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第一章 別れの後に、出会いがある。
間宮、山田との出会いと中学時代。
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ライトノベル作家の金太真琴先生は、俺が山田以外で唯一好意を持っている人間だ。
高校に入って山田と出会う前までは、俺はそれなりに至って普通の男子をやっていた。
クラスで流行った漫画やアニメ、音楽にも、一通り触れてきたし、いわゆる女の子のアイドルグループにだって、少なからず興味を持っていた。
でもそれも、自分から積極的に手に取ったわけじゃなくて、ただクラスメイトと話を合わせるための口実に過ぎなかった。
だけど、高1のとき、山田と席が並び合わせになった、あの日。
何もかもが、変わってしまったんだ。
山田は、授業中も休み時間も、読んでるんだか、いないんだか、いつも同じような古びた本を開いて俯きがちだったから、俺以外のクラスメイトは、誰も山田の魅力に気がついていないみたいだった。
だから、これは、山田の前の席に座っている俺の特権だった。
答案用紙を後ろに手渡すときの、ほんの束の間……。
顔を上げて、微かに目を合わせてくれる山田は、男の俺でも思わず息を飲むくらいに、整った顔立ちをしていた。
初めて山田の目を見たとき、艷やかな黒眼に太陽の光が反射して、キラキラと輝いて見えた。睫毛が長いせいか、山田の瞳はとても印象的だった。俗に言う「吸い込まれそうな瞳」をしていた。
今でも俺は、山田の頬の上に影を落としている睫毛の先端まで思い出せる。
しかし、見た目のスペックに反比例して影の薄い山田は、クラスの誰とも親しくならず、いつまで経っても一人で黙々と本を読んでいるのだった。
これじゃ、仲良くなろうにも、どうすることもできない。
相変わらず、俺と山田の接点なんて、用紙を後ろに回すときくらいしか、持てていなかった。
思い切って俺から話しかけようにも、授業中はおろか、休み時間も終始、本に顔を埋めている山田に、なんの目的もなしに声をかけることなんて到底できない。
山田が隠れイケメンであることを女子にバラせば、あっという間に、大騒ぎになるんだろうけど、そうなったらなったで、今度は俺が入り込む隙間なんて、できるわけがない。
なにより、山田にとっての大事なテリトリーを、俺だけの身勝手な理由で奪ってしまうことは、絶対に許されないことだ。
そこで、俺が考えたのが、俺自身がクラスの誰とでも仲良く話すタイプの人間になってしまうということだった。
仮に、俺が個人的に山田に話しかけても、そのことがクラスで全く浮かないくらいに、俺がうるさいキャラとして周知されてしまえばいいと思ったのだ。
だけど、この作戦は、俺にとって決して簡単なものなんかじゃなかった。
俺は、いわゆる陽キャみたいなタイプの人間ではなかったし、それ以前に大きな問題を抱えていた。
実は俺には、トラウマになるようなコンプレックスがあるのだ。
俺の歯は、前歯から数えて3番目の歯……つまり犬歯が、人よりかなり大きくて目立っていた。鋭く尖っていて、口を開くと、2本の犬歯がニョキッと顔を出してしまう。
中学のときに、俺は犬歯のせいで、女子を中心にだいぶからかわれて、嫌な思いをした経験があった。
「間宮」という名字をイジられて、「ミャーちゃん」と呼ばれていたことが仇となり、犬歯とあだ名のダブルコンボで、あたかも俺が猫であるかのように、クラスメイトたちの悪ふざけは、悪化し始めた。
中でも、クラスで1番目立っていた「ザギン」というあだ名の男から、イジメに匹敵するほど執拗な絡まれ方をしていた。
「ミャーちゃん、ミャーちゃん」
そいつは、ことあるごとに、そう言いながら、俺の席までやってきて、嫌がらせのようなことばかりしてきた。
「ミャーちゃんってさあー……ほんと色素薄いよね」
そう言って、おもむろに俺の前髪を手に取ると、
「ほら、こうやって陽にかざすと……金髪みたいに透けるけど、マジで染めてないのコレ?」
そんな風な茶化し方をしてくるヤツだった。
もちろん、俺はいつも無言でその手を払いのけていた。
「ハハッ、ほんと髪も目も茶色くって、ミャーちゃんは猫だったら茶トラになると思わない?」
その日、いつにも増して好き勝手なことを言われて、イライラしながら俺は、机の小さな穴ぼこの傷を見つめていた。
するとザギンは、ぐいっと俺の顎を手で持ち上げると、
「ミャーちゃん、可愛いから僕のネコになってよ?」
そう言って、指でスリスリと擦ってきた。
「……ッ!? やめろよッ」
慌てて俺は椅子を後ろに引いて、その手から逃れた。
犬歯以外まで猫扱いされたショックから、俺は恥ずかしさのあまりに頭に血が上ってしまった。
「あっ、やーっと、八重歯見れたあ」
顔を真っ赤にして焦っている俺を、ニヤニヤと覗き込んでくるザギンの視線に耐えきれずに俺は席を立ち、教室を飛び出した。
顎の下を撫でられた感触が、生々しく残っている。
謎にゾワゾワとした鳥肌が、首すじから下腹部にかけて、走った感覚もしっかりと……。
そのまま俺は助けを求めるように、トイレの個室に逃げ込んだ。鍵を締める指先は震えていた。
「……ハァッ……ハァッ……」
みるみる目に涙が込み上げてくるのを、抑えることができない。
気持ちとは裏腹に、俺の股間は熱を持ち、固くなっていた。
