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目の前のステーキ肉をじっと見つめる

大きな手で器用にナイフで切り分け、上品な手つきで口元へと運ぶ

食べる姿がセクシーだと思いながら、自分の目の前にあるステーキ肉を切り分ける

ジャズがゆっくりと流れる店内は、上品な内装で運ばれてくるコース料理は通常であれば半年は待たないと予約の取れない有名店だった

「何度も言うけど家からは出るよ」

絶対に譲らない決意を思わせる硬い声に、口の中のステーキが味気ない物へと変わる。

義兄はゆるいパーマがかかった黒髪をかきあげながら、うんざりとした表情を隠しもせずに、食事を続ける

美しくも逞しい筋肉質な義兄は、どこか気怠く色気のある雄だった

性はアルファ、実社会で頂点を担うエリートを約束された性だ

「大学なら家からでも通えるだろう?」

「そうよ、しかもルームシェアなんて、相手の方に迷惑かけたらどうするの」

神経質に声を昂らせる母親に、何が気に入らないのかと苛々した声を出す父親に身を縮こませる

出来損ないの、オメガであり義弟にあたる俺は存在を消して口内のステーキ肉を咀嚼するしかない

義兄はうんざりしているのだ

アルファであるため連れ子の自分を後継にしようとしている義父にも、ヒステリックな母親にも、そして

ちらりと俺を見る目が物語る、不出来で平凡なオメガの義弟にも

俺はただひたすら息を殺してやり過ごす

父親の失望の目も、母親の値踏みする目も、美しい義兄の目も

初めて会った時、こんなに綺麗で色気のある人初めて見たと思った

180をこえる身長の義兄を見上げながら、人見知りを発揮して挨拶すら出来なかった

そして、新しい母親も、美しい義兄も避けまくって空気に扱われ出してからようやく馴染むだめっぷり

そしてこの家族を見捨てた義兄は家を出て行く

トイレに立つと、ようやく息が出来る

空気になるには酸欠にならなければならないのだ

冷たい水で手を洗い流す瞬間の清涼さに深く息を吸い込む

「鉄、お前も俺が出て行くのが嬉しいだろう
?」

不意に後ろから声をかけられて、身を強張らせる

長身の義兄は、手を洗う俺を逃がさないようにする為か、洗面台に両手をつけて囲い込んでいた

「あ……、そんな事、ないよ…水帆にぃちゃん…」

俯いたまま答えれば、薄いヘーゼルナッツみたいな色をした目で覗きこまれる
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