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第一章(謎解きのはじまり)

うろたえる間宮と、僕と、思春期と。

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 間宮が勃起していることに、僕は言葉を失っていた。間宮も、ギュッと唇を噛みしめ、股間を押さえたまま、フリーズしている。

 いや……え? なんで?

 僕は、あらん限りの知恵を絞って何故、間宮が勃起しているのか、について考えを廻らせてみたのだけれど、皆目見当が付かないのだった。

 そもそも高1にもなって、まだ気になる女子の一人すら出来ていないような幼稚な僕に、親友が勃起する理由など知る由もなかった。

「……ま、間宮……、わ、悪い……」

 とにかくまずは、謝ろう、人として! そう思い直して頭を下げると、間宮がようやく顔を上げてくれた。

「いや、俺も……びっくりしてる……」

 そうなのか! 本人にさえ予期せぬ出来事だとは参った。え? そんな風に人って勃起する生き物だったっけ? 僕は咄嗟に過去に読んだ小説をざっと思いだしてみたけれど、もちろん該当する作品は思い至らなかった。

「……どうしよ、治まんねえ……」

 この状況が、よほど堪えているのか、間宮の両目にうっすらと涙が溜まっていた。それに気がつくやいなや、僕は立ち上がっていた。

「僕、帰るわ」

 その言葉をネガティブに受け取ったのか、間宮の目に悲しげな色が浮かんだので、慌てて否定した。

「やっぱ、お年頃だと、色々とあるよな! 僕も制御できないときとか、あるし」

「……えっ!?」

 間宮は、心底驚いたという顔をした。

「お前も、人前でこんなんなったこと……あんの?」

「……いや、ほとんど僕の部屋でだけど」

「なんだ、普通じゃんか……」

「……たまに、本屋で……」

「本屋で!?」

 ようやく間宮は、いつもの大きな声を出した。

「わはは……ヘンタイじゃん」

 僕は、なにもエッチな本を立ち読みして勃起しているわけじゃない。実は僕には、あんまり人とは相容れないような性癖があるのだ。でも、わざわざ今、そこまで打ち明ける必要はないだろう。とにかく、間宮を追い詰めずに帰れれば成功だ。

「……じゃ、じゃあ、またな」

 僕は、映画館で上映途中に席を立つ人くらいヘコヘコ何度も頭を下げつつ、間宮の部屋の外に出た。

 ふうーーーーっ。

 なんだ、コレ。朗読の授業で順番待ってる時より緊張したぞ……。

 僕は、張り詰めていたものが一気に緩んだ安堵感で、足をもつれさせながらも、どうにか階段を降りていった。家に来たときにも思ったが、間宮のお母さんは、まだ不在のようだった。

 玄関の外の空気は、それはそれは美味しかった。この瞬間だけは、富士山頂の清らかさを超えていた可能性が高い。僕は、リラックスしてゆっくりと息を吐き出すと、心軽く家路につくため歩き出した。

 しかし、3歩目くらいだったろうか、残念ながら僕は、足を止めることになる。

「……あ、ラノベ本」

 あろうことか、僕は興奮したままの親友だけでなく、その親友の大切にしている本までも、あの部屋に置き去りにして来てしまったのである。

 罪悪感が2割増しになった僕は、反射的にきびすを返したが、もちろん即座に冷静さを取り戻した。

「いやいや、最中に行ってどうするよ……」

 本当にどうするつもりだったのか。

 しばらく、間宮の家の前を行ったり来たりを繰り返していたが、通りすがりの新聞配達のバイクにさえ、チラチラと不審者扱いされたので、さすがに玄関前は離れることにした。

 かなり悩んだものの、先ほどの気まずい空気のまま、明日顔を合わせるのも微妙すぎるのは間違いなく、10分ほど、そこいらで時間を潰してから、思い切ってもう一度、間宮の家に行ってみることを決意した。
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