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第一章 別れの後に、出会いがある。
ザギン、好きピのため転生す?
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俺が推しラノベ作家の名前を呟くと、ザギンは一瞬、キョトンとした間抜けな顔をしてみせた。
「……え? ミャーちゃんて、僕のこと知ってたの?」
今度はキョトンとするのは、俺の方だった。
「……は? いや、お前のことじゃねぇえし、金太真琴先生っていう、ラノベ作家のことだしィー」
「……え? だから、それ、僕のこと……」
「はぁあ!? お前、マジでフッざけんなよ? 金太真琴先生と、ちょっと名前が似てるからって、チョーシ乗ってんじゃねぇよ!」
「……え? ……でも、ミャーちゃんに金太真琴って呼ばれると、なんだか……スゴい、エロいね」
「……はァ?」
「……ふふ、うん。……なかなか」
「なっ、なんだよ……」
「いや……この名前にして良かったなぁーって初めて思ってね」
「……マジで何言ってんだ……」
思えば、中学時代から、どこか頭のネジがすっ飛んでそうなヤツだなと感じていたが、話す内容が支離滅裂すぎて、マジでヤバさを感じる……。
こりゃ、さっさと風呂借りてトンズラするのが吉だな。
「……なぁ、悪ィーんだけど、シャワー借りてもいいか?」
「あ! 一緒にお風呂入ろうか」
まるで名案でも思いついたかのように、歯を見せて笑いながら、そんなことを言ってくるもんだから、全くヒヤヒヤしてしまう。
「お前と一緒に入ったらどうなることか……」
想像するだにゾッとする。
「……あのな! 俺は、とっととシャワー浴びて、仕事に行きてぇーの」
「え? 何言ってるの……?」
「……何って?」
ザギンは、感受性の強い子供ならむしろ泣き出しそうなくらい完璧な笑顔で告げてきた。
「ミャーちゃんは、もう仕事なんか行かなくって大丈夫だよ」
「……は?」
「お金なんて、どーとでもなるから」
不気味なくらいニコニコしている。
「……いや、マジで何言ってるのか分かんねぇーんだけど……」
「ああ! 今、住んでるアパートのこと?」
……え? なんで俺がアパートに住んでるって知ってんだ……???
「それだって、ここなら、使い切れないくらい部屋余ってるんだし、今すぐ退去の連絡入れたらいいんじゃないかな」
ザギンは、ニコニコと、とにかく嬉しくってたまらないとでもいうように、無邪気に説明していくが、はっきり言って、俺にしてみればホラーでしかない。
「……おま……、え? ……何言ってんの?」
「ああ、遠回しな言い方しちゃってたかな」
「……」
もちろん、嫌な予感しかしない。
「ミャーちゃん、結婚しよ!」
そう、宣言するなり俺の両肩に手を乗せてきたので、無言で振りほどいた。
「お前……いい加減にしろよ……」
「……え?」
「……マジでガキんときから、その、人をバカにする性格、ちっとも変わってねぇーみたいだな」
「……いや、そんな……バカになんか……」
少しは痛いとこでも突けたのか、ようやく形勢が変わってきたらしいところで、俺は渾身の一撃をお見舞いした。
「第一、俺は山田のことが好きだってさんざ言ってるだろぉー」
「…………ヤマダ」
すると、急激にザギンの熱意が冷めきっていくのを肌で感じた。またもや小動物が袋小路に追い詰められたときのような、本能的な悪寒が背中を走る。
途端に黙り込んでしまったザギンの様子を盗み見るように一瞥すると、ギリギリという音が聞こえてきそうなほど歯を食いしばっていた。しばらくすると、そのザギンの口の端からツーッと血が流れ落ちてきたので、ギョッとしてしまう。
「……お……おい……」
ザギンは、目の焦点の合わないどこかを睨みつつ、両手を握りしめて、必死に何かに耐えているように見えた。
「…………いいよ」
「……へ?」
俺の額には冷や汗がじっとりと滲み出ていた。
「……あ、いいの?」
それは、風呂を借りてもいいってことなのか、それとも帰っていいということなのか、どちらなのかは分からないけども、とにかく、この機を逃すわけにはいかない。
「……あっ、はは! うん……じゃ、えっと……帰るわ!」
そう言うなり、俺は落っこちていたスカートを掴むなり、そそくさとリビングのドアに向かって歩き出した。本当は、一目散に玄関までダッシュしたい気分だったけど、敵を刺激するわけにはいかないからな。
俺がリビングを出ても、ザギンは慌てた様子は見せず、ゆっくり後ろを付いてきているようだった。
あともう少しで玄関だというところで、背中に声がした。
「ミャーちゃん、僕、ヤマダになるよ」
…………は?
