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第二章 間違いが、正解を教えてくれる。

そして、俺は目が覚めた。

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 ザギンのせいで、風呂場で気持ち良すぎて意識が飛びかかった俺だったが、目を覚ますとベッドの上だった。

 いつの間にか服も着替えさせられている。

 どうやら、風呂場でウトウトしながら眠ってしまっていたらしい。

 自分の着ていた安っぽい女の服の替わりに、シルクみたいにやたらと肌触りの良いパジャマを身に着けていた。

 まぁ、裸じゃなかっただけ、感謝せねばならないだろう。

 てっきり隣で寝てると思いきや、ザギンの姿はどこにも見当たらない。

 ベッドも、先ほど、くんずほぐれつしたベッドとは違うし、サイズも一回り小さめに感じた。そして、そこかしこにザギンの匂いが充満している。

 確かめるまでもなく、ここは、ザギンの寝室に間違いないだろう。

 ザギンの匂いなんて、覚えたくもなかったが、自分が散々したこと、されたことを思えば……致し方がない。

 ……それにしたって屈辱的だ、何が1番情けないかって、ザギンの匂いに包まれているだけで、チ◯コが反応しやがる……。

 まぁ、ぐっすり寝て身体が回復した証拠だろう……うん、いい風に考えていこう、な!

 そんなこんなで、独りごちて俺はザギンの寝室を出た。

 部屋に時計が無かったせいで、今が一体何時なのかさっぱり分からない。

 ただ一つだけ確かなのは、俺が会社を無断欠勤していることだけだ。

 さすがに、まだ夜にはなってないとは思うけど、それも外の景色を確認しなければ確信は持てない。

 つまり俺には、ぐっすり眠った体感だけが残っていた。

 外を見るには、とりあえずリビングに行くのが1番早かろうと、俺はまた長い廊下をひたすら歩き続けた。

 リビングドアを開けると、てっきり居るだろうと思っていたザギンの姿は見当たらず、その代わりに先ほど尻を押し付けられていた窓ガラスに、飛び散った水滴の乾いたあとを見つけた。

「…………」

 自分の吹いた潮の痕なんて、そうそうお目にかかれるものではないけど、まかり間違えても寝起きに見るもんじゃない。なんなら性欲は賢者タイム以上に冷めきっている……はずだ。

 肝心の時刻だが、外の景色から察するに、まだ夕方にもなっていないくらいの時間帯に思えた。

 想定していたほどは寝こけていなかったことに安堵しつつも、やはりリビングにも時計が見当たらず、正確な時間は分からなかった。

「いや、どんだけ生活感無いんだっつの」

 俺は、軽くため息をつくと、はた、とあることに気が付いた。

 ……そういえば、俺の鞄ってどこだっけ?

 あまりにも非現実的なことばかり、立て続けに起こったせいで、自分の手荷物のことなんか、すっかり忘れてしまっていたのだ。

 まぁ、心当たりがあるといえば、最初のだけだった。

 俺はなんだか、非常にバツの悪い気持ちで、その部屋へと急いだ。

 とりあえず、会社に連絡を入れないといけない……でも、なんて? 無断欠勤してすみませんでした、とでも言うか……? それとも……。「退職」という二文字が自然と頭に思い浮かんだ。

 山田と、ああなってしまった以上、もう山田との仕事を進めるのは無理だろう……。最悪、反故ほごにされたっておかしくない。

「…………」

 山田の引きつった顔を思い出した。なんだか随分久しぶりに山田のことを考えたような気がする。

 そのことを不思議に思って少し首を傾げながら、俺はザギンに一番最初に連れ込まれた部屋のドアノブに手を掛けた。

 もしかして山田から連絡でも来てるだろうか、などとぼんやり思いながら開けた部屋に、ザギンが直立不動で突っ立っていたので、思わずビクッとなってしまう。

「……なっ、なんだよ……お前こんなとこで一体何やって……」

 よく見ると、ザギンの足下に転がっているのは、俺の鞄だった。そして、強張った顔でザギンが凝視しているそれは……俺のスマホじゃねぇええか!

「……おまっ! ちょっ! 犯罪だぞ」

 暗証番号が設定してあるとはいえ、俺は慌ててザギンの元に駆け寄り、ふんだくるようにしてスマホを奪い返した。

「……あ、別に盗もうとか思ってないです……」

 さすがに俺の怒りを感じ取ったのか、ザギンは、途端に困ったような顔をして言ってきた。

「……ったりめーだろ!」

 ……ゆ、油断もすきも無ぇーな! 俺は、うなじにじんわりと汗が滲むのを感じつつ、スマホを確認した。

 すると、持ち主の俺でさえ、1度も見たことのない、英数字が羅列られつし続ける、謎の表示画面になっていた。

「!? ッテメェ! 思いっきし壊してんじゃねーか!」

「……こ、壊してないです」

「じゃ、なんだよこの画面!?」

「……ロック画面解除しようとしてたら……急に」

「いや、なんねーだろ! そんなことある!?」

「……ごめんなさい……」

 一体、この男のどこまでが嘘で、何が本当なのかは、分からないが、とにかく俺のスマホは逝ってしまったらしい。

 謎のカラフルな光を放つスマホを握りしめたまま、俺は思わずうつむいてしまった。

 これじゃもう、確認することができない。

 急に静かになった俺の様子に、何かをはかりかねているような間の後で、静かにザギンは呟いた。

「……連絡、来てたよ」

 その言葉の主語も分からないままに、俺は反射的に顔を上げた。

「……来てた……山田から」

「山田」と発音することにすら、嫌悪感を覚えるとでもいうような、振り絞るみたいな名前の呼び方だった。

「……」

 ……いや、本当かどうかは分からない。もし、俺を慰めようとして嘘を言っているにしたって、それだって確認しようがない。

「……山……田の連絡先が分かるのなら、僕のスマホを貸すよ?」

 うんともすんとも言わない俺の様子に、焦ったのか、ザギンがそんな提案をしてきた。

「…………知らない」

 うつむいたまま、俺は答えた。

 でもそれは、嘘だった。

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