36 / 48
第二章 間違いが、正解を教えてくれる。
こうして僕らはスマホ交換した。
しおりを挟む
まさか銀田に子供の頃から文才があったとは……。
俺は、自分の容姿をクラスメイトにからかわれていることに頭がいっぱいで、他人の賞になんか、これっぽっちも興味がなかったからなぁ。
「そんで、試しにコイツに、マミリンとの夢小説書かせてみたら、これがまぁー予想外に良作だったから、才能あんなぁと思って」
「…………夢……小説」
知ってるよ、あれだろ? アニメキャラと夢主(主に読み手)との妄想小説のことだろ?
ってか、金太真琴先生の処女作、夢小説だったのか……。しかも俺との(自主規制)。
「それで、せっかくだから、どうにかコイツにラノベ書かせらんねーかなぁーって、マミリンを自キャラに落とし込む方法とか教えながら書かせたら、それがまさかの……」
「……新人賞受賞」
「そうそう。こっからは、俺よりマミリンのが詳しいかもな」
「…………あの、」
俺には、どうしても確認しておかねばならないことがあった。
「うん?」
「……俺が、宮内杏だとして……『ボク恋』での銀田のキャラって誰なの?」
「いやー、それは……分かるデショ?」
…………まっ……まさか!?
「「銀乃昇」」
たろさんと、俺で、ハモった。
「んなっ!? んじゃ、コイツの書いてる夢小説、先生と生徒の禁断ラブじゃねーか!」
「あ、それは大丈夫。同人誌は、大人になったマミリンの設定だから」
「大人になったマミリンてなんじゃい!?」
いやー……マジで? えっと、ちょっとだけ整理していい?? えっとぉ、俺の推し先生が俺の推しでぇー、俺が俺の推しの夢主でぇー、俺のトラウマ同級生が俺の推し先生でぇー、俺のハヂメテの相手がぁー、推しでぇー? ん? 合ってる??
「……たろさん、ちょっと……頭爆発しそうなんで……帰って寝たいです……」
「そうだよなぁー、ヨシ! ほら、お前は早く車の手配しとけよ」
たろさんに背中をバンバン叩かれて、飛び上がるように銀田が、どこかに電話を掛け始めた。
「……あと、たろさん」
俺は、やっとの思いで、銀田と部屋を出ようとしている、たろさんを呼び止めた。
「ん? どした??」
「……お願い、してもいい?」
俺が、そう呟くと、たろさんは、ドアのノブから手を離し、ゆっくりと俺の横たわるソファーまで戻ってくると、しゃがみ込んで俺の手を握った。
「うん、なぁに??」
「……あの、俺のスマホ……預かっておいて欲しい」
「…………いいけど」
たろさんは、それ以上は何も言わなかった。
「あ、じゃあ、俺のと暫く交換しておこっか?」
「……いーの?」
「もちろん。でもね、マミリン、これだけは忘れないで欲しいんだけど、」
たろさんは、俺を握る手に、ぎゅっと力を込めた。
「マミリン、誰だって、間違えるんだよ」
「…………」
「俺にしたってそうだし、銀田なんか、あいつ、いつも間違えしか起こさないしな」
そう言いながら「ハハハ」と笑っている。
「間違えないヤツなんて、この世に一人もいないよ」
「……うん」
「でもね、マミリン、1つだけ絶対に間違えちゃいけないこともあるよ」
「……?」
「自分の気持ちだよ」
「…………」
俺は、返事の代わりに小さく笑ってみせた。
そうして、俺は、未だに怖くて開けない自分のスマホを、たろさんに託した。
いや、それにしたってさ……ちょっと、かなり……良い男すぎんだろ……。
あれ? 俺と、たろさんって、確か恋敵でしたよね? ちょっと、確認したくなっちゃうよ。
こんな、自分の恋のライバルを蹴落とせる絶好のチャンスなのに、何励ましちゃってくれてんだ、あの人。お母さんかよ、母性の塊か?
