完結⭐︎キツネの嫁入り

66

文字の大きさ
上 下
11 / 46

11

しおりを挟む
外で侍女達が騒がしいのも気にせず、濁り湯に体がほぐれていくようだ

湯浴みを終え、体を拭っていると、いつもなら準備されているだろう着替えもない

「日出ー!日出!着替えがないぞ!」

外に控えているだろう日出に声をかけると飛んできて跪く

焦って困った表情に首を傾げていると、日出がハッとした顔つきになった

「あ…三宜様、お湯を抜くので、もう一度入り直しましょう!その間にお着替えを…今、準備しておりますので!」

「なんでお湯を抜くんだよ?もういいよ、普通に入り直してくるから………なんかあった?」

顔を俯けた日出が言いにくそうに口籠る

一体何なんだろうか

「その…今の三宜様からも…、お衣装も、その寝具も…言いにくいのですが、その…アルファ性の方に汚………匂いをつけられていまして…」

日出の言葉に、くんくんと腕を匂うが抑制剤を飲んでいるせいか何の匂いもしない

淡い石鹸の匂いがするだけだ

しかし紅潮している日出の頬を見るに、余程強い匂いなのだろう

ふと、前に外で微かに香ったあの運命の番の香りを思い出す

まさか危険を冒して此処まで来てくれたのだろうか?

胸が弾み、それならいいなと思う

しかし喜ぶ自分を恥じるような、必死な日出を前にむず痒いような気持ちにもなる

己の立場を考えれば、喜んではいけない

「あっ…洗い直してくるから、その間に準備しておいて」

バツが悪く三宜は逃げるように湯殿に向かうと、新しいお湯が侍女達によって運び込まれ透き通ったお湯に変えられていた

アルファのマーキング行為は聴いたことがあるが、会ってもいない相手にマーキング行為を受けるとは甚だ疑問である

三宜の匂いだけで、相手はそこまでしているのだろうか?

自分だけではなく、恐らく相手も三宜の存在を認知しているのだろう

なんとなく気恥ずかしいような嬉しいようなむず痒い気持ちになる

しかし今は三宜は選定の儀の真っ最中なのだ

誰だか知らないが、出会ってしまったら終わりにしか思えない

きっと三宜は、すぐにでも虜になって抜け出せなくなるだろう

何故か危うさを含む清順の顔が思い浮かぶ

いや、清順だったらいいなという願望が、このような変な事を考えさせるのかもしれない

誰が運命の相手であれ抑制剤を飲んでいる三宜には匂いすら解らないから、執着している匂いをつけられて皇帝の前に出たら一族郎党皆殺しだろう

入れ直された薄い透明なお湯は、全てを洗い流してしまうようで少し寂しい

清順、清順が欲しい

喉から手が出るほど、自分がどうなっても構わないくらい清順が欲しい

白く筋肉質な首に、全身から溢れる自信、強引に引かれた手の力は強かった

引かれた手首を眺めながら、ゆるく首を振る

考える事も許されない事だ

そう思えば思うほど惹かれていく

その日、三宜は何度も冷たい冷水を頭から被り、それでも離れない想いに、もんもんとしながら明け方に眠りについた

眠る前、微かに鼻腔に、あの運命の相手であるアルファ性の匂いが香った気がした










しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...