あまりに間抜けなことを言われて、思わず立ち止まってしまう。
「……いや、アホか……」
「なる! なれる、ミャーちゃんのためなら、誰にだってなれるよ」
「……はぁ」
呆れて何も言えずに、うんざりした顔でも見せてやろうと振り返ると、ザギンは、引くほど真面目な顔をしていて、調子が狂ってしまう。
「……いいよ」
振り絞るような声で、ザギンが呟く。
「……はぁ?」
「ヤマダを好きでもいいよ!」
そう、叫んだかと思うといきなりダッシュしてきて、俺を抱きしめてくる。
「僕が、ヤマダになる!」
「……ムリだろ」
「僕が、ヤマダになるから!」
「……ぜんぜん似てねぇよ……」
「大丈夫! 僕、そういうの得意なんだ」
「……お前、不気味なこというんじゃねーよ……」
すると、ザギンは、一呼吸置いたあとで、静かに囁いた。
「…………間宮……」
「……っ!?」
俺はザギンに、名字で呼ばれたことはない。いつも俺をそう呼んだのは……。
反射的に思い出したのは、もちろん山田のことだった。
「……え? ミャーちゃんて、僕のこと知ってたの?」
今度はキョトンとするのは、俺の方だった。
「……は? いや、お前のことじゃねぇえし、金太真琴先生っていう、ラノベ作家のことだしィー」
「……え? だから、それ、僕のこと……」
「はぁあ!? お前、マジでフッざけんなよ? 金太真琴先生と、ちょっと名前が似てるからって、チョーシ乗ってんじゃねぇよ!」
「……え? ……でも、ミャーちゃんに金太真琴って呼ばれると、なんだか……スゴい、エロいね」
「……はァ?」
「……ふふ、うん。……なかなか」
「なっ、なんだよ……」
「いや……この名前にして良かったなぁーって初めて思ってね」
「……マジで何言ってんだ……」
思えば、中学時代から、どこか頭のネジがすっ飛んでそうなヤツだなと感じていたが、話す内容が支離滅裂すぎて、マジでヤバさを感じる……。
こりゃ、さっさと風呂借りてトンズラするのが吉だな。
「……なぁ、悪ィーんだけど、シャワー借りてもいいか?」
「あ! 一緒にお風呂入ろうか」
まるで名案でも思いついたかのように、歯を見せて笑いながら、そんなことを言ってくるもんだから、全くヒヤヒヤしてしまう。
「お前と一緒に入ったらどうなることか……」
想像するだにゾッとする。
「……あのな! 俺は、とっととシャワー浴びて、仕事に行きてぇーの」
「え? 何言ってるの……?」
「……何って?」
ザギンは、感受性の強い子供ならむしろ泣き出しそうなくらい完璧な笑顔で告げてきた。
「ミャーちゃんは、もう仕事なんか行かなくって大丈夫だよ」
「……は?」
「お金なんて、どーとでもなるから」
不気味なくらいニコニコしている。
「……いや、マジで何言ってるのか分かんねぇーんだけど……」
「ああ! 今、住んでるアパートのこと?」
……え? なんで俺がアパートに住んでるって知ってんだ……???
「それだって、ここなら、使い切れないくらい部屋余ってるんだし、今すぐ退去の連絡入れたらいいんじゃないかな」
ザギンは、ニコニコと、とにかく嬉しくってたまらないとでもいうように、無邪気に説明していくが、はっきり言って、俺にしてみればホラーでしかない。
「……おま……、え? ……何言ってんの?」
「ああ、遠回しな言い方しちゃってたかな」
「……」
もちろん、嫌な予感しかしない。
「ミャーちゃん、結婚しよ!」
そう、宣言するなり俺の両肩に手を乗せてきたので、無言で振りほどいた。
「お前……いい加減にしろよ……」
「……え?」
「……マジでガキんときから、その、人をバカにする性格、ちっとも変わってねぇーみたいだな」
「……いや、そんな……バカになんか……」
少しは痛いとこでも突けたのか、ようやく形勢が変わってきたらしいところで、俺は渾身の一撃をお見舞いした。
「第一、俺は山田のことが好きだってさんざ言ってるだろぉー」
「…………ヤマダ」
すると、急激にザギンの熱意が冷めきっていくのを肌で感じた。またもや小動物が袋小路に追い詰められたときのような、本能的な悪寒が背中を走る。
途端に黙り込んでしまったザギンの様子を盗み見るように一瞥すると、ギリギリという音が聞こえてきそうなほど歯を食いしばっていた。しばらくすると、そのザギンの口の端からツーッと血が流れ落ちてきたので、ギョッとしてしまう。
「……お……おい……」
ザギンは、目の焦点の合わないどこかを睨みつつ、両手を握りしめて、必死に何かに耐えているように見えた。
「…………いいよ」
「……へ?」
俺の額には冷や汗がじっとりと滲み出ていた。
「……あ、いいの?」
それは、風呂を借りてもいいってことなのか、それとも帰っていいということなのか、どちらなのかは分からないけども、とにかく、この機を逃すわけにはいかない。
「……あっ、はは! うん……じゃ、えっと……帰るわ!」
そう言うなり、俺は落っこちていたスカートを掴むなり、そそくさとリビングのドアに向かって歩き出した。本当は、一目散に玄関までダッシュしたい気分だったけど、敵を刺激するわけにはいかないからな。
俺がリビングを出ても、ザギンは慌てた様子は見せず、ゆっくり後ろを付いてきているようだった。
あともう少しで玄関だというところで、背中に声がした。
「ミャーちゃん、僕、ヤマダになるよ」
…………は?
あまりに間抜けなことを言われて、思わず立ち止まってしまう。
「……いや、アホか……」
「なる! なれる、ミャーちゃんのためなら、誰にだってなれるよ」
「……はぁ」
呆れて何も言えずに、うんざりした顔でも見せてやろうと振り返ると、ザギンは、引くほど真面目な顔をしていて、調子が狂ってしまう。
「……いいよ」
振り絞るような声で、ザギンが呟く。
「……はぁ?」
「ヤマダを好きでもいいよ!」
そう、叫んだかと思うといきなりダッシュしてきて、俺を抱きしめてくる。
「僕が、ヤマダになる!」
「……ムリだろ」
「僕が、ヤマダになるから!」
「……ぜんぜん似てねぇよ……」
「大丈夫! 僕、そういうの得意なんだ」
「……お前、不気味なこというんじゃねーよ……」
すると、ザギンは、一呼吸置いたあとで、静かに囁いた。
「…………間宮……」
「……っ!?」
俺はザギンに、名字で呼ばれたことはない。いつも俺をそう呼んだのは……。
反射的に思い出したのは、もちろん山田のことだった。
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