完結⭐︎キツネの嫁入り

66

文字の大きさ
上 下
29 / 46

29

しおりを挟む

実家で三宜は父や兄に育ててもらったお礼を口にし、それ以外の話はしなかった

皆一様に暗く、日出の遺体を引き取ったことで何かを察したのだろう


月家の事も耳に入っていたのかもしれない

感傷もなにもなく、次の日には三宜は宮廷から送られてきた金色の衣装に身を包み、顔を隠して迎えにきた輿に乗った

連れて行ける侍女は離宮の時着いてきてもらった侍女のみに留めた


国中で音楽を奏で、家中飾り立て宴会が行われていたが、三宜の心は地よりも沈んでいた

豪華な煌びやかな衣装も、撒かれる花も、全部悪夢だ

今頃、三宜は清順に輿入れしていたはずなのに

あの日、清順は三宜の手首を見て怒っていた。もう嫌われたかもしれない

清順からもらった飾り紐は、未だ袂に持っている

しかし、もう手放さなければならない

今日、三宜は輿入れし、あの皇帝の番となる

他の者を懸想している花嫁だとばれたらどうなるか

でも、ばれてもいいかもしれない

あの皇帝に今日、自分は抱かれるのだ

昨夜、乳母から結婚後の今夜なにをするのか作法を習ったのでなにが起こるのか三宜はもうわかっている


悍ましい

触られるのすら嫌なのに、清順以外と触れ合うなど考えたくもないのに

輿の中で香を焚き、抑制剤は今日は服用させてもらえなかった

つまりまた、あの皇帝の腐臭に耐えなければならないのだ

耐えられるだろうか

清順の匂いを知り、唇も、体は、まだなにもしてなかったけれど、あの甘美な幸せの後にこれはきつい


なんなら皇帝は今日にでもご崩御してくれないだろうかとすら思う

そんな三宜の願いも虚しく輿は宮廷に乗り入れ、行事は進んでいく

玉座に座る皇帝の横に座る頃には、三宜は心が引き裂かれそうだった

何故なら、その場に清順がいたからだ

玉座の横に座る清順は、皇太子らしく人を地獄に堕とす美貌に笑顔を浮かべながら、優しくその横にいる美しいオメガの夫人の手をとっていたからだ

嬰林に少し似た彼女の首筋の噛み跡を呆然と見つめる

三宜は絶望した

頭では、清順に正妃がいるのも、側室がいるのも、子供がいるのもわかっていた

三宜は、顔を掻きむしって泣き叫びたかった

清順は、ここから助けてはくれなかった

項を噛んでもくれない

なにが運命の番だろうか、なにを後生大事に飾り紐を袂に入れていたのだろうか

自分は、この皇帝に嫁がねばならなかったのに

唇を引き結び、横の玉座を見る

相変わらず猿の干物のようで、生気がない

それどころか、蛆のような小さな白い虫が皮膚を這い回っているように見えて、三宜は真っ直ぐ前を見直した

これは現実だろうか

悪い夢なのではないだろうか

そこまで自分の行いは悪かったのだろうか

本当にゆめなら早く覚めてほしい

家臣たちが傅き、祝詞が述べられ盛大な宴会が繰り広げられる
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...