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しおりを挟む気が進まないまでも、今夜の晩餐会からは逃げられそうになかった
どういうカラクリか日出がいなくなってから、実家から届く衣装ですら清順の匂いが染み付いたものとなっていたのだ
三宜にはなす術もなかった
ただひたすら引きこもり、不調だとする以外方法がなかった
松末にも相談するわけにはいかないと思っていた
清順の飾り紐が入った箱を袂にいれ、松末の衣装を着てから支度に侍女が手伝ってくれた
蕭家の侍女たちは呼ばなかった
何故なら、もう彼女達は主人を変えた
そう何となく思ったからだ
久しぶりに外に出て着替えると、気持ちすら切り替わっていくようだった
そうだ、今は何食わぬ顔をして晩餐会に出席し、選定の儀が終わったら、清順が迎えにきてくれるのを待つべきなのだ
松末も一緒にいるし、もう怖い事など起こらないだろう
きっと、大丈夫
それに松末が言うように皇帝陛下が、あの離宮に来ていたら大変な事になっていた
薄い黄色の衣装は、あまりオメガっぽさがない自分でも映えると感じる
松末と共に後宮に向かい、宴会場に向かうと途中で胡桃と葵と出会った
二人とも浮かない表情だが、三宜を見て安心したような表情を浮かべてくれてなんだか申し訳ないような気持ちになった
皇帝も現れた晩餐会だが、終始華やかなご馳走様が並べられ、和やかな空気が流れていた
こんな事ならば、もっと早く松末に相談し出席していれば良かったかもしれない
「ところで三宜、体は大丈夫か?」
不意に皇帝から振られた言葉に小さく頷く
「不摂生で申し訳ありませんでした……」
なんとなく変な空気が漂う
顔を伏せた三宜でも不穏な空気が漂っているのがわかった
一体なんなんだろうか
ふと顔を上げると、いつの間にか清順が皇帝の横に付いていた
清順が三宜の手首を凝視しているーー
ふと三宜は手首に触れると、そこには飾り紐は無かった
ざっと血の気が引く
『三宜が僕と同じ気持ちで…三宜の気持ちが変わらないなら…これを外さないでほしい…』
あの日の清順の言葉が蘇る
凄まじい美貌なだけに、怒気を孕んだ清順は恐ろしい
清順の誤解を解かなければならない。気持ちは清順だけで、飾り紐は晩餐会のために外しているだけなのだと
大切に、今も心臓の近くにおいているのだと
三宜が清順に近づこうとすれば、すっと目の前で人に遮られた
皇帝の横にいた皇太后が三宜の前に出てきて、扇子で口元を隠した
初めて見た皇太后は、初老の女性で、とても皇帝の母親には見えない
皇帝が猿の干物のような風貌のせいだろうか
「こんなまどろっこしい選定の儀などおこなわなくても、もう蕭家が皇后と決まっているでしょう。最後の課題を持ってきて、早く婚儀を執り行いましょう」
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