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第二章(謎解きのおわり)

聖なる夜に。(⚠R18)

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 間宮の慌てふためきようといい、太郎さんの狼狽うろたえようといい、この正体不明の低音ボイス男が、只者ではないことは明らかだった。

「……あの……ふぐっ」

 僕は思わずスマホ(間宮)に語りかけるのを辞めて、太郎さんに声をかけた。

 すると、ハエでも叩き落とすかのような勢いで、太郎さんに手でマスクの上から口を塞がれてしまった。

「……シィーーーッ」

 太郎さんが、ウィスパーボイスのような声で、僕に制止するよう指示を出してくる。

 僕はというと、もちろん、頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。

「……ワリーな、アイツにお前の顔見られると、ちょっとマズいんだよ……」

 そう言いながら、太郎さんは、顔を僕の超至近距離まで近づけてくる。

「こんな感じで隠しときゃ、キスしてるみたいで不自然じゃないだろ?」

 太郎さんの鼻は、ほぼ僕の鼻に触れるほどの近さだ。

 確かに天井に備え付けられたスマホ側から観れば、僕たちは完全にキスしてるように見えるだろう。

 いや……でも!

「……ま、間宮に勘違いされます……」

 言いながら、僕は、目のやり場が分からず、もはや目をギュッと閉じてしまっていた。でも、そうしてるのが、まるでキスをせがんでいるようで、そのことに思い当たって、もはや開けても閉じても地獄だった。

 ……いや、正直に答えるなら、気持ち的には、どちらかといえば天国だった。

 僕の間宮への全ての悪行三昧を知った上で、それでも僕のことを好きでいてくれる(多分)ことに、ときめかずにいられるわけが無かった。

 太郎さんの、鼻息だか呼吸してる息だかも、分からないほどの息に、未だかつて感じたことのないような、たまらない気持ちがした。

 それを必死に誤魔化すかのごとく、問いかける。

「……間宮と一緒に居る男って、一体誰なんですか?」

 すると、太郎さんは、少しだけ間を置いたあとで、仕方があるまいとでもいうように、そっと答えた。

「……彼ピッピ」

「……ピッピさんですか?」

「……ふー、えーと……彼氏のことな」

 その瞬間、僕は、目の前に最推しがいることも忘れて、宇宙空間へと瞬間移動していた。

「……………………彼氏…………」

「マミリンと同棲してるんだよ」

「…………………マミリントドウセイシテルンダヨ…………」

「……お前……大丈夫か?」

「…………オマエ、ダイジョウブカ……」

 全然、大丈夫じゃなかった。


 ……え? どうせいって? え? カレシ? え? あれ? マミリンって、好きな奴いるんじゃなかったでしたっけ? 確か……え? 彼氏いんの?


 彼氏ィイイイイイイイイイッッッ!!??

「……お、落ち着けって、お前……」

 太郎さんの目には、きっと虚無の目をしてる僕しか映っていないはずだ。

「……いっ、えっ? いつの間に!? ……えっ、だって」

「いや、分かる、気持ちは分かるぞ」

「あわ、あわ、アワワワワワ……」

 ……茶番じゃないですか。

 今までの僕とのくだりが全部、間宮と彼ピッピとのただの馴れ初め話に成り下がったってーことですか……。

「……オイ、陸人……お前それ、さっきから何の動画観てんだ?」

 全生命エネルギーを失いかけてる僕の上に、そのイケイケボイスは降ってきた。

 まるで神の啓示のように。

 最後の宣告のように。

 幾分、太郎さんの肩がプルプルと震えているようにも思える。きっと、体勢の限界なのだろう。奇遇ですね、僕もです。

「……いやっ、これは別に」

 間宮の声から緊張感が伝わってくる。

「なんだあー? お前、女のAVなんか観てんのか?」

「ち、違うって、そんなんじゃ……」

 ええ、その通り! 現在ご覧になられているのは、ただのロン毛の男です。ちょっと僕の知らぬところで何やら事情があるらしく、顔出しできないのが誠に残念ではありますが、女性にしか見えないであろう黒髪ロングのこちらの方、正面はゴリゴリの男ですのでどうかご安心くださいませ。

 そう言えたら、どんなにか気が楽になったことか。でも、僕は、太郎さんの面子を潰したくはなかったので、耐えた。

「……アッ!? ちょっと……お前、よせって……んアッ」

 !!!???

 間宮が急に慌てふためいている。

 僕と太郎さんは耐えてるというのに(それぞれ顔出しと体勢を)、どうやら、このイケボ男は何一つ耐える甲斐性を持ち合わせていないようで、いきなり間宮と何かをおっ始めたようであった。

「んあっ……あっ、アッ! ダメだって……そこはっ……ンんッ!!」

 ……………………。

 僕と太郎さんは、ラブホのベッドに寝そべりながら、スマホから溢れ出る間宮の喘ぎ声をBGMにして、お互いの顔を見つめ合っていた。

「アッん……ダメッ! それだけは今止めてッ……あっ……ヤダッ……ヤダアアアアアアッッンんぐうっ!!」

「ははっ、すっげえ潮吹いたな……。クリスマスに恋人ほっぽって、エロ動画なんか観てる方が悪ぃーんだよ」

 ……………そういえば、今日は……。

 僕は、思わず太郎さんの顔を見た。太郎さんは、赤い鼻のトナカイさんくらい、真っ赤になっている。それを見て、思わず僕は、ほっこりした。なんだか、この人って、こういうところが本当に安心するんだよなあ。OK、潮の件は、すみやかに忘れます。

「……メリークリスマス」

 僕は、小声でそうささやいた後で、太郎さんの潤んだ瞳を見つめた。

 それから僕は、太郎さんの顔を両手でそっと引き寄せた。

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