話せない魔女と見えない魔王

食べられない……？

　此処は魔界を統べる恐ろしい魔王様のお城。
　魔女はキッチンで瓶を片手に苦い顔をしている。
　
　此処は、基本的に飲食を必要としない魔界の住人にとってあまり関係の無い場所だったが、甘い物が好きな魔女や紅茶を好む毒竜などの為に一応作ってあるキッチンだ。
　
　薬の調合が得意な魔女は料理も得意なため、今回も美味しいいちご大福(自分用)が出来るはずだったのだが……。
　
（鍋でぷにぷにしたスライムがピューと鳴き声を上げて蠢いている）
　
　魔女は震える手で『万能スライムの素』と書かれている瓶を握りしめた。
　誰だ、調味料棚にこんな物置いたの。
　
　砂糖と間違えて使ってしまった魔女は作りかけの餡がスライムに変わった事に涙目になった。
　珍しい材料を使う為、材料がもう無いのである。
　
　いちご大福……。
　魔女は未練を滲ませながらあんこスライム(仮名)に視線を向けた。
　
（スライムはぷにっと跳ねて楽しそうに鍋を揺らしている）
　
　段々あんこスライム(仮名)が水饅頭に見えてきた。
　……これって食べられるの？