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第二章 間違いが、正解を教えてくれる。
最強女子!? 花恋ちゃん。
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たろさんからアドバイスをもらった俺は、さっそくその日の夜に、銀田に朝帰りの件について聞いてみることにした。
「…………あのさ」
いつものように、銀田のお手製の夕御飯を食べ終えると、思い切って俺は切り出した。
ところが、タイミング悪く、銀田のスマホに電話が掛かってきた。
俺の顔色を伺う銀田に、いいから先に電話に出るよう促すと、またもやまさかの、例の女の子からの依頼の電話だったのだ。
俺は思わず身体がビクッとなったが、銀田は特に気にもせずに約束を取り付けたようだった。
「みゃーちゃん、ごめんごめん、話の邪魔しちゃったね」
そう謝られたものの、俺はなかなか口を開けない。
「僕、今夜も依頼が入ったから、もう少ししたらまた出掛けてくるね」
「あのさ」
まるで込み上げて来たものが溢れ出るようだった。
「俺も行きてぇんだけど」
「……え?」
「だから、その依頼ってやつに、俺も一緒に行きたいんだけど」
「……え? …………でも」
「ダメなのかよ!?」
思いの他、デカイ声が出た。
「…………えっと」
「俺が、一緒だと何かマズいのかよ!?」
「……いや……僕は全然、大丈夫なんだけど……」
銀田は、不思議そうな顔で答えた。
「一応ちょっと、女の子に確認取るね」
そう言うと、銀田は、今さっき掛かってきた番号に折り返し電話を掛けていたようだった。
そして、俺は銀田の仕事に同行できることとなった。
「みゃーちゃんの手を煩わせるようなことじゃないんだけどなぁー」
銀田は、玄関を出るときも、エレベーター内でも、そんなことを、ぶつくさとボヤいていた。
けど、そんな銀田の心情なんかは、俺にとってはどーでもよく、俺の目的は、ほぼ依頼相手の女のことだった。
一体、どんな女で、何が目的なのか……どうして銀田は、わざわざ時間をその女のために割くのか、その理由を知りたかった。
どこに行くのかも分からないままだから、さすがに緊張した状態で、銀田とエントランスに出ると、突然、銀田が脳天気な声を上げた。
「花恋ちゃーん、お待たせー」
「ッッ!!??」
なぬぅッ!? まさかエントランスで待ち合わせしてたのか!? 予期せぬ事態に、俺の緊張はバグを起こしかけている。
俺の大パニックをよそに、銀田は、のんきに花恋ちゃんとやらに、ご丁寧に何度も手を振っているじゃあありませんか。
ふぐぬぬぬぬぬッ!?
俺は、どうにかして花恋ちゃんに、俺という存在がいることを知らしめようと、精一杯胸を張って歩いた。まぁ、全部、背の高い銀田に隠れて見えないんだけども!
とにかく、相手に舐められないようにするためには、最初が肝心だ。花恋ちゃんが、どう出てくるかは分からないけど、とにかく、俺は、彼女に宣言しなければならない。
俺が、銀田の…………銀田の!
ええい、銀田には! 俺という! ……なんていうか……。
……つまりだ!
俺は……銀田の…………。
ん?
銀田は、ちょうど去年のクリスマスの日に、俺が立っていたのと同じ場所に立っている女の子に、にこやかに声を掛けている。
そう、真冬にも関わらず履いたミニスカートから覗く太ももは、はち切れんばかりに筋肉隆々として、大きく開いた胸元は、今にも厚手ジャケットを弾き飛ばさんばかりに、パンプアップされている。美しく巻かれたブロンドのロングヘアーが、霞んでしまうほどに青々しく残るヒゲ跡が印象的な彼女…………彼女!?
いや、これは……どっからどう見ても…………。
「花恋ちゃん!」
その通り! 本人がそう言うのならば!
でも、俺の見立てでは、どうみても体重3桁超えのゴリゴリの……雄ゴリラだった。
「うひゃはははは!」
電話越しの、たろさんは、俺の気も知らずに、ひたすらに笑い転げていた。
「…………」
「いやー、ごめん、ごめんだって。いやまさか、マミリンが一緒に凸るとは思わなくて……ヒーッ、ひゃははは!」
いーさ、いーさ、好きなだけ笑えばいいさ!
