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イチャイチャ番外編

幸せなお買い物。

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 ……いや……違うよ?

 別に、俺が買いたくってこんなとこ来てるわけじゃねーから。マジでマジで。

 ……あと、ついでに言っとくと……別に浮気してるとかでもねーから! いや、マジでマジで!

 これは……なんだ、アレだ……山田に一緒に付き合ってくれって頼まれたからであって……あ、いや、付き合って……って、ちげーよ!? なんかじゃねーから! いや、マジでマジで!

 ……我ながら、動揺がすごい……。

 さすがに山田と二人っきりで出歩くとか、以来で、初めてだからな……。
 山田も山田だぜ……、相変わらず、空気が読めないっつーか、ズレてるっつーか……。
 第一、今日のこと、たろさんには何て説明してきてんだ……? ってか、そもそも説明してんのか?

「……はぁ」

 俺が、アレやコレやに頭を悩ませつつ、思わずため息をつくと、山田は慌てたように言った。

「あっ! 悪いな、間宮。つまんないよな」

「……えっ、いや、全然」

 そうなのだ。なにも山田は、人に気を使えないヤツなわけじゃない。むしろ、使いすぎて逆に失敗するようなタイプだ。まぁ……ただ、ちょっと……天然なだけだ。さぞや、たろさんも日々、手を焼いてることだろうよ。でも、山田の言動に振り回されて、デレッデレに鼻の下を伸ばしている、たろさんの顔が、すぐに思い浮かんだ。

「……ふふっ」

「ん? どうした?」

「……いんや、がスゲーお似合いだなっていう話」

「……おまえら??」

「別にこっちの話ィー。んで、めぼしいお返しは見つかったのか?」

 そう、俺は山田に半ば強制的に、百貨店に連れてこられていた。ホワイトデーのお返しを買うのを付き合って欲しいと頼まれたのだ。二人だけで出かけることに、若干じゃっかんの抵抗感はあったが、万年インドアの山田が、キラッキラしたデパートのホワイトデー売り場に行くのを想像したら、脳内で「はじ○てのおつかい」のテーマソングが流れ出したため、慌てて一緒に行くことを決めたのだった。

「……うん、決めたよ」

 聞くと、山田は、バレンタインに、たろさんにチョコを渡していたらしいんだけど、なにやらとかで、ホワイトデーもプレゼントをすることにしたらしい。みなまで聞いたわけじゃないけど、バレンタインデーに、たろさんが山田にプレゼントをするところを想像して、まぁそりゃ貰いすぎちゃうだろうねぇーと、苦笑いしか出なかった。

 そんなことを言いつつ、俺とて、自分のバレンタインの日を思い返すと、赤面するしかないんだが……。

 あ、そうだったそうだった。俺も、銀田に小馬鹿にされた腹いせに、めちゃめちゃ豪華なお返しを催促する予定なんだったや。でーもなぁ~、何にすっかなぁ~。別に欲しいもんなんて、何も無いんだよなぁー……。

「あのさ、これにしようと思って」

 俺が、山田の背中をのんびり追いつつ、ぼんやりそんなことを考えていると、山田がある店で立ち止まった。

「…………なるほど」

 山田が、たろさんへのお返しに決めたのは、なんと花束だった。

 正直、意外すぎて、一瞬、時が止まってしまった。いや……これは。

「めちゃくちゃ喜ぶだろな、たろさん」

「……そうかな?」

 そう聞きつつ山田は、安心したような顔をしていた。

 全く……これだからイケメンってヤツは参るよなぁー。肝心なところで天然で最高のゴールを決めやがる。

「なぁ、これせっかくだし今日もう予約していけば?」

「あ、ああ! 確かに! やっぱ間宮は頼りになるな」

 なーにが、頼りになるな、だよ。結局、俺は何もしてねーじゃんか。確実に男っぷりを上げた山田の姿に、ほんの少し寂しさを感じつつ、俺が隣のスイーツのお店でも覗きに行こうとしたときだった。

