ことこと煮込んだら

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今夜は部屋から抜け出して、雅たちと合流する。夜に外に出た事はないけれど、悪いことを計画しているようでドキドキする

「七時半に家の前まで迎えに行くから、それまでに風呂まで入って婆にバレないように出てこいよ?」

雅に頭をぐしゃぐしゃに撫でられて、うんと頷く

海から吹いてくる生ぬるい風が磯臭くて生ぬるく裸足の足元を這い上がってくるかのような不気味さはあったけれど、初めての冒険なのだ

帰り道、竹藪を抜けたところで、ふと激しい視線を感じて振り返る

気のせいかな?すごく見られてる気がしたんだけど…。今日ってアタリャーリャ様がおいでの日じゃないよね?

少し不安になりながら帰ると、祖母が用意してくれた食事をさっさと食べて、いつも言わないと入らないお風呂にすぐに入ったので目を丸くしていたが、おやすみと声をかけて部屋の電気を消すと祖母も離れに戻り、静かになった

時計を見ながら、ドキドキする

もうすぐ雅が迎えにくるから、玄関から持ってきている靴を部屋に持ち込んで、窓から外に出よう

そう思って暗い窓の外を眺めていると、俄かに黒い海が光る気配がする

窓をガラガラと開けて目を凝らすが、その光はすぐに消えてしまった

「……なにあれ?」

靴を履いて、窓を乗り越えて外に出る

庭は湿った土の匂いがして、外の空気はじめじめしていた

日本庭園の庭を抜けて、四阿を通りかかると、道に自転車に乗っている雅が手を振っている

「おーい!夜須、こっち!後ろに乗れ!」

「うん。ねえ雅にいちゃん、さっき海が光ってなかった?」

「夜光虫かなんかじゃねえの?それより婆に見つかってないだろうな?」

「大丈夫だと思うよ?おばあちゃん一回寝たら夜中まで起きないし」

カラカラと音がする自転車を漕ぎながら、待ち合わせをしていたのか、大きな道のバス停の椅子で郡と昴がだれていた

「おっせーよ。早よ行くぞ」

背が高い眼鏡の郡が言うと、イケメンの昴が立ち上がり自転車に跨る

「鯨が来てるなんて珍しいからな。しかし、よく夜須んとこのバァちゃん許してくれたな?」

昴にぐしゃぐしゃ頭を撫でられて、むぅと頬を膨らませる

「内緒で来たに決まってんじゃん。鯨見たいから」

「昴、あんまり夜須をいじんなよ。ほら、夜須、早く鯨を見にいこうな?」

雅が間に入ってくれて雅の背中にしがみつくと、なんとなく海からの視線が強くなった気がした

ゾワっとしたのは自分だけではないようで、雅もきょろきょろ周りを見渡す

「な、なんかいま?」

「なんだよ?近くだから。そこの海岸だよ」

顔色が悪くなった雅とは別に呑気そうな郡と昴が指差す方向は、街灯がぽつぽつあるものの砂浜と黒い海岸だ

「なんか怖いね?」

恐る恐る雅の背中から顔を覗かせると、海から感じた激しい視線が弱まった気がする

ざぶんと打ち寄せる波音に、自転車を皆んな止めて近づくと黒い海だけで水面から鯨は見えない

「しばらく待とうぜ。ジャンプしてるとこ見たいよな?な、夜須?」

「…う、うん」

郡に肩を組まれて海を眺めていると、岩陰に人影が見えた

「あれ?誰かいるのかな?」

黒い小さな影は、こちらを見ている気がする

徐々に目が慣れてきて、よく見ると藍色の着物を着流しで着た白い肌の、すらっとした同い年くらいの男の子だった

艶々の黒髪で、目だけは夜の海みたいに真っ黒で不気味な男の子はゆっくりと此方に歩いてくる

「あ、君もクジラ見にきたの?」

雅が率先して話しかけると、男の子は首をふるふると振る

驚くくらい綺麗な顔立ちで、青白いまでの透き通った肌に手は大きくすらりとしている

女の子でも見た事ない美しさに、どきまぎしながら皆んな話しかけているみたいだった

「名前は?」

「どこの子?リゾートんとこの子かな?」

「女の子…ではないよね?」

3人が矢継ぎに質問するのを気に留めず、なぜか俺をずっと見ている気がする

「おまえ、名は?」

指で刺されて、きょろきょろと周りを見渡す

雅達が名乗っているのを見ながら、おずおずと尾前 夜須だと小さな声で名乗った

「享の子か。夜須、鯨が見たいのか?」

尊大な態度だけれども、迫力があって何処か退廃的で不気味な少年の言葉に戸惑いながら頷く

「僕はアタリ………」

なぜか手をとられて引っ張られ困っていると、雅が繋がれた手を叩き落とすと、アタリは怖い顔になった

「あっ!ごめん。アタリ、夜須は人見知りなんだ。ごめんね」

「アタリっていうの。よろしくね。その…雅にいちゃんの言う通りで…上手く喋れないかもしれないけど…」

もじもじしていると、アタリが海を指差した

不思議に思い見ていると、水面が盛り上がっていく


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