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第一章(謎解きのはじまり)

間宮、犬になる。

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 間宮から勧められるがままに買ったラノベ本は、正直言ってあんまり僕の好みではなかった。

 どちらかというと純文学(国語の教科書に載ってるような作家たちのこと)寄りの小説が好きなので、まず、普通の会話のような口語文で書かれているラノベの文体に驚いてしまった。

 僕は小説のセリフの中で、

「ぎゃあああああっっ」

 という叫び表記を初めてみた。せめて「ぎゃあああ嗚呼」か、「ぎゃああああゝ」とかにして欲しい。そういう問題じゃないんだろうけども。

 感覚的に言うなら、LINEのやりとりを読んでいるのに近い。

 いや、文学ではないだろ、これは……。

 エンターテイメントの一種として楽しめればいいんだろうけど、免疫が無さすぎて拒絶反応がスゴい。

 僕の混乱は、たぶんラノベ好きの人には理解してもらえないだろうけれど、想像してみて欲しい。

 国語の教科書に、突如、

「ぎゃあああオウエエエッッ!!」

「くらえええーーーッ!!」

「うわあああああっっ!?」

 なんて文体が書かれていたりしたら、きっと誰だってちょっとはびっくりするのではないだろうか。

 ……でも、普段、ほとんど活字に触れていない人たちからすれば、これって実は物凄く読みやすい文章なのかもしれない。

 今まで漫画しか読んでいなかった人たちも、この表紙と文体なら、興味を持って小説を読み出す人が出てくるかもしれない。

 思い返してみれば昨日、間宮と行った本屋のラノベコーナーも、以前より幅を利かせていた気がする……。

「……はあ」

 自分の中で、一番大事にしている文学への考え方さえ、間宮が絡んでくるとつい、ぐにゃりと簡単に曲げてしまいそうになるのが我ながら笑えてくる。

 ただ僕が、この本来は好みじゃないはずの間宮が好きなラノベ作品を、なぜだか好ましく思ったことも、決して嘘ではなかった。



 翌日、ラノベ本を鞄に忍ばせて教室へ入ると、待ち構えていたかのように間宮が駆け寄ってきた。

「なあ、なあ、どうだった? どうだった?」

 まあ、まあ、落ち着きなさいと、間宮の頭をぽんぽん軽く叩いてから席に着くと、待ちきれないとばかりの間宮が、机に両手を付いて前のめりになり、フンフンと鼻息を荒くして待っているので、笑わないようにするのが辛かった。

 ブンブン揺れる尻尾が見えるぞ、オイ。


「僕の知ってる小説とは、かなり趣向が違ってて驚いたけど、でも、こういうのもアリだなって思ったよ」

 ラノベ本を机に出して、できるだけ正直に、なるたけポジティブな感想を目指して、そう伝えると、でも間宮は、まだ全然足りないとばかりに、尻尾をフリフリしながらヨダレを垂らし始めている。

 そんな姿を見ていたら、思わぬ本音が零れでた。

「とにかく絵がいいよね」

 すると、間宮は、思ってもみなかった感想だったのか、一瞬目をまん丸くして、でも次の瞬間にはいつもの、あの不敵な笑みを満足げに浮かべた。

「それな!」

 そして僕は、ようやく肩の荷を下ろしたのだった。
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