「……で、たろさん。結局のところ、花恋ちゃんって、銀田の何なの?」
「いやー、銀田のっつーか、俺のダチだよ」
「えっ……たろさんの!?」
それもまた予想外すぎる。
「うん、そう。俺がたまに◯丁目に遊びに行くときの店のママね」
「まっ……ママァ!?」
パパの間違いではなくて!?
「マミリンには想像もつかないと思うけど、あの界隈じゃー、体重3桁以下の男はアウトオブ眼中だよ?」
「…………へぇー」
まっ、マジで?
「俺もさぁー、見た目こんなんだからさぁー、受けのゲイ友達作りたくってもさぁー、なかなか出来ないわけよ」
「え? 俺は?」
「マミリンは、親友だけど、ライバルでもあるじゃん? たまには、パーッと弱音吐いたり愚痴りたくなる日があるわけなんだよねー」
「そうなんだ」
それは驚きだった。と、同時に、嬉しくもあった。たろさんみたいな完璧に見える人にも、そんな俺みたいに弱気になるときがあるんだ……。
「で、花恋ちゃんなんだけど、◯丁目のメンツって、みんな3桁クラスなわけでしょ? そんなマンモス級のゲイの痴話喧嘩って、マジでやべーのよ」
「……だろうね」
「それで、夜の仕事なわけもあって、あの界隈での流血騒ぎとか、日常茶飯事なんだけど、ぶっちゃけ銀田のタワマンの中にある病院のお世話になってるんだよねぇー」
「……びょ、病院まであんの!?」
「もちろんあるある、内科に外科に接骨院に、耳鼻科に歯医者に何でも揃ってるねぇ」
「…………スゲェな」
「ほんとだよねー、しかも24時間営業なんだよ、銀田の厚意でね、みんな利用させてもらってんの」
「…………」
もはや、開いた口が塞がらない。
「なもんで、彼女たちは、誰一人として銀田になんか興味の欠片ももってないし、ただの困ったときに助けてくれる、もやしボーイとしか見てないから、マジで」
「……もやして」
ふっ、と思わず笑みが溢れてしまった。
「花恋ちゃんも、こないだお世話になったとか言ってたから、お礼言いに行っただけだと思うよー」
「うん、そうだったみたい」
「それにしても……まさかマミリンがここまでアイツのことを……」
「え?」
「ううん、何でもない」
たろさんが、何やら呟いた言葉は、よく聞き取れなかったけど、俺はようやく心が落ち着いて、納得することができたのだった。
「あっ、そうだ! ねぇねぇ、マミリン」
「ん? なぁに?」
「マミリンってさぁー、ツ◯ッターなんてやってんだねぇー、意外だなぁーって」
「あ、ごめん。もしかして通知がうるさかった?」
「いや、そんなことないけど、これって、本のアフィリエイトリンクかなんか貼ってんの?」
「そうだよ。俺は既読した本の本棚代わりに、ついでに貼ってるだけだけどね」
「へぇー! 結構ジャンル問わず、いろんなの読むんだね」
「そうかな?」
「なぁなぁ、俺も読んだ本とかツ◯ートしてみてもいい?」
「別にいいよ、元々が壁打ち状態だったし」
「わーい! ありがとう」
「あ、ちなみにイラストとか載せると、イイネいっぱいもらえるよ」
「へぇー、じゃあ、試しになんか載せてみっかなぁー」
「描いてみたら? めちゃくちゃ上手いんだし」
「へへっ、俺の絵、好き?」
「うん、超好き」
「サンキュー! ちなみにマミリン、『ボク恋』以外で好きな作品とかある?」
「別に『ボク恋』キャラでもいーんじゃん? ネットがざわつくかもだけど」
「えー、それはメンドイなぁ」
未だに、たろさんが『ボク恋』のイラストを担当していただなんて、信じられない……。でも、たろさんが描いたという金玉先生の同人誌のイラストの絵柄を見たら、一目瞭然だった。
「じゃあ、『デジャヴュ』は?」
「『デジャヴュ』?」
「うん、そう。今、めちゃくちゃブーム来てる人気アニメだから」
「りょーかい!」
そうして、たろさんの電話は切れた。さて、と、銀田が何してるか探しに行こうとしたところで、またスマホが鳴った。
それは、たろさんからのメールの知らせだった。
「ねぇねぇ、マミリンのツ◯ッターのハンドルネーム変えてもいい?」
俺は、「OK」とだけ送り、スマホをポケットにしまおうとしたが、またすぐにメールが届いた。
「ねぇねぇ、どんな名前にしたらいい??」