でも、たろさんは慰めてくれたけど、俺は当分スマホを返してもらうつもりは無かった。
もし、本当に、そんな日が来たのなら、それは俺が完全に山田への気持ちを整理できたとき、そのときだけだ。
もし、この気持ちに終止符が打てる日が来たのなら、そのときには、山田に電話を掛けようと思う。
まぁ、そんな日、来るはずないけども……。
俺はきっと、ジメジメと一生この情けない気持ちと悲しい思い出を引きずりながら、一人寂しく生きていくのだろう。
そんな、ネガティブなことばかり、考えていたせいだろうか。
俺は、その日、銀田のタワマンに帰ってきて間もなく、熱を出してしまった。
銀田の慌てようは、そりゃあ笑えてしまうほどで、スポーツドリンクを慌てて買いに走ったり、みかんの缶詰とかいろいろ買ってきてくれたけど、俺は全く食欲が無かった。
子供のとき以来とでもいうような高熱は、上がったり下がったりを繰り返しながら、その後、数日続いて、何度も銀田に病院に行くよう説得されたが、俺には、そんなことよりも、ただ、熱にうなされながらでも、ずっと眠っていたかった。
咳も頭痛もなく、ただバカみたいに熱だけが出る、子供の知恵熱みたいな風邪だった。
そして、悔しいことに、俺は、銀田が俺に無断で取った職場の1週間の有給をきっちり全て使い切った頃に、ようやく回復したのだった。
悔しいとは言っても、銀田がその1週間、俺のそばを片時も離れずに、何日か寝ずの看病をしてくれたことを、俺は知っている。
そして、俺には、目の前で必死になって看病をしてくれている、この男が、自分の尊敬する推し作家であるという事実が、この高熱の火種の1つであるということも、もちろん分かっていた。
この熱さえ下がってしまえば、銀田への、よく分からない、この感情も、下半身の疼きも、全部一緒に消えてしまうだろうと思っていた。
全ては、風邪のせいで。熱が下がれば、俺は元の俺に戻っているはずだ。
また、毎朝、ぎゅうぎゅうの満員電車で通勤し、冴えない安いスーツに身を包んで、ペコペコと営業スマイルで頭を下げまくるのだ。
苦手な威圧的な上司の機嫌を取りつつ、当たり障りのない適度な距離感で事務の女の子たちに笑顔をふりまく。
それでも、俺は、この広告代理店の仕事が好きだ。
そして、この熱も、疼きも、失恋も、全てを仕事にぶつけてしまえばいい。
俺は、自分の容姿をクラスメイトにからかわれていることに頭がいっぱいで、他人の賞になんか、これっぽっちも興味がなかったからなぁ。
「そんで、試しにコイツに、マミリンとの夢小説書かせてみたら、これがまぁー予想外に良作だったから、才能あんなぁと思って」
「…………夢……小説」
知ってるよ、あれだろ? アニメキャラと夢主(主に読み手)との妄想小説のことだろ?
ってか、金太真琴先生の処女作、夢小説だったのか……。しかも俺との(自主規制)。
「それで、せっかくだから、どうにかコイツにラノベ書かせらんねーかなぁーって、マミリンを自キャラに落とし込む方法とか教えながら書かせたら、それがまさかの……」
「……新人賞受賞」
「そうそう。こっからは、俺よりマミリンのが詳しいかもな」
「…………あの、」
俺には、どうしても確認しておかねばならないことがあった。
「うん?」
「……俺が、宮内杏だとして……『ボク恋』での銀田のキャラって誰なの?」
「いやー、それは……分かるデショ?」
…………まっ……まさか!?
「「銀乃昇」」
たろさんと、俺で、ハモった。
「んなっ!? んじゃ、コイツの書いてる夢小説、先生と生徒の禁断ラブじゃねーか!」
「あ、それは大丈夫。同人誌は、大人になったマミリンの設定だから」
「大人になったマミリンてなんじゃい!?」
いやー……マジで? えっと、ちょっとだけ整理していい?? えっとぉ、俺の推し先生が俺の推しでぇー、俺が俺の推しの夢主でぇー、俺のトラウマ同級生が俺の推し先生でぇー、俺のハヂメテの相手がぁー、推しでぇー? ん? 合ってる??
