21 / 48
第一章 別れの後に、出会いがある。
好きピのためなら、なんだってする男。
しおりを挟む
「……間宮……」
そう、もう一度、耳元で囁きながら、ザギンは、俺の頭を優しく撫でてくる。
「……いや……」
突然の奇行に、俺は唖然としながらも、催眠にかけられているわけでもなしに、たかが名前の呼び方一つくらいで、俺の気持ちを変えられるとでも思っているのか、この男は……と、むしろ呆れて物も言えなくなっていた。
「好きだよ……間宮……」
そう言われても……。似ているとこと言えば、背の高さくらいだろうか……。
いや、山田よりザギンの方が背は高いだろうな……つまり、似ているとこなど、微塵もない。
自称、山田となった男から、好きだと言われても、むしろ興冷めするばかりで、冷静さだけが増していくだけだった。
それにしても……。
なんでコイツは、山田が、俺のことを名字で呼んでたこと知ってるんだろう……。
唯一、気になる点があるとすれば、そこだけだ。
そう、俺と山田とは、高1以来の付き合いだったにも関わらず、お互いに名字で呼び合う仲だった。
できることなら、俺は、山田と下の名前で呼び合いたかったのだけど、俺が「ミャーちゃん」と呼ばれるのが嫌だったように、山田は自分の名前をかなり嫌っていたのだ。
別にそのせいで、とは思わないけど、どんなに付き合いが長くなっても、俺は、山田との間に、どうしても埋めることのできない溝を感じていた。
それは、もしかしたら、お互いが相手に抱く、本心の食い違いが原因だったのかもしれない。
俺の感情が、あまりにも大きすぎたのだろう。それが、ときたま、猛烈に寂しくなるときがあった。山田への想いが、どうにもならないことが、打ち明けることすらできないことが、ただ、ただ、寂しい。
でも、もし、その寂しさを我慢してもなお、ほんの少しの距離を保ち続けることができたなら、俺たちは、あんなことにはならなかったはずだ。
その方が良かったのか、どうか、俺には分からない。山田にとっては、もちろん、その方が良かったに決まっている。そう出来なかった俺にはただ、勢いで溝を踏み越えようとして、躓いて転んでできた、膝の擦り傷だけが残った。
ふと、天啓のように、思う。
ああ、もしかしたら、もう二度と山田に名前を呼んでもらえなくなるかもしれない。名字すらも……。あの、優しい声で。
初恋の片思いを拗らせに拗らせた挙げ句の果てが、嫌いな相手に、好きな男の代わりになるよと、頭を撫でられて名前を呼ばれていることだなんてさ。
あまりにも無様すぎんだろ……。
「……間宮……えっ、みゃ……ミャーちゃん?」
虚しさと絶望に目頭が熱くなって、ボロボロと涙が溢れ出てきたかと思いきや、気が付けば俺は、ザギンにしがみつくようにして、うわんうわんと、大声をあげながら泣きじゃくっていた。
そういえば、山田に拒絶されてから、泣いたのは初めてだった。
ザギンに「間宮」呼びされて、萎えたせいで、冷静になった頭に、山田に振られた事実が、やっと届いたのだろう。
わんわん泣き続ける俺を前に、ザギンは、オロオロとしていたようだったけど、「ヨシ!」と謎の掛け声と同時に、俺を抱きかかえて歩き出した。いわゆるお姫様抱っこという、とんでもない抱き方だったが、そんなことに構う余裕は当然なかった。
ザギンは玄関のドアを開けると、躊躇することなく、俺を抱きかかえたまま外へと出た。ザギンがどこへ向かっているのか、全く予想がつかなかったが、もはやこれ以上かく恥もないだろうという負け犬の精神で、もはや俺は考えることを放棄していた。
しばらくして、ウィーンと、自動ドアの開くような音がした。どうやら、どこかに入ったらしい。
高級タワーマンションなだけあって、スーパーか何かが入っているのかもしれない。
……ん? いやでも、号泣しながらお姫様抱っこされてる女装男がスーパーに行くとかアウトじゃね?
いや……待てよ、ちょっと待った……てか、待て待て待て待て! 俺ら、そもそも今、ほぼ全裸じゃね?