俺は、考えるのがめんどくさくなったから、適当に絵文字だけで返信しておいた。
「\(^o^)/」
「…………あのさ」
いつものように、銀田のお手製の夕御飯を食べ終えると、思い切って俺は切り出した。
ところが、タイミング悪く、銀田のスマホに電話が掛かってきた。
俺の顔色を伺う銀田に、いいから先に電話に出るよう促すと、またもやまさかの、例の女の子からの依頼の電話だったのだ。
俺は思わず身体がビクッとなったが、銀田は特に気にもせずに約束を取り付けたようだった。
「みゃーちゃん、ごめんごめん、話の邪魔しちゃったね」
そう謝られたものの、俺はなかなか口を開けない。
「僕、今夜も依頼が入ったから、もう少ししたらまた出掛けてくるね」
「あのさ」
まるで込み上げて来たものが溢れ出るようだった。
「俺も行きてぇんだけど」
「……え?」
「だから、その依頼ってやつに、俺も一緒に行きたいんだけど」
「……え? …………でも」
「ダメなのかよ!?」
思いの他、デカイ声が出た。
「…………えっと」
「俺が、一緒だと何かマズいのかよ!?」
「……いや……僕は全然、大丈夫なんだけど……」
銀田は、不思議そうな顔で答えた。
「一応ちょっと、女の子に確認取るね」
そう言うと、銀田は、今さっき掛かってきた番号に折り返し電話を掛けていたようだった。
そして、俺は銀田の仕事に同行できることとなった。
「みゃーちゃんの手を煩わせるようなことじゃないんだけどなぁー」
銀田は、玄関を出るときも、エレベーター内でも、そんなことを、ぶつくさとボヤいていた。
けど、そんな銀田の心情なんかは、俺にとってはどーでもよく、俺の目的は、ほぼ依頼相手の女のことだった。
一体、どんな女で、何が目的なのか……どうして銀田は、わざわざ時間をその女のために割くのか、その理由を知りたかった。
どこに行くのかも分からないままだから、さすがに緊張した状態で、銀田とエントランスに出ると、突然、銀田が脳天気な声を上げた。
「花恋ちゃーん、お待たせー」
「ッッ!!??」
なぬぅッ!? まさかエントランスで待ち合わせしてたのか!? 予期せぬ事態に、俺の緊張はバグを起こしかけている。
俺の大パニックをよそに、銀田は、のんきに花恋ちゃんとやらに、ご丁寧に何度も手を振っているじゃあありませんか。
ふぐぬぬぬぬぬッ!?
俺は、どうにかして花恋ちゃんに、俺という存在がいることを知らしめようと、精一杯胸を張って歩いた。まぁ、全部、背の高い銀田に隠れて見えないんだけども!
とにかく、相手に舐められないようにするためには、最初が肝心だ。花恋ちゃんが、どう出てくるかは分からないけど、とにかく、俺は、彼女に宣言しなければならない。
俺が、銀田の…………銀田の!
ええい、銀田には! 俺という! ……なんていうか……。
……つまりだ!
俺は……銀田の…………。
ん?
銀田は、ちょうど去年のクリスマスの日に、俺が立っていたのと同じ場所に立っている女の子に、にこやかに声を掛けている。
そう、真冬にも関わらず履いたミニスカートから覗く太ももは、はち切れんばかりに筋肉隆々として、大きく開いた胸元は、今にも厚手ジャケットを弾き飛ばさんばかりに、パンプアップされている。美しく巻かれたブロンドのロングヘアーが、霞んでしまうほどに青々しく残るヒゲ跡が印象的な彼女…………彼女!?
いや、これは……どっからどう見ても…………。
「花恋ちゃん!」
その通り! 本人がそう言うのならば!
でも、俺の見立てでは、どうみても体重3桁超えのゴリゴリの……雄ゴリラだった。
「うひゃはははは!」
電話越しの、たろさんは、俺の気も知らずに、ひたすらに笑い転げていた。
「…………」
「いやー、ごめん、ごめんだって。いやまさか、マミリンが一緒に凸るとは思わなくて……ヒーッ、ひゃははは!」
いーさ、いーさ、好きなだけ笑えばいいさ!
「……で、たろさん。結局のところ、花恋ちゃんって、銀田の何なの?」
「いやー、銀田のっつーか、俺のダチだよ」
「えっ……たろさんの!?」
それもまた予想外すぎる。
「うん、そう。俺がたまに◯丁目に遊びに行くときの店のママね」
「まっ……ママァ!?」
パパの間違いではなくて!?
