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しおりを挟む「おい、大丈夫かよー?歓談で、こんだけ早く戻ってくるとか何事だ?」
「俺、口下手だからさ、あまり興を唆らなかったみたい」
もじもじと言う三宜に松末は笑いながら肩を叩いて組んでくる
松末の綺麗な顔が近くにあるのは不思議な気分だ
「良い事だよ。あっちに嫁入りとかなったら俺たちが寂しいだろ?明日から、この広場を使って練習していいそうだぞ?葵は剣技、胡桃は薙刀選んでたぞ」
「そっか。俺は弓矢にしようと思う。松末は?」
「俺も同じ弓矢にするわ」
肩まで揉んでくる松末を二度見する
松末は弓矢は苦手だったはずじゃなかっただろうか?
「苦手じゃなかった?」
「三宜もだろ。一番苦手なのを選ばないと」
ああと頷く。これは無礼にならないように最下位を狙う争いなのだ
それを証拠に弓矢が得意な胡桃は薙刀、薙刀が得意な葵は剣技だ
「……違う種目でどうやって比べるんだろ?」
ふと湧いた三宜の疑問に松末も首を傾げる
「的で争うんじゃないか?つまり剣技や薙刀は随分と有利じゃないか」
ここぞとばかりに悪い笑みを浮かべる松末に呆れて三宜は手を振って自分の席に帰る事にした
あまりに早く戻ってきた三宜に周りが安堵の溜息を洩らしているのがわかる
清順の人気は凄まじいようだ
「清順と話は出来たか?」
皇帝の質問に三宜は首を振る
「はい、ただ殿下のお話しは俺では難しくて…父上とお話ししていただくようにお願いしました」
「清順は朝廷にも参加しているからな。三宜では難しいのも仕方あるまい、落ち込むでないぞ?褒美にこの珊瑚を賜る」
周りが響めくのがわかった
侍女達が恭しく巨大な珊瑚が運んでくるのを三宜は引き攣った顔で見つめていた
何でこうなるんだ?
可愛い胡桃や、清楚な葵、美人の松末ならばまだ解る
三宜の顔に皺がよる。ニヤケが収まらず、内心、笑い転げている松末を端の目で睨むと、皇帝に拝礼する
「ありがとうございます、こんな見事な品を俺なんかに…本当に良いのですか?」
ニチャアと不気味に笑う皇帝に短い悲鳴を上げそうになるのを必死で堪える
なんか今日の皇帝は赤黒い肌がぬらぬらしているように見えるし、うっすら粘液が付着しているような見るに堪えない気持ち悪さだ
「これで装飾品を作るといい…腕輪や耳飾りも似合いそうだな」
ぞわぞわと全身に冷や汗が流れる
「あ、ありがとうございます」
拝礼し、日出に受け取るように目配せをする
それよりも、他の者には何もない中、贈り物で装飾品を作れとはかなりまずい
贈り物は皇帝からの寵愛の現れだともいう
心なしか松末だけでなく葵や胡桃ですら嬉しそうに見える
「三宜だけ贔屓してもよくないの、胡桃には真珠、松末には翡翠、葵には紅玉を賜る。これで選定の儀の支度をせよ」
三者が背後でビクリと体を強張らせたのがわかった
ざまあみろと思った。俺だけなわけがないし、なんなら松末の翡翠が一番豪華だろう
身支度の珊瑚は後で実家に出して装飾品に加工してもらおう
耳飾りや、首飾り…適当に何でもいい
それぞれの侍女が贈り物を受け取ると、お礼を述べて散会となった
初の選定の儀の顔合わせは無事に終わったといってもよいだろう
珊瑚を珍しそうに眺めている侍女達に、実家に頼むよう事付ける
母は儚くなったのでアルファ性しかいない実家だが、優秀な侍従たちが仕立ててくれるだろう
何とか無事に終わった一日に、体の力を抜く
離宮に着いた時には、くたくたで早急に衣装を脱ぎ散らかし、湯浴みに直行した
何故なら皇帝から放たられる異臭が体に染み付いたように気持ち悪かったからだ
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