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第二章 間違いが、正解を教えてくれる。
食い下がる男、銀田真(24歳)。
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なぜだか、それからザギンの俺に対する態度は、よそよそしいものになっていった。
念のために、ザギンから借りたスマホで職場に謝りの連絡を入れてみると、俺は家庭の事情により1週間の休みを取ることになっていた。
就職してから今日まで、一度たりとて遅刻もズル休みもしたことのない実績があるせいか、上司からは何のお咎めもないようで、とりあえずホッとした。
それにしたって、家庭の事情ってなんだよ、小学生じゃあるまいし。他にもっとマシな言い訳思いつかなかったのかよ……と、内心でザギンに苦言を呈したが、初めてのセックス疲れで先に寝落ちした俺の代わりに、勤務時間前に職場に連絡を入れといてくれたのは、正直グッジョブすぎた。
無断欠勤ほど、イメージダウンになる休み方はないだろう。つまり俺は、ザギンに感謝しなくっちゃいけないわけだ。
俺はこの際だから、傷心旅行と称して、宣言通りに1週間会社を休むことにした。
まぁ、現実には旅行なんぞに行くわけもなく、ただの失恋したオッサンの長期休暇に過ぎないんだけどもね。
気を取り直して、ザギンに世話になった礼でも言って、自宅に帰ろうとすると、ザギンは例のごとく俺を呼び捨てにしつつ、かなり強引な物言いで、あーだこーだと捲し立ててきて、結局は、ザギンのマンションに居座ることを強要されてしまった。
そんなこと言ったって、自宅は賞味期限が今日までの刺身が冷蔵庫に入れっぱなしだし、ゴミだって捨てに行かないとならない。
俺は、あれやこれやと家に帰るための理由やこじつけを、とにかくアピールしまくったのだが、もちろん全てが逆効果になるばかりだった。
「もうどこにも行くな、陸人!」
「1週間でいいから、行くな!」
「1日だけでいいから!」
「お金あげるから!」
……俺は、家に帰るのを諦めた。
意外にも、俺に与えられたのは客室用の一室だった。てっきり、ザギンの寝室か、あの部屋での寝泊まりを強要されるかと思いきや、なんと優雅に一人部屋を使わせて貰えたのだ。
おかげで、その日の夜は、久しぶりにぐっすりとオナニーもせずに、よく眠ることができた。
ちなみにザギンは、まだ具合でも悪いのか、指一本たりとて、俺に触れてこようとはしなかった。
翌朝、昼前くらいに自然に目が覚めると、サイドテーブルの上に、俺のスマホが置かれていた。
そろそろ電源も無くなってる頃かもなと、手に取ると、なんと正常にホーム画面が映し出されているから、思わず声を上げて驚いてしまった。
てっきり壊れたものと思って、適当にほっぽって置いたから、ザギンがわざわざこの部屋まで持ってきたのだろう。
おそるおそるロック画面を解除すると、山田から本当にラインと電話が来ていた。
ラブホで別れた日の朝方にラインが先に来ていて、その数時間後に電話の着信履歴が1件残っていた。
ラインの内容は、
「大丈夫か?」
と、一言だけだったから、既読にしないで確認することができた。
一体どんな罵詈雑言や呪いの言葉が書かれているだろうかと、戦々恐々としていた俺は完全に肩透かしをくらっていた。
その言葉からは、どう斜めに読み取っても、怒りは微塵も感じられない。
あの、いつもの、淡々として丁寧な山田そのものに思えた。
大丈夫かって……こっちのセリフなんだけどな……。
俺はもう一度ベッドの上に横になって、スマホを手にしたまま、そのライン画面をぼんやりと眺めていた。
何度か、既読にしようかと心が揺れたが、結局は思いとどまった。
まだ、何一つとして山田に対しての言葉を用意できていなかったからだ。
初恋で、親友で、全てを失う覚悟で、関係を迫った翌日だというのに、身体中に別の男の感触がまだ残ったままの状態の俺に、一体何を言えるだろうか……。
もはや謝罪することすら、裏切り行為のように思えてくる。
俺は、腹の底から出たような長いため息を一つ吐くと、逃げるように目を閉じた。
どうやらそのまま、ウトウトと少し眠ってしまっていたらしい。
「……いいご身分だな……」
我ながら自分に心底うんざりしていると、スマホが、またチカチカと光っているのに気がついた。
瞬間的に手に取ると、たった今、着信履歴を残したのは、山田ではなくて、たろさんだった。
やっぱり、どうしたって少しがっかりしてしまうのだけれど、その名前を見ただけで、ものすごいスピードで安堵に全身が包まれていくのを感じる。
