上 下
16 / 48
第一章 別れの後に、出会いがある。

人には色んな性癖がある。

しおりを挟む
「……いや、マジで何処だよ……」

 男の家の風呂の用意をするため探すも、一向に浴室を見つけられない。

 俺は、いくつもある部屋のドアを、当てずっぽうで開けては閉める、を繰り返していた。

 玄関から細長く続く廊下の両側に、まるでホテルのように部屋が立ち並んでいるのだが、最初に男と居たベッドルーム以外、どの部屋も空っぽ状態のスケルトンで、家具の一つすら置かれていなかった。

 まるで空き物件の内覧でもしているみたいな気分だな。

「……どんだけ広いんだよ……こんな化け物みたいな部屋の家賃なんて、考えたくもないな……」

 東京の一等地の、タワーマンションの最上階の部屋を普通に借りて住めるなんて、一体どんだけ稼ぎがありゃー出来るんだっつの……。

 アイツ……マジで何の仕事してやがるんだ……?

 ふと、中学時代のことを思い出した。

 ミャーちゃん、ミャーちゃん、と毎日飽きもせずに俺の席にやってきて、ウザ絡みしてきたアイツのことを。

 ミャーちゃん、可愛いね、とやたらと俺の犬歯を見たがっていたアイツのことを。

 ミャーちゃん、すごく柔らかいんだね、と髪の毛に触れてきたアイツのことを。

「…………」

 幼かったアイツの顔が、先ほどまでのアイツの顔に重なっていく。

 すっかり大人びた今も、あの潤んだ熱っぽい目線は、中学のときのままだった……。

「…………ザギン」

 気がつくと、自然とアイツのあだ名が、口からこぼれ出ていた。でも、耳にするのも嫌なほどだったから、その名前を口にするのは初めてのことな気がする。

「……ッ!?」

 ズクンッ……。

 ただ名前を呼んだだけなのに、急に俺の下腹部がうずき始めた。

 もう全てを出し尽くして、使い物にならないはずの俺のチ◯コが、急に熱を持ち始めたものだから、さすがに焦ってしまう。

 自分の身体に起こった反応を誤魔化すかのように、俺は足早に廊下の突き当たりにあたる部屋のドアを開けた。


 そこは、リビングだった。

 リビングとは言っても、いわゆるLDKに値する部屋なんだろう。一般的な部屋で例えるならば……。

「……は?」

 その後の言葉が何一つ出て来なかった。あまりにも、広すぎるのだ。散々、男の規格外なレベルの部屋を目の当たりにしてきても尚、言葉を失うほどに豪華すぎるリビングルームだった。

 まず、全面ガラス張りになっている。

 大きさは……20畳……いや、50畳はあるだろうか……。ぶっちゃけ、この規模の部屋を見たことがないから、とにかく広いことしか分からない。

 見るからに高級そうな、黒い革のL字型のソファーや、鏡のように艷やかに光っているダイニングテーブル、そして当然のように王様みたいにバカでかいオープンキッチン。

 とりあえずの生活をするための家具や家電なども、一通り揃えてあるようだった。

 それら全てを、ガラス窓が取り囲んでいる。

 つまり、リビングルームのどこからでも、東京の夜景が見渡せるようになっていた。

「マジでとんでもねぇとこに住んでやがる……」

 中学時代は同じ教室で過ごしていた同級生と、自分とで、何がどう違ったら人生こんな感じになれるんだ……? いや、何もかも間違えてんのは、俺だけか……。

 俺はソファーにほど近い窓に手を当てて、東京の景色を眺めてみた。

 もう、夜は立ち去ろうとしている。ほの明るく照らされ始めている街で、まだ早朝だというのに、すでに多くの人達が活動しているのが見えた。

「……ミャーちゃん」

 ドキリとして振り返ると、ザギンがリビングの入口に立っていた。

 手にしている黒い服は、さっき俺の精液でビショビショにしてしまった彼のトレーナーだろう。

 下は脱いだままザギンは、素っ裸で突っ立っている。

 さすがにバツが悪くて目を反らしながら、

「……あ、ああ、起きたのか、お前、身体は大丈夫か?」

 そう聞くと、ザギンは途端に相好を崩し、

「ミャーちゃん、優しいね」

 そう言いつつ、見る間にチ◯コを勃たせたので、俺はギョッとしてしまう。

 いや、嘘だろ……。

 こんなとこから逃げられるわけもないのに、思わずガラス窓にへばり付いて身構えてしまった。

 しかし、ザギンは、予想に反してチ◯コを勃たせながらも、キッチンの方へスタスタと歩いていく。

 俺は、ホッと胸をなで下ろし、あー、服を洗濯でもすんのかな? などと、ぼんやり考えていた。

 でも、ザギンは手にした服をキッチンテーブルの上に、そっと置くと、シンクの引き出しをあちこち開けて、何やら探し始めた。

 しばらくして、取り出したのはジップ式のキッチン収納袋で、何を思ったのか、その袋の中にトレーナーを詰め込みだしたのだ。

 袋のサイズ的に、とても入りきりそうには無いのに、ザギンは終始真剣な顔をして、ぎゅうぎゅうに詰め込んでいるものだから、フツーに怖くなる。

「……なっ、何やってんだ?」

 すると、ザギンは、うっとりとした表情で、

「保管してるんだよ」

 そう答えたものだから、俺は余計に混乱してしまう。

「……は? なんで保管? いや、洗ってからやれよ」

「そんな、もったいないこと出来るわけないでしょ」

「……いや、何言ってんだ、お前……」

「だって、これには、ミャーちゃんの精子がたっぷり吸収されてるんだよ、そんなの保管するに決まってる」

「??????」


 ……え? ……コイツ、

 ……や

 ……や

 ……ヤバ

 ……やばいやばいやばいやばいヤバすぎんだろ!?

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

なぜか俺は親友に監禁されている~夏休み最後の3日間~

BL / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:3,641

顔だけ美醜逆転の世界で聖女と呼ばれる私

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:128

病み社畜は異界の鬼に囲われる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:55

人妻♂の僕が部下にNTRれるはずないだろう!

BL / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:169

【R18】無垢な花嫁は、青焔の騎士に囚われる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:511pt お気に入り:2,113

異世界転生したけど眷属からの愛が重すぎる

BL / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:4,668

処理中です...