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しおりを挟む授業が終わりチラリと横を見ると、アタリがにっこり笑いかけてくれるのに嬉しくなって机の前に行こうとしたら女子達に弾き飛ばされた
「アタリ君はどこから来たの?」
「かっこいいね!島のどこにお家があるの?」
「放課後あそびにいこ?」
女子達に囲まれて困ったような顔をしているアタリを呆然と遠巻きに見る
「すげぇな…今まであいつらあのパワーどこに隠してたんだ?大丈夫か?夜須」
雅が抱き起こしてくれて恥ずかしくなって頷く
「だ、大丈夫、ありがとう雅にいちゃん」
「いいよ。帰ったらゲームしようぜ。俺んち来いよ」
「あ、今日はだめなんだ。ばあちゃん具合悪いみたいで帰らないと…雅にいちゃん?」
雅が顔を強張らせて前を向いたままなので、不思議に思い視線を追おうとしたら、雅の手で目を塞がれた
「え?もー、なあに?雅にいちゃん…今日子供っぽいよ?」
「いや、なんでもない。ばあちゃん大丈夫なのか?」
「うーん、今隣のじいちゃんが見てくれてるの。だから帰らなきゃ。また遊んでね?」
雅を見上げると本当に心配そうなので手を取りニヘラと笑う
雅も様子が変だったが、最終的にはニコリと笑ってくれたので、アタリと話をしたかったけれど急いで帰り支度をして家路につく
先生も何も言ってなかったし、大丈夫だろうとは思うけれど心配だ
いつも通る竹藪の道を抜けると、目の前が開ける
家が見えたところで急に後ろに腕を引かれて振り返ると、アタリが慌てて追って来たのか焦った様子でいた
「あ、アタリ。これから、よろしくね」
今日、話しかけたかった言葉を言って頭一個分大きいアタリに言うと、小さく頷く
「話出来なかったから。よろしくね?急いで帰るのは…その…」
言いにくそうに、もごもごしているアタリに首を傾げる
「ああ、朝に俺の家のばあちゃんが倒れたんだよ。それで急いで帰らなきゃいけないの」
また急に不安になって自分の家の方を見つめると、アタリは急にホッとした顔をした
「そっか、予定はないんだね?おばあちゃん大丈夫?」
「わかんない。ごめんね、早くいかなきゃ。また明日、学校で遊ぼう?」
「ちょっと待って。僕も着いていくよ。夜須ひとりだと不安でしょう?」
アタリの言葉にぐっとなったが頷く。誰かがいてくれたらすこしは安心できるかもしれない
アタリには迷惑にならない程度についてきてもらおう
「いいの?ついてきてほしい…」
そう言うと、アタリは手を握ってきて手を繋いだまま歩き出す
「怖かったでしょう?夜須、泣いてもいいよ?」
アタリにそう言われて、じわりと涙が浮かぶ
祖母も両親のようにいなくなってしまうのではないかと不安で不安で仕方がなかったのだ
今、夜須に無償の愛をくれるのは祖母だけだ。その祖母まで失ってしまったらどうしたらいいのだろう
「よしよし、頑張ったね」
歩きながらアタリにしがみついて泣いていると、アタリが慰めてくれた
「怖いんだ。アタリ、先におばあちゃんどうなってるか、見て来てくれない?」
隣の家の爺が珍しく慌てふためいていて、不安が大きくなり、もじもじと門の前でそう言うと、アタリが握ってくれた手に力が籠る
「一緒に行こう?一人にさせられない」
アタリにそう言われて一緒に門に入るも、嫌な予感に足が重たかった
ずしりと心に重い石を乗せられたみたいに、足取りも重たい
こんな時に一人じゃなくて、本当に良かったとアタリを見上げる
綺麗な顔で笑いながら頷くアタリに頷き返して、玄関のチャイムを押した
中から慌ただしくバタバタと音が聞こえる
「夜須かあ?開いとるから入ってこーい!」
甲高い隣の爺の声が奥の間から聞こえる
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