいながら、クローディアは真剣な顔で隣のジルベルトを見上げた。
「わたくし、やるからには勝つ気でいますの」
「それは・・・」
言葉を濁す彼は無理だと言いたいのだろう。実力差は百も承知だ。
「わたくしが合図をしたら全力でゼロス様へ向かって魔術を放って。貴方が得意な炎がいいですわ。何があろうと決して円から動かないで、絶対に魔術を止めないで。わたくしの為に隙を作って下さいな」
それでも、負ける訳にはいかないのだ。
紺碧を強く見つめる。
真っすぐに向けられるアメジストの視線の強さにジルベルトは頷いた。
「無茶はしないで下さいね」
「無茶はしますわ。そうしないととても勝てない相手ですもの」
颯爽と歩くその背で、長い髪が静かに揺れた。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
おとぎ話のお姫さまに転生したようですが王子さまの様子が変です
ミズメ
恋愛
修道院で過ごすヘンリエッタには、前世の記憶があった。本を読むのが好きな、日本人の記憶だ。
いばら姫にシンデレラ、人魚姫……たくさんのお姫さまたちが登場するこのおとぎ話のような世界で、彼女はある日気がついた。
「わたし、人魚姫の恋路を邪魔したあの王女ですね」
魔女に人魚に狼に……何でもアリなこの世界ですが、せっかく魔法が使えるので人魚姫の悲恋もわたしが何とかします!そう思っていたのに、ヘンリエッタは何故か王子に追いかけ回されるのだった。
「――へえ。姫は追いかけっこがしたいんだね?」
✳︎アンデルセン、グリム童話、おとぎ話が色々混ざっています。
苦手な方はご注意ください。
✳︎ゆるふわっとした気持ちでご覧ください
✳︎2019.8.24改題、改稿しました。大まかな流れは同じです
✳︎小説家になろうにも掲載中。別名です。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる