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「絶対に嫌だからな!何で俺が後宮なんて入らなきゃいけないんだ!?父上は未だ出世を狙ってるのか!?」
広く開け放たれた和式の大広間に、よく通る三宜(さんぎ)の声が響き渡った
目の前には困ったように眉尻を下げる三宜の父親と兄がおろおろとしていた
2人とも性別はαであり、軍人らしく鍛え抜かれた体は筋肉隆々であり、Ωである三宜も軍人家系である蕭家の一員に相応しく体は鍛え抜かれている
なので、世俗で言われるような儚げなΩらしい体つきではなく、美人でもなかった
性格もしおらしく大人しい楚々としているわけでなく、豪快でざっくばらんで、どちらかと言えばα性のような振る舞いである
これは上の兄2人が影響したのもあるかもしれない
「三宜、Ωとしてはこの上なく名誉な事だぞ?皇帝に輿入れ出来るのだから。それに五家から1人は必ず候補者を出さなくてはならない。蕭家で輿入れ出来るのは三宜、お前だけなんだよ?」
優しく諭す父親に三宜は、膝の上で拳を握り込む
「だからって、そんな…未だ俺は発情期も迎えてないのに…皇帝は70過ぎなんだろ…?俺は、俺は…」
言葉に詰まる三宜の脳裏には1人の朗らかに、ふにゃりと綺麗に笑う少年の姿が思い浮かぶ
その人と初めて出会った時、凛と音が耳の奥で鳴り響いた気がした
夏の蒸し暑さに加えて、直射日光のきつい紫外線が刺さるような日差しに喉が焼かれそうな気温をよく覚えている
喉に流れる汗を煩わしく思い蝉の声が聴こえないのを訝しみながら、見上げた長い廊下を頂いた宮城は朱色の豪華絢爛な構えなのに冷たく感じた
そして皇帝に呼ばれたと場を離れた父親を待ちながら迷い込んだ庭園
赤い屋根が見事な宝玉殿の横の庭園、皇族か皇族に呼ばれた客しか入れない庭園に彼は静かに其処にいた
皇族の煌びやかな衣装に身を包んだ少年は、これまで見てきた誰よりも危ういまでの色香を含んだ色気があり、この世のものではないような美しさだった
少年の長く白い指が、俄雨が降ったあとの水滴をふんだんに含んだ赤い花びらを撫で、朱をひいたような紅い唇が弧を描き、嫋やかな動きで真っ黒な彼の瞳が流すように三宜を捉えた時、凛と音が耳の奥で鳴り響き、全身が沸騰したかのように熱くなり胸が騒がしくなり、ぎゅうと締め付けるように苦しくなった
次いで、これが恋に落ちる事なのだと知った反面、彼を好きになってしまったら身の破滅が起こるような、とんでもない危険を孕んだ恐ろしい事が起こるような説明のつかない感情に戸惑いながら、ただ彼を見ていた
少年の細められた仇っぽい危うげな瞳の色が、漠然とした不安を与える
皆がこの少年を欲しがり、皆がこの少年のために破滅していくのだろう
妙な妄想まで浮かんでくる
そんな三宜をどう思ったのか、彼は優しく手を引いて撫でていた赤い花を手折って三宜の掌に乗せてくれた
眩しく笑う彼に全身が、骨の髄がとろとろと溶けるように力が抜けていくようだった
「……あ、ありがとう。あの、名前をお聞きしても?」
話をするとなると、恥ずかしくなってしまいもごもごと口籠る三宜を彼は思いの外、強い視線で射抜き不意に腕を掴んできた
痛いくらいに掴まれた腕と少年を焦りながら見つめていると、少年はふと笑った
「僕を知らない?僕は君を知っているよ、蕭家の三男の三宜でしょう?こんな所で何してるの?」
「あ…父を、父と同行して、待って…いまっ…て…」
口ごもる三宜の手を妙な感じで撫でると、少年は爪が食い込むくらいの勢いと力で右腕を掴み、近くにある茂みに三宜を引きずり倒し、跨った
思いもよらない少年の行動に抗うように腕を振り乱したが、少年は見た目と反して力が強く外れない
「………なっ!なにしやがる!!?」
うっとりと長く白い指で頬をすりすりと撫でられ、少年の静かな目が、その実、目の奥で獣のように何か空恐ろしいモノが潜んでいるかのような眼を覗いて息を呑んだ
少年からは物凄く良い匂いがする
「三宜は僕のものだよ。忘れないでね?」
押さえつけられたまま、ガリッと首筋の骨を噛まれる
顔を上げ紅潮し興奮している少年は、何よりも美しく誰よりも綺麗で危うかった
空気に飲まれたのか、少年の妖しさに当てられたのか三宜は跨られたまま、ついに頷いた
三宜が頷くと、少年はもう一度忘れないでと言った
そのあとは、俄かに辺りが騒がしくなり、気づいたら泣き疲れて父親に背負われて帰るところだった
その日から、三宜は寝ても覚めても少年の事ばかりで何も手がつかなくなった