「マミリンには想像もつかないと思うけど、あの界隈じゃー、体重3桁以下の男はアウトオブ眼中だよ?」
「…………へぇー」
まっ、マジで?
「俺もさぁー、見た目こんなんだからさぁー、受けのゲイ友達作りたくってもさぁー、なかなか出来ないわけよ」
「え? 俺は?」
「マミリンは、親友だけど、ライバルでもあるじゃん? たまには、パーッと弱音吐いたり愚痴りたくなる日があるわけなんだよねー」
「そうなんだ」
それは驚きだった。と、同時に、嬉しくもあった。たろさんみたいな完璧に見える人にも、そんな俺みたいに弱気になるときがあるんだ……。
「で、花恋ちゃんなんだけど、◯丁目のメンツって、みんな3桁クラスなわけでしょ? そんなマンモス級のゲイの痴話喧嘩って、マジでやべーのよ」
「……だろうね」
「それで、夜の仕事なわけもあって、あの界隈での流血騒ぎとか、日常茶飯事なんだけど、ぶっちゃけ銀田のタワマンの中にある病院のお世話になってるんだよねぇー」
「……びょ、病院まであんの!?」
「もちろんあるある、内科に外科に接骨院に、耳鼻科に歯医者に何でも揃ってるねぇ」
「…………スゲェな」
「ほんとだよねー、しかも24時間営業なんだよ、銀田の厚意でね、みんな利用させてもらってんの」
「…………」
もはや、開いた口が塞がらない。
「なもんで、彼女たちは、誰一人として銀田になんか興味の欠片ももってないし、ただの困ったときに助けてくれる、もやしボーイとしか見てないから、マジで」
「……もやして」
ふっ、と思わず笑みが溢れてしまった。
「花恋ちゃんも、こないだお世話になったとか言ってたから、お礼言いに行っただけだと思うよー」
「うん、そうだったみたい」
「それにしても……まさかマミリンがここまでアイツのことを……」
「え?」
「ううん、何でもない」
たろさんが、何やら呟いた言葉は、よく聞き取れなかったけど、俺はようやく心が落ち着いて、納得することができたのだった。
「あっ、そうだ! ねぇねぇ、マミリン」
「ん? なぁに?」
「マミリンってさぁー、ツ◯ッターなんてやってんだねぇー、意外だなぁーって」
「あ、ごめん。もしかして通知がうるさかった?」
「いや、そんなことないけど、これって、本のアフィリエイトリンクかなんか貼ってんの?」
「そうだよ。俺は既読した本の本棚代わりに、ついでに貼ってるだけだけどね」
「へぇー! 結構ジャンル問わず、いろんなの読むんだね」
「そうかな?」
「なぁなぁ、俺も読んだ本とかツ◯ートしてみてもいい?」
「別にいいよ、元々が壁打ち状態だったし」
「わーい! ありがとう」
「あ、ちなみにイラストとか載せると、イイネいっぱいもらえるよ」
「へぇー、じゃあ、試しになんか載せてみっかなぁー」
「描いてみたら? めちゃくちゃ上手いんだし」
「へへっ、俺の絵、好き?」
「うん、超好き」
「サンキュー! ちなみにマミリン、『ボク恋』以外で好きな作品とかある?」
「別に『ボク恋』キャラでもいーんじゃん? ネットがざわつくかもだけど」
「えー、それはメンドイなぁ」
未だに、たろさんが『ボク恋』のイラストを担当していただなんて、信じられない……。でも、たろさんが描いたという金玉先生の同人誌のイラストの絵柄を見たら、一目瞭然だった。
「じゃあ、『デジャヴュ』は?」
「『デジャヴュ』?」
「うん、そう。今、めちゃくちゃブーム来てる人気アニメだから」
「りょーかい!」
そうして、たろさんの電話は切れた。さて、と、銀田が何してるか探しに行こうとしたところで、またスマホが鳴った。
それは、たろさんからのメールの知らせだった。
「ねぇねぇ、マミリンのツ◯ッターのハンドルネーム変えてもいい?」
俺は、「OK」とだけ送り、スマホをポケットにしまおうとしたが、またすぐにメールが届いた。
「ねぇねぇ、どんな名前にしたらいい??」
俺は、考えるのがめんどくさくなったから、適当に絵文字だけで返信しておいた。
「\(^o^)/」
応援ありがとうございます!
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