「……たろさん、ちょっと……頭爆発しそうなんで……帰って寝たいです……」
「そうだよなぁー、ヨシ! ほら、お前は早く車の手配しとけよ」
たろさんに背中をバンバン叩かれて、飛び上がるように銀田が、どこかに電話を掛け始めた。
「……あと、たろさん」
俺は、やっとの思いで、銀田と部屋を出ようとしている、たろさんを呼び止めた。
「ん? どした??」
「……お願い、してもいい?」
俺が、そう呟くと、たろさんは、ドアのノブから手を離し、ゆっくりと俺の横たわるソファーまで戻ってくると、しゃがみ込んで俺の手を握った。
「うん、なぁに??」
「……あの、俺のスマホ……預かっておいて欲しい」
「…………いいけど」
たろさんは、それ以上は何も言わなかった。
「あ、じゃあ、俺のと暫く交換しておこっか?」
「……いーの?」
「もちろん。でもね、マミリン、これだけは忘れないで欲しいんだけど、」
たろさんは、俺を握る手に、ぎゅっと力を込めた。
「マミリン、誰だって、間違えるんだよ」
「…………」
「俺にしたってそうだし、銀田なんか、あいつ、いつも間違えしか起こさないしな」
そう言いながら「ハハハ」と笑っている。
「間違えないヤツなんて、この世に一人もいないよ」
「……うん」
「でもね、マミリン、1つだけ絶対に間違えちゃいけないこともあるよ」
「……?」
「自分の気持ちだよ」
「…………」
俺は、返事の代わりに小さく笑ってみせた。
そうして、俺は、未だに怖くて開けない自分のスマホを、たろさんに託した。
いや、それにしたってさ……ちょっと、かなり……良い男すぎんだろ……。
あれ? 俺と、たろさんって、確か恋敵でしたよね? ちょっと、確認したくなっちゃうよ。
こんな、自分の恋のライバルを蹴落とせる絶好のチャンスなのに、何励ましちゃってくれてんだ、あの人。お母さんかよ、母性の塊か?
でも、たろさんは慰めてくれたけど、俺は当分スマホを返してもらうつもりは無かった。
もし、本当に、そんな日が来たのなら、それは俺が完全に山田への気持ちを整理できたとき、そのときだけだ。
もし、この気持ちに終止符が打てる日が来たのなら、そのときには、山田に電話を掛けようと思う。
まぁ、そんな日、来るはずないけども……。
俺はきっと、ジメジメと一生この情けない気持ちと悲しい思い出を引きずりながら、一人寂しく生きていくのだろう。
そんな、ネガティブなことばかり、考えていたせいだろうか。
俺は、その日、銀田のタワマンに帰ってきて間もなく、熱を出してしまった。
銀田の慌てようは、そりゃあ笑えてしまうほどで、スポーツドリンクを慌てて買いに走ったり、みかんの缶詰とかいろいろ買ってきてくれたけど、俺は全く食欲が無かった。
子供のとき以来とでもいうような高熱は、上がったり下がったりを繰り返しながら、その後、数日続いて、何度も銀田に病院に行くよう説得されたが、俺には、そんなことよりも、ただ、熱にうなされながらでも、ずっと眠っていたかった。
咳も頭痛もなく、ただバカみたいに熱だけが出る、子供の知恵熱みたいな風邪だった。
そして、悔しいことに、俺は、銀田が俺に無断で取った職場の1週間の有給をきっちり全て使い切った頃に、ようやく回復したのだった。
悔しいとは言っても、銀田がその1週間、俺のそばを片時も離れずに、何日か寝ずの看病をしてくれたことを、俺は知っている。
そして、俺には、目の前で必死になって看病をしてくれている、この男が、自分の尊敬する推し作家であるという事実が、この高熱の火種の1つであるということも、もちろん分かっていた。
この熱さえ下がってしまえば、銀田への、よく分からない、この感情も、下半身の疼きも、全部一緒に消えてしまうだろうと思っていた。
全ては、風邪のせいで。熱が下がれば、俺は元の俺に戻っているはずだ。
また、毎朝、ぎゅうぎゅうの満員電車で通勤し、冴えない安いスーツに身を包んで、ペコペコと営業スマイルで頭を下げまくるのだ。
苦手な威圧的な上司の機嫌を取りつつ、当たり障りのない適度な距離感で事務の女の子たちに笑顔をふりまく。
それでも、俺は、この広告代理店の仕事が好きだ。
そして、この熱も、疼きも、失恋も、全てを仕事にぶつけてしまえばいい。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-
悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡
本編は完結済み。
この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^)
こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡
書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^;
こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる