上 下
48 / 80
第一章(謎解きのはじまり)

ファーストキス。(⚠R18)

しおりを挟む
 僕は、僕の精液を躊躇なく飲み込んでしまったらしい間宮の顔を、未知の生物でも見るような思いで眺めた。

「……なんだよ」

 間宮は、さすがに、目を泳がせて少しは動揺しているように見えた。そして、僕は、好奇心を抑えきれない、悪い癖がまた出てしまった。

「……それって、その……どんな味すんの?」

「……は?」

「……まさか、美味しいの?」

「んなの、マズいに決まってんだろ!!」

 間宮は、八重歯を剥き出して叫んだ。あ、これは本気で怒ってるパターンだ。

 でも、頭を抱えたくなっているのは、こっちだって、おんなじだった。間宮がやることなすこと、何一つ理解できない状態だった。こういう酒癖の悪さっていうのも、あるものなのか……?

「……だからだよ」

 俯きがちに、間宮は、ボソボソと何やら呟いた。

「……え?」

「お前んだからだよ! お前のだから飲んだんだよ! 分かるか!? 超マズいのにな! なんでだろうな!? お前には分かんねえだろうな! オレが……どんな思いで、ずっと……」

 突然早口で、ツバを飛ばしながら、そう捲し立てるので、僕は思わず手を顔の前に広げていた。

 それに気がつくと、間宮は、急に空気の抜けた風船のように黙り込んだ。

「……ほんとに、こんなのの何がいいんだよ……」

 間宮は思い詰めたように、どこか一点を凝視したままボソリと呟いた。不安になって、慌てて僕が口を開く。

「……あのさ、小学校って確か別だったよな?」

「は? なに、急に」

「いや僕、小学んときに、大ちゃんって呼ばれてたからさ」

「……はっ。それで俺が同小だとでも思ったって?」

「いや、純粋に疑問で、」

「お前と俺が同じ小学なわけねえだろ! 住んでる駅だって違ってたのに……」

 そのとき間宮が、急に目をうるませたように見えたので、僕は慌てた。

「……間」

「山田なんて名字のヤツなんてな、五万といんだよ」

「……え?」

「高1んときだって、隣のクラスに山田2人いたし……、お前、高2のとき、女子の山田もいたから、先生らに下の名前で呼ばれてたろ」


 驚いた。そんなの、自分でも忘れていたことだ。

「……よく知ってるな」

「……ハハッ」

 泣きそうな顔をしているのに間宮は何故か笑った。

「お前のことなら、なんだって知ってる」

「……」

「お前が知らないお前のことだって知ってる」

「……え?」

 僕が興味を抱いたことに、気がついたのか、間宮は久しぶりに目を合わせてきた。

「知りたいか?」

「……」

「じゃー、口開けてみて」

 言いながら間宮が口を開けたので、つられて僕も口を開けた。

 すると、間宮が僕に抱きついてきたかと思うと、僕の口の中に、赤い舌を押し込んできた。

「!!??」

 そのまま僕たちは、2人でベッドに転がった。間宮は、僕が両手で肩を必死に押すも体重を掛けることで、いとも簡単に対抗してみせた。

 咄嗟の機転で、僕が、間宮の腹を足で蹴り上げるまで、間宮の舌は、僕の口のあらゆる場所を侵し続けた。歯の裏を、上顎を、頬の粘膜を、舌と舌とを絡ませて、吸って、そして離れる直前に下唇を引っ張るように噛んでいった。

 僕に蹴られて、床に転がった間宮を眺めたとき、間宮はまたもや勃起していた。

 でも、僕はしていなかった。

 口の中にあったのは、互いの酒臭さと、残された唾液に、確かに、僕が知らない僕の味が混ざっていた。

 忘れていた吐き気が急激に蘇ってきた。僕は、口を片手で塞ぐように押さえながら、トイレへ駆け込んだ。

 そして、またもや全てを吐き出した。

 洗面所で口をすすいで、ベッドルームに戻ったとき、もうそこに間宮はいなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

クオリアの回帰航路

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:32

嫁にまつわるエトセトラ

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:95

赤い糸の先に運命はあるか【完結】

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:30

ずっと、君しか好きじゃない

BL / 連載中 24h.ポイント:7,763pt お気に入り:1,058

平凡アルファの穏やかな幸せ

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:199

リンドグレーン大佐の提案

BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:833

カルピスサワー

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:77

処理中です...