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外で侍女達が騒がしいのも気にせず、濁り湯に体がほぐれていくようだ
湯浴みを終え、体を拭っていると、いつもなら準備されているだろう着替えもない
「日出ー!日出!着替えがないぞ!」
外に控えているだろう日出に声をかけると飛んできて跪く
焦って困った表情に首を傾げていると、日出がハッとした顔つきになった
「あ…三宜様、お湯を抜くので、もう一度入り直しましょう!その間にお着替えを…今、準備しておりますので!」
「なんでお湯を抜くんだよ?もういいよ、普通に入り直してくるから………なんかあった?」
顔を俯けた日出が言いにくそうに口籠る
一体何なんだろうか
「その…今の三宜様からも…、お衣装も、その寝具も…言いにくいのですが、その…アルファ性の方に汚………匂いをつけられていまして…」
日出の言葉に、くんくんと腕を匂うが抑制剤を飲んでいるせいか何の匂いもしない
淡い石鹸の匂いがするだけだ
しかし紅潮している日出の頬を見るに、余程強い匂いなのだろう
ふと、前に外で微かに香ったあの運命の番の香りを思い出す
まさか危険を冒して此処まで来てくれたのだろうか?
胸が弾み、それならいいなと思う
しかし喜ぶ自分を恥じるような、必死な日出を前にむず痒いような気持ちにもなる
己の立場を考えれば、喜んではいけない
「あっ…洗い直してくるから、その間に準備しておいて」
バツが悪く三宜は逃げるように湯殿に向かうと、新しいお湯が侍女達によって運び込まれ透き通ったお湯に変えられていた
アルファのマーキング行為は聴いたことがあるが、会ってもいない相手にマーキング行為を受けるとは甚だ疑問である
三宜の匂いだけで、相手はそこまでしているのだろうか?
自分だけではなく、恐らく相手も三宜の存在を認知しているのだろう
なんとなく気恥ずかしいような嬉しいようなむず痒い気持ちになる
しかし今は三宜は選定の儀の真っ最中なのだ
誰だか知らないが、出会ってしまったら終わりにしか思えない
きっと三宜は、すぐにでも虜になって抜け出せなくなるだろう
何故か危うさを含む清順の顔が思い浮かぶ
いや、清順だったらいいなという願望が、このような変な事を考えさせるのかもしれない
誰が運命の相手であれ抑制剤を飲んでいる三宜には匂いすら解らないから、執着している匂いをつけられて皇帝の前に出たら一族郎党皆殺しだろう
入れ直された薄い透明なお湯は、全てを洗い流してしまうようで少し寂しい
清順、清順が欲しい
喉から手が出るほど、自分がどうなっても構わないくらい清順が欲しい
白く筋肉質な首に、全身から溢れる自信、強引に引かれた手の力は強かった
引かれた手首を眺めながら、ゆるく首を振る
考える事も許されない事だ
そう思えば思うほど惹かれていく
その日、三宜は何度も冷たい冷水を頭から被り、それでも離れない想いに、もんもんとしながら明け方に眠りについた
眠る前、微かに鼻腔に、あの運命の相手であるアルファ性の匂いが香った気がした
。
。
。
湯浴みを終え、体を拭っていると、いつもなら準備されているだろう着替えもない
「日出ー!日出!着替えがないぞ!」
外に控えているだろう日出に声をかけると飛んできて跪く
焦って困った表情に首を傾げていると、日出がハッとした顔つきになった
「あ…三宜様、お湯を抜くので、もう一度入り直しましょう!その間にお着替えを…今、準備しておりますので!」
「なんでお湯を抜くんだよ?もういいよ、普通に入り直してくるから………なんかあった?」
顔を俯けた日出が言いにくそうに口籠る
一体何なんだろうか
「その…今の三宜様からも…、お衣装も、その寝具も…言いにくいのですが、その…アルファ性の方に汚………匂いをつけられていまして…」
日出の言葉に、くんくんと腕を匂うが抑制剤を飲んでいるせいか何の匂いもしない
淡い石鹸の匂いがするだけだ
しかし紅潮している日出の頬を見るに、余程強い匂いなのだろう
ふと、前に外で微かに香ったあの運命の番の香りを思い出す
まさか危険を冒して此処まで来てくれたのだろうか?
胸が弾み、それならいいなと思う
しかし喜ぶ自分を恥じるような、必死な日出を前にむず痒いような気持ちにもなる
己の立場を考えれば、喜んではいけない
「あっ…洗い直してくるから、その間に準備しておいて」
バツが悪く三宜は逃げるように湯殿に向かうと、新しいお湯が侍女達によって運び込まれ透き通ったお湯に変えられていた
アルファのマーキング行為は聴いたことがあるが、会ってもいない相手にマーキング行為を受けるとは甚だ疑問である
三宜の匂いだけで、相手はそこまでしているのだろうか?
自分だけではなく、恐らく相手も三宜の存在を認知しているのだろう
なんとなく気恥ずかしいような嬉しいようなむず痒い気持ちになる
しかし今は三宜は選定の儀の真っ最中なのだ
誰だか知らないが、出会ってしまったら終わりにしか思えない
きっと三宜は、すぐにでも虜になって抜け出せなくなるだろう
何故か危うさを含む清順の顔が思い浮かぶ
いや、清順だったらいいなという願望が、このような変な事を考えさせるのかもしれない
誰が運命の相手であれ抑制剤を飲んでいる三宜には匂いすら解らないから、執着している匂いをつけられて皇帝の前に出たら一族郎党皆殺しだろう
入れ直された薄い透明なお湯は、全てを洗い流してしまうようで少し寂しい
清順、清順が欲しい
喉から手が出るほど、自分がどうなっても構わないくらい清順が欲しい
白く筋肉質な首に、全身から溢れる自信、強引に引かれた手の力は強かった
引かれた手首を眺めながら、ゆるく首を振る
考える事も許されない事だ
そう思えば思うほど惹かれていく
その日、三宜は何度も冷たい冷水を頭から被り、それでも離れない想いに、もんもんとしながら明け方に眠りについた
眠る前、微かに鼻腔に、あの運命の相手であるアルファ性の匂いが香った気がした
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