……………………。
人としての尊厳が踏みにじられるという本能的な理性によって、俺がザギンの胸からおそるおそる顔を上げたとき、信じられない光景が目に飛び込んできた。
そう、もう一度、耳元で囁きながら、ザギンは、俺の頭を優しく撫でてくる。
「……いや……」
突然の奇行に、俺は唖然としながらも、催眠にかけられているわけでもなしに、たかが名前の呼び方一つくらいで、俺の気持ちを変えられるとでも思っているのか、この男は……と、むしろ呆れて物も言えなくなっていた。
「好きだよ……間宮……」
そう言われても……。似ているとこと言えば、背の高さくらいだろうか……。
いや、山田よりザギンの方が背は高いだろうな……つまり、似ているとこなど、微塵もない。
自称、山田となった男から、好きだと言われても、むしろ興冷めするばかりで、冷静さだけが増していくだけだった。
それにしても……。
なんでコイツは、山田が、俺のことを名字で呼んでたこと知ってるんだろう……。
唯一、気になる点があるとすれば、そこだけだ。
そう、俺と山田とは、高1以来の付き合いだったにも関わらず、お互いに名字で呼び合う仲だった。
できることなら、俺は、山田と下の名前で呼び合いたかったのだけど、俺が「ミャーちゃん」と呼ばれるのが嫌だったように、山田は自分の名前をかなり嫌っていたのだ。
別にそのせいで、とは思わないけど、どんなに付き合いが長くなっても、俺は、山田との間に、どうしても埋めることのできない溝を感じていた。
それは、もしかしたら、お互いが相手に抱く、本心の食い違いが原因だったのかもしれない。
俺の感情が、あまりにも大きすぎたのだろう。それが、ときたま、猛烈に寂しくなるときがあった。山田への想いが、どうにもならないことが、打ち明けることすらできないことが、ただ、ただ、寂しい。
でも、もし、その寂しさを我慢してもなお、ほんの少しの距離を保ち続けることができたなら、俺たちは、あんなことにはならなかったはずだ。
その方が良かったのか、どうか、俺には分からない。山田にとっては、もちろん、その方が良かったに決まっている。そう出来なかった俺にはただ、勢いで溝を踏み越えようとして、躓いて転んでできた、膝の擦り傷だけが残った。
ふと、天啓のように、思う。
ああ、もしかしたら、もう二度と山田に名前を呼んでもらえなくなるかもしれない。名字すらも……。あの、優しい声で。
初恋の片思いを拗らせに拗らせた挙げ句の果てが、嫌いな相手に、好きな男の代わりになるよと、頭を撫でられて名前を呼ばれていることだなんてさ。
あまりにも無様すぎんだろ……。
「……間宮……えっ、みゃ……ミャーちゃん?」
虚しさと絶望に目頭が熱くなって、ボロボロと涙が溢れ出てきたかと思いきや、気が付けば俺は、ザギンにしがみつくようにして、うわんうわんと、大声をあげながら泣きじゃくっていた。
そういえば、山田に拒絶されてから、泣いたのは初めてだった。
ザギンに「間宮」呼びされて、萎えたせいで、冷静になった頭に、山田に振られた事実が、やっと届いたのだろう。
わんわん泣き続ける俺を前に、ザギンは、オロオロとしていたようだったけど、「ヨシ!」と謎の掛け声と同時に、俺を抱きかかえて歩き出した。いわゆるお姫様抱っこという、とんでもない抱き方だったが、そんなことに構う余裕は当然なかった。
ザギンは玄関のドアを開けると、躊躇することなく、俺を抱きかかえたまま外へと出た。ザギンがどこへ向かっているのか、全く予想がつかなかったが、もはやこれ以上かく恥もないだろうという負け犬の精神で、もはや俺は考えることを放棄していた。
しばらくして、ウィーンと、自動ドアの開くような音がした。どうやら、どこかに入ったらしい。
高級タワーマンションなだけあって、スーパーか何かが入っているのかもしれない。
……ん? いやでも、号泣しながらお姫様抱っこされてる女装男がスーパーに行くとかアウトじゃね?
いや……待てよ、ちょっと待った……てか、待て待て待て待て! 俺ら、そもそも今、ほぼ全裸じゃね?
……………………。
人としての尊厳が踏みにじられるという本能的な理性によって、俺がザギンの胸からおそるおそる顔を上げたとき、信じられない光景が目に飛び込んできた。
10
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる