掴む恋、勝ち取るキス

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大事件編

大事件、発生!

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大事件、発生
 中庭の菖蒲の花が開き始めていた。
季節の変化など気にも留めず、私は胸を躍らせながら生徒会室に向かっていた。
今日から今年度の生徒会室での活動が始まることになっている。
担任からは「今日から雑務の開始だよー」なんて伝えられていたが、
そんなことは問題ではない。
会長に、千歳 唯華 (ちとせ ゆいか)に会いたい気持ちが抑えられず、
気がつけば教室から駆け出していた。
私の学校では部活動に力を入れており、運動部は全国でも無類の強さを誇っている。
サッカー部や野球部はもちろん、バスケ部や卓球部も全国大会に出場している。
そのおかげか、そのせいか、文化系の部活や生徒会は日の目を見ることがない。
今年度の生徒会役員は総数4名で立候補者に至っては私含めて2名しかいない。
そんな少数で仕事を全うできるのか疑問だったが、
担任によれば、

「そういう細かいことは教員がやるから。君たちは雑用にさえ付き合えばいいよー」

・・・らしい。
教員にやる気があるのか、単に学校がブラックなのか。。。
前者だと信じて目当ての角部屋を目指す。
バッグを両手に握りしめ、廊下の角を曲がり、お目当ての生徒会室の表札を見つける。
ホームルーム後すぐに駆け出したおかげか、
会合の時間よりも15分ほど早く生徒会室に着いた。
胸の鼓動を高鳴らせながら、生徒会室を覗くと…

「愛してるわ…」

「えぇ、私も…んんっ」

陽光に照らされながら、二つのシルエットが重なる。
その一つは間違いなく、生徒会長、千歳 唯奈その人だった...
_________________________________________
朝日が昇り、生徒がバラバラと校門を潜っていく。
それに並び、私、狭間 精華(はざま せいか)と生徒会一同は裏門の花壇に向かっていた。

「精華ちゃん、私たちは水を取ってくるから、先に作業進めておいてちょうだい。」

斜め下からの声は千歳 唯菜(ちとせ ゆいな)その人であった。
唯菜先輩は私の1つ上の2年生で、この学校の生徒会長を務めている。
身長は150cm程の華奢な体格で普段は穏やかな雰囲気を醸す彼女ではあるが、
事務をこなす際の彼女の凛とした姿は、まさに頼れる姉貴分といった様相だ。
その印象は勉学にも通じていて、
中庭の掲示板に掲載されるテスト上位者に彼女の名は欠かせないものだそうだ。
腰ほどまで伸びた栗色の髪が風に靡いてカーテンのようにフワリと宙を揺らす。

「どうしたの、精華ちゃん?そんなボーとして。
まぁ、まだ朝も早いから、頭がさえてなくても仕方ないね。」

(ハッ!?)

唯奈先輩は朝見るにはあまりにも綺麗で、優美で、艶めかしく、
少しばかり時が過ぎることを忘れてしまっていた。

「いっ、いえ、なんでもないです。
私も行きますよ、先輩だけじゃ水汲みは大変でしょうから。」

「もー、精華ちゃん!私だって力仕事くらいできるのよ!心配には及ばないわ。」

先輩の口元は不満いっぱいといった感じでへの字に曲げられていた。

(この前は本棚の上段にも手が届いてなかったのに…)

「精華ちゃん!いま、失礼なこと考えたでしょ!」

今度はすこし語気を強めてジリジリとこちらに近づいてくる。

(まっ、まぶしい・・・)

本当に一挙手一投足が絵になる女性だと思う。
整った顔立ちに浮かぶくりくりとした瞳はえもいわれぬ雅さを湛えていて、
吸い込まれそうなほどに魅力的だ。

(今日もホントに綺麗。。。)

茫然自失とした私の意識を取り戻すように遠くからものすごい勢いで少女が走ってくる。

「唯奈~、精華~、おっはよー!」

「おはよう、天音。5分遅刻よ、次はないように気を付けてね。」

唯奈先輩に怒った様子はなく、微笑んで少女を迎える。

「はーい!次こそは間に合うように頑張りますっ!」

そう答えながら汗を拭う少女の名は蜻情 天音(さいじょう あまか)。
ツインテールに結んだ髪をピョコピョコトさせた快活な私の同級生だ。
必然、体を動かすことが好きなようで、運動は学年で随一のものである。
運動だけでなく、学習面でも文系科目は上位を取るなど、基本はハイスペックな少女だ。
現在はサッカー部と生徒会を兼任していて、
文武両道の名を冠するのに十分な能力を持っている。
遅刻と理系科目の悲惨さに目を背ければ完璧とは唯奈先輩の言葉だったか...

「あれ?唯奈、なんか前と違ういい香りがするよ!」

「えぇ、そうね。もう春も中ごろだから清涼感のあるものにしてみたの。
気づいてくれて嬉しいわ。」

先輩と天音は幼馴染だそうで、先輩後輩は関係なしに日ごろから親しく接している。
先輩と天音のつくる雰囲気は無二のものでまさに「2人の世界」という様相だ。
私はなんだか居心地が悪く、

「やっぱり私が水汲んできますね。」

と言ってそそくさとその場を去ることにした。
裏門から少し離れた中庭の隅にある水汲み場は陽当たりが悪いからか妙に不気味だ。
怯懦な性格でもないのに何かがそこにいるような気がしてくる。
こころなしか先ほどから水が流れる音が聞こえるし、ガサゴソと何かが蠢く物音もする。

(まぁ、気のせいでしょう。)

そんな油断しきった私は

ドンッ

と突然水汲み場のほうから出てきた何かとぶつかった。

「きゃぁ!」

そんな、らしくもない悲鳴を上げて、その場に尻もちをついてしまった。

「...その、大丈夫?...じゃないよね。ごめん。」

「えっ、寄香先輩?どうしてここに?」

彼女は水の汲まれたジョウロ4つを地面に置き、私に手を差し伸べる。

「少し早く着たから、みんなの分も用意しておこうと思って。」

「そ、そうなんですね。全員集まっているので早く戻りましょうか。」

そう2つジョウロを持って今来た道を戻る。
ストレートな黒髪を携えた彼女の名は情聖 寄香(じょうせい きっか)。
私の1つ上の2年生で唯奈先輩とは同級生だ。
一つ上ともあって、高身長でスラッとしたモデル体型の頼れそうな風貌を纏っている。
アンニュイともダウナーとも取れぬ立ち姿は校内で密かに人気があると噂に聞く。

「寄香先輩っていつも神妙な様子ですけど、何を考えてるんですか?」

そう、彼女はいつも虚空を見つめていたり黙りこくっていて
・・・要するにミステリアスなのだ。

「・・・何も。いつも気が付いたら時間が過ぎてる。不思議だよね。」

・・・そう、なんだ。
あまり要領を得ない答えが返ってきて少々困惑していると、

「おーい!おはよーございますっ!寄香先輩、もう来てたんですねー!」

「さぁ、全員揃ったことだし、今日も生徒会の活動を始めましょうか。」

賑やかで、平穏で、普遍的な日常が今日も始まった。
この日常がずっと続くのだろうな・・・と思っていた。
あの生徒会室の光景、いや事件を目撃することを、まだ私は知らなかった。。。

大事件、捜査
 目の前で何が起こったのかわからないまま、静かに後ずさりする。

(・・・先輩が、キス、をしてた。。。誰かと、キスを。。。)

夢か見間違いか、そんなはずもなく2人のシルエットは重なり合っていた。
小柄で長い艶やかな髪を携えたあのシルエットは間違いなく会長だった。
胸は暖かな鼓動を止め、今はただ画一的な脈動に変わる。
しばらくショックに打ちひしがれていたが、

(相手は⁉誰が会長と⁉)

強い衝動に突き動かされ、やっとこさ視線を上げる。
胸に手を添え、肩で呼吸している先輩が見えた。
もう一人は…部屋の内側にでも移動されてしまったのか、ここからでは見えない。
教室の外からは為す術ない、今すぐにでも生徒会室に入って事情を聞かないと…
再び生徒会室に歩みを進めると、だんだんと先輩のシルエットが明確になってきた。
キスの余韻に浸っているのか、先輩は色っぽく口を動かし、相手と何か話しているように見えた。
その事実がドンッと私の心に重荷を乗せた。
気が付くと私は後ろを振り向いて、来た道を走って戻っていた。
菖蒲が咲く中庭のところまで辿り着き、息を整える。
菖蒲の花は旬の時期を迎えて花を開かせているが、どこか生気を感じられない。
傍ではオオイヌノフグリが季節も旬も関係なしに菖蒲の養分を吸い取り茎を伸ばしている。
青の花を携えるその雑草は皮肉にも菖蒲と同じ色を携えている。
その光景は私と先輩、そして・・・もう一人の誰かとの関係を思わせた。
先輩は私の初恋だった。
先輩とのこれからに私は胸を弾ませ、期待していた。
しかし、そんな妄想は現実になることはなく、跡形もなくかき消えた。
ここ数日、数週間、それよりもっと多くの時間、
先輩のことを、先輩のことだけを考えていた。
自暴自棄に陥ることも許されず、私は夢中になってその雑草を抜いた。

(なんで!なんでよ!相手がいるなら、先に言ってよ!期待、させないでよぉ。。。)

落とした水玉が乾くころ、私は雑草を抜き終え、生徒会室に向かった。
ところどころ手が痛み、それが身体の傷なのか心の傷なのか、私には判断できなかった。
時計を見ると、5分前に生徒会の活動は開始している。
遅れた言い訳を考える余裕など持てず、生徒会室の扉を開く。

「精華ちゃん、どうしたの?遅れるなんて珍しいわね。」

「精華ちゃん!遅刻はだめだよ!教室にも居ないし心配したんだよ!」

先輩と天音が同時に声を上げる。
「遅れるような事情があったんだよ、多分。でも、用事があって送れるときは連絡。」

少し遅れて、寄香先輩がフォローをしてくれた。
私がすみません、と言って席に座ろうと手を椅子に掛ける
・・・そこで先輩が私の手を取って

「この傷、どうしたの?まず水で洗ってから、手当てしましょ。」

と私を手洗い場まで連れていく。

「いえ、そのぉ...中庭のところに雑草が生えていたので、抜いていたら…」

「そうなの、ごめんなさいね、怒っちゃって。精華ちゃんは偉いわね。ありがとう。」

緊張感のあった空間が一瞬にして緩み、肩の力が抜ける。
私が手を洗っている最中、先輩は傍で待っていてくれた。

「先輩はいつ頃、生徒会室に着いたんですか?」

誰とキスしてたんですか、とは聞かなかった、聞けなかった。
今まで相手のことを聞いたことなんてなかったし、
何より先輩の口から相手のことを聞きたくはなかった。

「みんなと一緒に生徒会室に行ったわ。多分、10分前くらいだったかな。」

・・・やっぱり相手のことは隠しているようだ。

「戻りましょう、先輩。2人が待ってますから。」

先輩には恋愛相手がいて、私にも周囲にも黙っている。
でも、私は見てしまった。
2人だけの秘密を知ってしまった。
その約束を知りたい、知らなければならないと思った。
私が・・・私と先輩が咲くのを邪魔する雑草を抜くために。
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