傷跡が消えてしまうのが悲しくて仕方がなかった
これは間違う事なく、三宜の初恋だった
広く開け放たれた和式の大広間に、よく通る三宜(さんぎ)の声が響き渡った
目の前には困ったように眉尻を下げる三宜の父親と兄がおろおろとしていた
2人とも性別はαであり、軍人らしく鍛え抜かれた体は筋肉隆々であり、Ωである三宜も軍人家系である蕭家の一員に相応しく体は鍛え抜かれている
なので、世俗で言われるような儚げなΩらしい体つきではなく、美人でもなかった
性格もしおらしく大人しい楚々としているわけでなく、豪快でざっくばらんで、どちらかと言えばα性のような振る舞いである
これは上の兄2人が影響したのもあるかもしれない
「三宜、Ωとしてはこの上なく名誉な事だぞ?皇帝に輿入れ出来るのだから。それに五家から1人は必ず候補者を出さなくてはならない。蕭家で輿入れ出来るのは三宜、お前だけなんだよ?」
優しく諭す父親に三宜は、膝の上で拳を握り込む
「だからって、そんな…未だ俺は発情期も迎えてないのに…皇帝は70過ぎなんだろ…?俺は、俺は…」
言葉に詰まる三宜の脳裏には1人の朗らかに、ふにゃりと綺麗に笑う少年の姿が思い浮かぶ
その人と初めて出会った時、凛と音が耳の奥で鳴り響いた気がした
夏の蒸し暑さに加えて、直射日光のきつい紫外線が刺さるような日差しに喉が焼かれそうな気温をよく覚えている
喉に流れる汗を煩わしく思い蝉の声が聴こえないのを訝しみながら、見上げた長い廊下を頂いた宮城は朱色の豪華絢爛な構えなのに冷たく感じた
そして皇帝に呼ばれたと場を離れた父親を待ちながら迷い込んだ庭園
赤い屋根が見事な宝玉殿の横の庭園、皇族か皇族に呼ばれた客しか入れない庭園に彼は静かに其処にいた
皇族の煌びやかな衣装に身を包んだ少年は、これまで見てきた誰よりも危ういまでの色香を含んだ色気があり、この世のものではないような美しさだった
少年の長く白い指が、俄雨が降ったあとの水滴をふんだんに含んだ赤い花びらを撫で、朱をひいたような紅い唇が弧を描き、嫋やかな動きで真っ黒な彼の瞳が流すように三宜を捉えた時、凛と音が耳の奥で鳴り響き、全身が沸騰したかのように熱くなり胸が騒がしくなり、ぎゅうと締め付けるように苦しくなった
次いで、これが恋に落ちる事なのだと知った反面、彼を好きになってしまったら身の破滅が起こるような、とんでもない危険を孕んだ恐ろしい事が起こるような説明のつかない感情に戸惑いながら、ただ彼を見ていた
少年の細められた仇っぽい危うげな瞳の色が、漠然とした不安を与える
皆がこの少年を欲しがり、皆がこの少年のために破滅していくのだろう
妙な妄想まで浮かんでくる
そんな三宜をどう思ったのか、彼は優しく手を引いて撫でていた赤い花を手折って三宜の掌に乗せてくれた
眩しく笑う彼に全身が、骨の髄がとろとろと溶けるように力が抜けていくようだった
「……あ、ありがとう。あの、名前をお聞きしても?」
話をするとなると、恥ずかしくなってしまいもごもごと口籠る三宜を彼は思いの外、強い視線で射抜き不意に腕を掴んできた
痛いくらいに掴まれた腕と少年を焦りながら見つめていると、少年はふと笑った
「僕を知らない?僕は君を知っているよ、蕭家の三男の三宜でしょう?こんな所で何してるの?」
「あ…父を、父と同行して、待って…いまっ…て…」
口ごもる三宜の手を妙な感じで撫でると、少年は爪が食い込むくらいの勢いと力で右腕を掴み、近くにある茂みに三宜を引きずり倒し、跨った
思いもよらない少年の行動に抗うように腕を振り乱したが、少年は見た目と反して力が強く外れない
「………なっ!なにしやがる!!?」
うっとりと長く白い指で頬をすりすりと撫でられ、少年の静かな目が、その実、目の奥で獣のように何か空恐ろしいモノが潜んでいるかのような眼を覗いて息を呑んだ
少年からは物凄く良い匂いがする
「三宜は僕のものだよ。忘れないでね?」
押さえつけられたまま、ガリッと首筋の骨を噛まれる
顔を上げ紅潮し興奮している少年は、何よりも美しく誰よりも綺麗で危うかった
空気に飲まれたのか、少年の妖しさに当てられたのか三宜は跨られたまま、ついに頷いた
三宜が頷くと、少年はもう一度忘れないでと言った
そのあとは、俄かに辺りが騒がしくなり、気づいたら泣き疲れて父親に背負われて帰るところだった
その日から、三宜は寝ても覚めても少年の事ばかりで何も手がつかなくなった
傷跡が消えてしまうのが悲しくて仕方がなかった
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