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第二章 間違いが、正解を教えてくれる。

だいりく推しの山田太郎(27歳)。

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「みゃーちゃん、こっちこっち!」

 俺は、たろさんと、母校の最寄り駅構内のカフェで待ち合わせをした。

 その駅ビルに入っているジャンプ堂という本屋で、たろさんがバイトをしているから、お昼休憩に落ち合うことになったのだ。

「たろさん、久しぶり。なに、飲んでるの?」

「ソイラテ、ここの旨いよ」

「じゃー、俺も同じの買ってこようかな」

「昼はどうする? 食べてきた?」

「あ、いや。たろさんと食べたいなと思って」

「了解、そんじゃ一緒に頼もうか」

 俺とたろさんは、それぞれオムライスとサンドウィッチセットを注文した。

 先に受け取ったソイラテを飲んだら、たろさんの言う通り、とても美味しい。

「そんじゃ忘れない内に渡しちゃおうかな」

 そう言うと、たろさんは上着のポケットから、スマホを取り出した。俺は、一瞬キョトンとしたが、すぐにそれが俺のスマートフォンだと気が付いた。

「……えっ」

「はい、みゃーちゃんに返すね」

「……えっと……」

「あれ? 違うの?」

「…………」

「あれー? 俺ぁ、てっきりスマホを返して欲しくなったのかと」

「……いや……スマホはまだ……」

「……ふぅん、で?」

「……え?」

「今日はどしたん?」

 たろさんは、俺の話を聴く態勢に入ったのか、サンドウィッチを大きな口で頬張り始めた。だが、俺は、なかなか話の糸口を見つけられずに、何も食べてないのに、モゴモゴと口を動かすばかりだった。

「……ふえっとぉー、マミリンふぁ、なんか話したいこふぉはぁ、あるんふぁよね?」

 あんまりにも俺が、黙りこくっているせいで、ついには、たろさんは口に物を入れたまま催促しはじめたようだ。

「……あの……えっと……銀田のことで……」

「銀田ぁ?」

 たろさんは、完全に飲み込むまで少し間を置いた。

「そいや、アイツ、続編でも書くつもりなんかね?」

「……えっ!?」

「いやなんか、急にさぁー、俺んとこの本屋に、置いてくれって在庫送り付けてきてさぁー」

「エェッ!? 『朝から晩まで僕のニャンことズッ婚バッ婚』をですかぁあ!?」

「んなわけあるかい! てか、マミリン、ちょっと声デカすぎるって」

 そう言いつつ、たろさんは口に手を当て、さも面白くてたまらないとでも言うように、肩を揺らして笑っている。

「……ご、ごめん」

じゃなくって、『ボク恋』だよ『ボク恋』」

「ぇえええぇエエエッッ!?」

「なー、びっくりだよな。って言っても、もうとっくに絶版だろうから、ありゃー、銀田の私物だったんかなァー」

「……『ボク恋』の……続編……!?」

「マミリンは、なんか聞いてる?」

「……いや、毎日顔は合わせてるけど、一言も……」

「そっかぁー、もしそうだとしたら、真っ先にマミリンに伝えそうだなぁと思ったんだけどって……ん!?」

「……え?」

「マミリン……まだ銀田の家に居んの!?」

「……まぁ」

「まぁって……ええ!? マジで!? なんで!?」

「なんでって……」

 俺はまた口ごもった。

「……きのう」

「昨日?」

「……ぎ……アイツが朝まで帰ってこなくて……」

「……? あー、仕事でだろ?」

「…………」

「……でも、朝までかかったのか……」

「……なんの仕事?」

「……マミリン、もしかして銀田のことが気になってる?」

「…………」

「ちなみに、大吉キュンは、マミリンのこと気になりまくってるみたいデスヨ」

「……え?」

「俺としては、一刻も早くスマホを見てもらいたい気持ちでっす」

「…………」

「マミリン今なら、大吉キュンのこと落とせるかもよ?」

「…………」

「マジで」

「…………」

「……ダメかぁああああああ」

「……えっと」

「……え!?」

「俺が、言うのもアレだけど、なんでそんなに俺と山田をくっつけようとするのかなって……」

「え? だって、俺、推しだから」

「……だいりく?」

カップルのことよ」

「…………ハァ!?」

「俺にしてみりゃ、2人共完全に両片想いすれ違いCPカップルでしか無いんだわ」

「……いや、たろさん……仮にもあなた、山田に激重片想いしてる身でそれって……」

「いや、ソレはソレ、コレはコレなのよ!」

「……はぁ」

「それに、こないだ大吉キュン久しぶりに、うちの本屋来てたよ」

「……え」

 さすがにそれには、驚いた。

「なんかもう……やつれ過ぎてて見てらんなかったよ……思わず話しかけちまったもん」

「え、マジで?」

 なぬ、たろさんが、山田と初接触しただと!?

「うん、このまま俺が、大吉キュンのこと奪っちゃおっかなぁーなぁんて」

 俺は、それには何も答えずにただ笑った。俺に言わせりゃ、大好きな山田と、大好きなたろさん。つまり、推しであるも同然だったからだ。

「あっそうそう、これだけは言っておくけど」

 たろさんは、休憩時間の残りを腕時計で確認しながら断言した。

「俺の知る限り、銀田がマミリンのこと裏切るような真似してるのなんか一度も見たこと無いからね。その朝帰りの件も、絶対ずぇっんずえん心配するようなことじゃないから」

「……うん」

 それが今日、俺が、たろさんから1番聞きたかったことだった。

「怖がってないで、ちゃんと本人に聞いてみな? アイツ、超喜ぶから。その後の身の安全は保証できないけど」

 そう言って、たろさんは「うわははは!」と豪快に笑った。

 それから、休憩時間が終わったからと、たろさんは、俺に謎のウィンクを残して先に店を出て行った。

 ようやくホッとした俺を、一切、口を付けられていないままのオムライスが待っていた。

 それを見て俺は、そういえば朝からまだ何も食べていなかったことを思い出したのだった。

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