俺は、声を押し殺すようにして泣いた。悔しかったからか、ショックだったからか、そのどちらもなのか、分からない。
高校に入って山田と出会う前までは、俺はそれなりに至って普通の男子をやっていた。
クラスで流行った漫画やアニメ、音楽にも、一通り触れてきたし、いわゆる女の子のアイドルグループにだって、少なからず興味を持っていた。
でもそれも、自分から積極的に手に取ったわけじゃなくて、ただクラスメイトと話を合わせるための口実に過ぎなかった。
だけど、高1のとき、山田と席が並び合わせになった、あの日。
何もかもが、変わってしまったんだ。
山田は、授業中も休み時間も、読んでるんだか、いないんだか、いつも同じような古びた本を開いて俯きがちだったから、俺以外のクラスメイトは、誰も山田の魅力に気がついていないみたいだった。
だから、これは、山田の前の席に座っている俺の特権だった。
答案用紙を後ろに手渡すときの、ほんの束の間……。
顔を上げて、微かに目を合わせてくれる山田は、男の俺でも思わず息を飲むくらいに、整った顔立ちをしていた。
初めて山田の目を見たとき、艷やかな黒眼に太陽の光が反射して、キラキラと輝いて見えた。睫毛が長いせいか、山田の瞳はとても印象的だった。俗に言う「吸い込まれそうな瞳」をしていた。
今でも俺は、山田の頬の上に影を落としている睫毛の先端まで思い出せる。
しかし、見た目のスペックに反比例して影の薄い山田は、クラスの誰とも親しくならず、いつまで経っても一人で黙々と本を読んでいるのだった。
これじゃ、仲良くなろうにも、どうすることもできない。
相変わらず、俺と山田の接点なんて、用紙を後ろに回すときくらいしか、持てていなかった。
思い切って俺から話しかけようにも、授業中はおろか、休み時間も終始、本に顔を埋めている山田に、なんの目的もなしに声をかけることなんて到底できない。
山田が隠れイケメンであることを女子にバラせば、あっという間に、大騒ぎになるんだろうけど、そうなったらなったで、今度は俺が入り込む隙間なんて、できるわけがない。
なにより、山田にとっての大事なテリトリーを、俺だけの身勝手な理由で奪ってしまうことは、絶対に許されないことだ。
そこで、俺が考えたのが、俺自身がクラスの誰とでも仲良く話すタイプの人間になってしまうということだった。
仮に、俺が個人的に山田に話しかけても、そのことがクラスで全く浮かないくらいに、俺がうるさいキャラとして周知されてしまえばいいと思ったのだ。
だけど、この作戦は、俺にとって決して簡単なものなんかじゃなかった。
俺は、いわゆる陽キャみたいなタイプの人間ではなかったし、それ以前に大きな問題を抱えていた。
実は俺には、トラウマになるようなコンプレックスがあるのだ。
俺の歯は、前歯から数えて3番目の歯……つまり犬歯が、人よりかなり大きくて目立っていた。鋭く尖っていて、口を開くと、2本の犬歯がニョキッと顔を出してしまう。
中学のときに、俺は犬歯のせいで、女子を中心にだいぶからかわれて、嫌な思いをした経験があった。
「間宮」という名字をイジられて、「ミャーちゃん」と呼ばれていたことが仇となり、犬歯とあだ名のダブルコンボで、あたかも俺が猫であるかのように、クラスメイトたちの悪ふざけは、悪化し始めた。
中でも、クラスで1番目立っていた「ザギン」というあだ名の男から、イジメに匹敵するほど執拗な絡まれ方をしていた。
「ミャーちゃん、ミャーちゃん」
そいつは、ことあるごとに、そう言いながら、俺の席までやってきて、嫌がらせのようなことばかりしてきた。
「ミャーちゃんってさあー……ほんと色素薄いよね」
そう言って、おもむろに俺の前髪を手に取ると、
「ほら、こうやって陽にかざすと……金髪みたいに透けるけど、マジで染めてないのコレ?」
そんな風な茶化し方をしてくるヤツだった。
もちろん、俺はいつも無言でその手を払いのけていた。
「ハハッ、ほんと髪も目も茶色くって、ミャーちゃんは猫だったら茶トラになると思わない?」
その日、いつにも増して好き勝手なことを言われて、イライラしながら俺は、机の小さな穴ぼこの傷を見つめていた。
するとザギンは、ぐいっと俺の顎を手で持ち上げると、
「ミャーちゃん、可愛いから僕のネコになってよ?」
そう言って、指でスリスリと擦ってきた。
「……ッ!? やめろよッ」
慌てて俺は椅子を後ろに引いて、その手から逃れた。
犬歯以外まで猫扱いされたショックから、俺は恥ずかしさのあまりに頭に血が上ってしまった。
「あっ、やーっと、八重歯見れたあ」
顔を真っ赤にして焦っている俺を、ニヤニヤと覗き込んでくるザギンの視線に耐えきれずに俺は席を立ち、教室を飛び出した。
顎の下を撫でられた感触が、生々しく残っている。
謎にゾワゾワとした鳥肌が、首すじから下腹部にかけて、走った感覚もしっかりと……。
そのまま俺は助けを求めるように、トイレの個室に逃げ込んだ。鍵を締める指先は震えていた。
「……ハァッ……ハァッ……」
みるみる目に涙が込み上げてくるのを、抑えることができない。
気持ちとは裏腹に、俺の股間は熱を持ち、固くなっていた。
俺は、声を押し殺すようにして泣いた。悔しかったからか、ショックだったからか、そのどちらもなのか、分からない。
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