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しおりを挟む実家で三宜は父や兄に育ててもらったお礼を口にし、それ以外の話はしなかった
皆一様に暗く、日出の遺体を引き取ったことで何かを察したのだろう
月家の事も耳に入っていたのかもしれない
感傷もなにもなく、次の日には三宜は宮廷から送られてきた金色の衣装に身を包み、顔を隠して迎えにきた輿に乗った
連れて行ける侍女は離宮の時着いてきてもらった侍女のみに留めた
国中で音楽を奏で、家中飾り立て宴会が行われていたが、三宜の心は地よりも沈んでいた
豪華な煌びやかな衣装も、撒かれる花も、全部悪夢だ
今頃、三宜は清順に輿入れしていたはずなのに
あの日、清順は三宜の手首を見て怒っていた。もう嫌われたかもしれない
清順からもらった飾り紐は、未だ袂に持っている
しかし、もう手放さなければならない
今日、三宜は輿入れし、あの皇帝の番となる
他の者を懸想している花嫁だとばれたらどうなるか
でも、ばれてもいいかもしれない
あの皇帝に今日、自分は抱かれるのだ
昨夜、乳母から結婚後の今夜なにをするのか作法を習ったのでなにが起こるのか三宜はもうわかっている
悍ましい
触られるのすら嫌なのに、清順以外と触れ合うなど考えたくもないのに
輿の中で香を焚き、抑制剤は今日は服用させてもらえなかった
つまりまた、あの皇帝の腐臭に耐えなければならないのだ
耐えられるだろうか
清順の匂いを知り、唇も、体は、まだなにもしてなかったけれど、あの甘美な幸せの後にこれはきつい
なんなら皇帝は今日にでもご崩御してくれないだろうかとすら思う
そんな三宜の願いも虚しく輿は宮廷に乗り入れ、行事は進んでいく
玉座に座る皇帝の横に座る頃には、三宜は心が引き裂かれそうだった
何故なら、その場に清順がいたからだ
玉座の横に座る清順は、皇太子らしく人を地獄に堕とす美貌に笑顔を浮かべながら、優しくその横にいる美しいオメガの夫人の手をとっていたからだ
嬰林に少し似た彼女の首筋の噛み跡を呆然と見つめる
三宜は絶望した
頭では、清順に正妃がいるのも、側室がいるのも、子供がいるのもわかっていた
三宜は、顔を掻きむしって泣き叫びたかった
清順は、ここから助けてはくれなかった
項を噛んでもくれない
なにが運命の番だろうか、なにを後生大事に飾り紐を袂に入れていたのだろうか
自分は、この皇帝に嫁がねばならなかったのに
唇を引き結び、横の玉座を見る
相変わらず猿の干物のようで、生気がない
それどころか、蛆のような小さな白い虫が皮膚を這い回っているように見えて、三宜は真っ直ぐ前を見直した
これは現実だろうか
悪い夢なのではないだろうか
そこまで自分の行いは悪かったのだろうか
本当にゆめなら早く覚めてほしい
家臣たちが傅き、祝詞が述べられ盛大な宴会が繰り広げられる
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