「……こんなん、もはや母親じゃねぇか……」
俺は、なぜだか無性に泣きそうになって、鼻をツーンとさせながら、へへへと笑った。
念のために、ザギンから借りたスマホで職場に謝りの連絡を入れてみると、俺は家庭の事情により1週間の休みを取ることになっていた。
就職してから今日まで、一度たりとて遅刻もズル休みもしたことのない実績があるせいか、上司からは何のお咎めもないようで、とりあえずホッとした。
それにしたって、家庭の事情ってなんだよ、小学生じゃあるまいし。他にもっとマシな言い訳思いつかなかったのかよ……と、内心でザギンに苦言を呈したが、初めてのセックス疲れで先に寝落ちした俺の代わりに、勤務時間前に職場に連絡を入れといてくれたのは、正直グッジョブすぎた。
無断欠勤ほど、イメージダウンになる休み方はないだろう。つまり俺は、ザギンに感謝しなくっちゃいけないわけだ。
俺はこの際だから、傷心旅行と称して、宣言通りに1週間会社を休むことにした。
まぁ、現実には旅行なんぞに行くわけもなく、ただの失恋したオッサンの長期休暇に過ぎないんだけどもね。
気を取り直して、ザギンに世話になった礼でも言って、自宅に帰ろうとすると、ザギンは例のごとく俺を呼び捨てにしつつ、かなり強引な物言いで、あーだこーだと捲し立ててきて、結局は、ザギンのマンションに居座ることを強要されてしまった。
そんなこと言ったって、自宅は賞味期限が今日までの刺身が冷蔵庫に入れっぱなしだし、ゴミだって捨てに行かないとならない。
俺は、あれやこれやと家に帰るための理由やこじつけを、とにかくアピールしまくったのだが、もちろん全てが逆効果になるばかりだった。
「もうどこにも行くな、陸人!」
「1週間でいいから、行くな!」
「1日だけでいいから!」
「お金あげるから!」
……俺は、家に帰るのを諦めた。
意外にも、俺に与えられたのは客室用の一室だった。てっきり、ザギンの寝室か、あの部屋での寝泊まりを強要されるかと思いきや、なんと優雅に一人部屋を使わせて貰えたのだ。
おかげで、その日の夜は、久しぶりにぐっすりとオナニーもせずに、よく眠ることができた。
ちなみにザギンは、まだ具合でも悪いのか、指一本たりとて、俺に触れてこようとはしなかった。
翌朝、昼前くらいに自然に目が覚めると、サイドテーブルの上に、俺のスマホが置かれていた。
そろそろ電源も無くなってる頃かもなと、手に取ると、なんと正常にホーム画面が映し出されているから、思わず声を上げて驚いてしまった。
てっきり壊れたものと思って、適当にほっぽって置いたから、ザギンがわざわざこの部屋まで持ってきたのだろう。
おそるおそるロック画面を解除すると、山田から本当にラインと電話が来ていた。
ラブホで別れた日の朝方にラインが先に来ていて、その数時間後に電話の着信履歴が1件残っていた。
ラインの内容は、
「大丈夫か?」
と、一言だけだったから、既読にしないで確認することができた。
一体どんな罵詈雑言や呪いの言葉が書かれているだろうかと、戦々恐々としていた俺は完全に肩透かしをくらっていた。
その言葉からは、どう斜めに読み取っても、怒りは微塵も感じられない。
あの、いつもの、淡々として丁寧な山田そのものに思えた。
大丈夫かって……こっちのセリフなんだけどな……。
俺はもう一度ベッドの上に横になって、スマホを手にしたまま、そのライン画面をぼんやりと眺めていた。
何度か、既読にしようかと心が揺れたが、結局は思いとどまった。
まだ、何一つとして山田に対しての言葉を用意できていなかったからだ。
初恋で、親友で、全てを失う覚悟で、関係を迫った翌日だというのに、身体中に別の男の感触がまだ残ったままの状態の俺に、一体何を言えるだろうか……。
もはや謝罪することすら、裏切り行為のように思えてくる。
俺は、腹の底から出たような長いため息を一つ吐くと、逃げるように目を閉じた。
どうやらそのまま、ウトウトと少し眠ってしまっていたらしい。
「……いいご身分だな……」
我ながら自分に心底うんざりしていると、スマホが、またチカチカと光っているのに気がついた。
瞬間的に手に取ると、たった今、着信履歴を残したのは、山田ではなくて、たろさんだった。
やっぱり、どうしたって少しがっかりしてしまうのだけれど、その名前を見ただけで、ものすごいスピードで安堵に全身が包まれていくのを感じる。
「……こんなん、もはや母親じゃねぇか……」
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