ことこと煮込んだら

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雅がせっかく一緒にサボってくれたのに、次の日の天気は大荒れで高波警報まで出ていた

海に潜る予定はやめて、アパートの窓から荒れている海を眺める

「あー、消防の出動あるかもだから、俺は村の詰所行ってくるわ。夜須、冷蔵庫の作り置き適当に食べてな。外には出るな」

カッパを着て長靴を履いて出かける雅を見送り、俺は窓の外をずっと眺めていた

こんなに大荒れの海を見るのは初めてかもしれない

横殴りの雨に、波も高く風がうねるように鳴り響く

生臭くジメジメした生暖かい空気に、肌もビリビリするので雷も来そうだ

古いアパートはガタガタしていて、ちょっと不安だ

ふとスマホの電源を入れると、間髪入れずに着信が入る

アタリからで、まだ話をしたくなかったけれど、いつまでも避け続けるわけにはいかない

「もしもし?」

恐る恐る出ると、アタリが息を飲んだのがわかった

「夜須?どこにいるの?」

「あ、雅にいちゃんのところ。美鈴さんに連絡はしたんだけど…」

緊張したけれど、思ったより普通に話ができてホッとする

「なんで電源切ってたの?」

「あ、充電なくて…ごめん」

アタリの声を聞くだけで涙が出そうだが、泣かれてもアタリは意味がわからないだろう

声も焦っていて、こんなに心配してくれてるのに、本当に俺への気持ちはないのだろうか

「迎えにいくから」

「今、雨もすごいし海が荒れてるから、明日帰るよ」

ますます雨が激しくなっていく気がする

「…………今から迎えにいくから」

ぷつっと通話が切れて、アタリがなんだか怒っているような雰囲気だったのが恐ろしい

いやでもアタリも外泊するのに、俺だけダメってことはないだろう

いじいじと雅に借りたシャツの裾をいじっていると、ふっと電気が消えた。どうやら停電したようだ

クーラーも停まってしまい空気が生温くなってきて、薄暗い室内に硝子がガタガタと音を立てた

外がビカビカ光って雷がゴロゴロ鳴る音が聞こえて、慌てて布団に潜り込む

外は激しい暴風域に入ったようだ

暫くするとアパートのドアを、こんこんとノックする音が聞こえる

「…み、雅にいちゃん?」

恐る恐る声をかけると、また再びコンコンとノックが聞こえる

「……夜須、開けて」

消え入りそうな小さな声は硝子を引っ掻いたような声だった

「…ひっ」

短い悲鳴をあげて玄関から離れようとすれば、ドンドンドンと重たい打撃音に変わる

「開けろ!早く開けろ!夜須!!」

「あっ、アタリ?」

聞き覚えのある声に慌てて鍵を開ければ、ものすごい勢いでドアが開き、雨ざらしで濡れているせいか、濡れた髪が顔にへばりつき、物凄い形相のアタリが入ってきた

空気がぴりつくくらい怒りを纏ったアタリは、息を切らせながら辺りを見渡す

「…雅は?」

ぐいっと痛いくらいの力で腕を取られて呻いても、手の力を緩めてくれない

いつも静かで穏やかで優しいアタリとは別人のようで、怖くなって首を思いっきり振る

「い、いない、俺だけ」

それだけ言うと、アタリは力が抜けたようにホッと手の力が弱まる

「あ、雨の中、ごめんね?タオル持ってくる」

踵を返してタオルを取りに行こうとすれば、再び強い力で引き寄せられて、ぎゅうとアタリに抱きしめられた

濡れているせいか、じわじわとシャツが水気を含んでいく

「帰ろう」

震えているアタリの手に、気づいたら悪いような気がして目を逸らす

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