「ちょっと待ったぁああっ!」

「え!? なっ、なに!?」

 俺の視界に、山田が店のスタッフに花束を作るために指差した花がチラリと入ったのである。その花を見るやいなや、俺は慌てて駆け寄った。


「やっ、山田……たろさんの好きな花って、確かだったはずだぞ?」

 花々のショーケースを指差す山田の前に立ちはだかるようにして、俺は山田がその花を買うのをギリギリ阻止することに成功した。

 山田が、たろさんへの花束にと選んだ花は、カーネーションだった。なにもカーネーションに不満を持っていたわけではないが、咄嗟に身体が動いてしまったのだ。

 とりあえず、山田から、両手いっぱいのカーネーションの花束を手渡されて、満面の笑顔を浮かべている、たろさんを思い浮かべてみて欲しい……。

 ああそりゃ、お母さんだわ。

 一見、微笑ましい光景だけれども、多分ホワイトデーでは無くなってしまう気がする……。うん、母の日になっちゃう、ダメ、絶対。

 俺は、最後の最後で、たろさんが、山田のお母さんになるのを阻止した伝説の男となったのであった。

 山田は、俺の助言を素直に受け入れて、スタッフに花の種類の変更をお願いしている。

 ……はー、よかったよかった。じゃ、まー……帰るかぁ。

 ラッピングのための包装紙やリボンなどをスタッフと楽しげに選び始めた山田に、軽く手を上げて、帰ろうとすると、店内の入り口付近に、手のひらサイズの小さな花束が、置かれているのを見つけた。値段もワンコインで買えるほど手頃で、自宅用や、ちょっとしたプレゼントにピッタリといった感じの手軽な花束だ。

「花、ねぇ……」

 考えてみれば、俺は、花束なんて買ったこと一度もなかった。母親にさえ、なんだか気恥ずかしくて、買ってやれていない。

「まさか、山田に先を越されるとはな……」

 ふと、ジャケットのポケットに手を入れると、冷たい硬貨が手に触れた。



 *******************

「……ただいま」

「あっ! みゃーちゃん! おかえりなさい。今夜は、おでんだよー」

「……ちくわぶは?」

「もっちろん、5本入ってるよぉ」

「はは、そんな食えねぇよ」

「残ったら明日の朝食べようねぇー……あれ?」

 銀田は、俺が手にしているものを見て、不思議そうな顔をした。

「……みゃーちゃん、その可愛い花束? どうしたの?」

「あー……あれだ、母ちゃんに、一度もあげたことないなぁと……」

「そっかぁ~! みゃーちゃんのお母様、きっと喜ぶねぇ」

「……なぁ、お前……ちょっと持ってみろ」

「……え?」

「ほら! 早くしろよ。写真撮りたいから」

「あ……ああ! お母様に写真で見せてあげたいんだね!」

「……」

「はい、これで大丈夫かな?」

 パシャ!

 俺は、黙ったまま、スマホのカメラで写真を撮った。

「お母様、喜ぶねぇ~。みゃーちゃん、ハイどうぞ」

 靴を脱ぐと俺は、銀田が差し出した花束を受け取らぬまま、廊下を歩き出した。

「あれ? みゃーちゃん? 大事な花束忘れてるよ~」

 ピタリと足を止めると、俺は一瞬だけ銀田を振り返って言った。

「……やる」

「……え?」

「…………」

「…………え!?」



「……ぇぇえぇえぇえぇえええええあああぁあッッ!!??」

 俺の背後で、銀田の断末魔のような雄叫びが炸裂していた。

 別に、最初からそのつもりで買ったわけではない……でも。

 玄関のドアを開けて、エプロン姿でお玉を持ったまま俺を出迎えた銀田の顔を見た途端、自然と手渡していた。

 まぁ……まぁ、母ちゃんには、別にまた買ってやればいっかぁ~ハハッ。

 俺は、苦笑いしながら、おでんのいい匂いが漂ってきている廊下の先を急いだ。



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