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暗く静かな湿地帯に、オンズの花だけが、そよそよと風に揺れて咲いていた

尻や、あちこちが痛む

痛む体を引き摺り、お面を取ってオンズの花の露に口をつける

甘くて美味しいその味に夢中になって花にまで齧り付く

白い光が粒になって広がり甘い香りが口に広がり、みるみるうちに傷が癒えていく


無くなった鼻や、口、傷痕が全て癒えてネロはぺたぺたと顔を触った

「ぁ、あ、あう、ん…!声が…」

涙がボロボロと溢れた。パーチェス達は傷や声帯のことをずっと気にしてくれていた

命の恩人だったのに、何も出来なかった

そして、豹変したミネルバに怖気が走る

街に行くには聖女だと絶対にばれてはいけない下半身の心配はあるが、ミネルバ達はじきに此処も調べに来るだろう

せめてパーチェス達の身柄を引き取りたい。3人は孤児と言っていた。弔いたい

しかし、今は武器がない

オンズの花を手折ると、お面を再び被り、ネロはギルドに飛んだ

ギルドでオンズの花を売り払うと、かなりの高額になった

ギルドの報告にネロが来たことに、ギルド長は戸惑っていた

「君は登録したばかりのク、クロだね?クーやグリフォン、パーチェスはどうした?」

クーたちの事を聞かれて涙が出る

「………3人とも死んだ。俺はオンズの花の露で生き延びた」

涙声にギルド長は察したのか絶句している

「百足の大群が現れたんだ。皆呪われてスキルが使えなくなった…」

「君も呪われていたね…?百足の生き残りがいたのか…」

ギルド長の言葉に頷く

「祈りを、百足の数だけしてもらえれば、呪いは解けるよ。しかし、よく生きて戻れたね…Sランクでも難しいクエストだ…」

「あ、俺祈りは取得しているので自分で毎日かけてみます…」

ギルド長は痛ましい顔をした後、3人の死亡届を持ってくる

震える手で、3人の名前を記入した

「neverのクランは代表をクロに登録しておこう…今はゆっくり休みなさい」

ギルド長に肩を撫でられて出口まで見送られた。

3人で泊まった宿に宿泊すると、何かを察知したのか受付の女性は深々と礼をする

たまらない気持ちで、なかなか眠れなかった

朝になりパーチェスと来た武器屋に向かう

あいつら、絶対に許さない

市場に行くと、まずぼろぼろの衣服を買い替え、等身の長い剣を数本購入する。とりあえずの目標は3人の遺体の奪還だ

ちゃんと安らかに眠れる綺麗な場所で弔ってあげないと、あんまりだ

小さなグリフォン、綺麗なパーチェス、筋肉むきむきのクー

最後があれではダメだ。取り返して綺麗にして埋葬する。ネロは、またじわりとわいた涙を拭う。

遺体ですら玩具のように弄んでいた。3人に対してそのような事、絶対に許してはいけない

剣は3本、人なんて斬った事がない

手が震える

ドラゴンの広場へーー絶対に絶対に返してもらう

黄色の魔法陣に花吹雪が舞う

右腕を上げて

目の前が黄色に染まる

たどり着いたミネルバと初めて会った場所、あれだけ広げられていた宿営地は跡形もなく、そこはただ広大な原っぱが広がっているだけだった

さくさく足音を立てて、周囲を窺う

3人の跡形すらない

何処かに埋葬されたのだろうか?

探索は使えない事が歯痒いが、わざわざ埋葬をするだろうか?手間をかけて?死に尊厳もないやつらが

埋葬跡は見つからず、途方に暮れる

あとは探していない所は、あの洞窟ーー

あそこでミネルバにされた酷い事が脳裏に過ぎる

あそこには行きたくない、行きたくないが

これだけさっぱり何もないのだ

ミネルバも、きっといないはず

3人を何処へやったのかーーー

洞窟への細道を上がる。なんとなく足が重たく、嫌な胸騒ぎに何度も唾を飲み込む。怖い、あそこには行きたくないーー

剣を構えたまま、ゆっくりと音を立てないように、忍び寄る

ミネルバの宿舎は、もう無かった。

脂汗が流れ、ほっと一息吐く

静かな周りには大百足の消し炭以外、何もない

ゆっくりと剣を鞘に収め、のろのろと、もう壊れてしまった、かつて作った椅子に座る

そよそよと夜風が吹いて、静かな夜だった

洞窟を振り向くと、あの時のまま引き裂かれた入口に向かう

灯りはまだ健在で、静かに足元を照らす

室内はぐちゃぐちゃに荒らされており、ベッドは半分に折れ曲がり血の跡が飛び散っていた

ミネルバは、これを見たのか……

ベッドをさらりと撫でる

『………クロちゃん』

何処かからグリフォンの声が聞こえる。とうとう幻聴まで聴こえるようになったのかと血塗れのシーツに身体を倒す

『クロちゃん、おかえりぃ…』

たしかに聴こえたグリフォンの声に目を開く。今、確かにグリフォンの声がした

「グリフォン!?グリフォン!?生きてるのか!?返事をしてくれ!!」

起き上がり、周りを見渡すが誰もいない。思わず外に飛び出す

「グリフォン!?何処だ!?」

森の茂みの中に小さなグリフォンが立っていた。生気は無いものの、確かにグリフォンだった

月明かりの下、小さな体を

「ああ…!グリフォン!グリフォン!!良かった!無事だったんだな!!」

グリフォンに駆け寄れば、グリフォンが両手を広げたので泣きながら抱きしめる

「良かった…!ほんとうに良かった!!グリフォン、パーチェスとクーは?」

抱きしめたグリフォンの様子がおかしい。かたかたと震え出して、手も真っ黒に染まっていく

『助けて、助けてぇ、クロちゃん、痛いのぉ、痛いのぉ…』

「どこか痛いのか!?グリフォン、回復薬、飲め、ほら!」

回復薬の瓶をグリフォンの小さな口に近付けると、かたかたと震えていたグリフォンが止まった

『なんだ、喋れるんじゃないか。君は戻って来ると思ってたよ』

ぐるんとグリフォンの目玉が回り、ころりと首がもげる

叫び声を上げる間もなく瓶を落とすと、転がったグリフォンの体と頭は腐ったような異臭を放ち、しゅうしゅうと音を立てて崩れていく

「あ、あ…グリフォン!?グリフォン…」

月明かりで伸びてきた長い影がさす。グリフォンだった土塊をかき集めるが、もう形を成していない

「やっと帰ってきたね。私の奴隷……」

夜風に金色の髪を靡かせて、美しい碧眼は静かな湖のように深く夢のような美貌の男、ミネルバがいた

目に合わせたのか蒼い軍服に身を包み、いつから見ていたのか、ネロはグリフォンの首が落ちた時点で腰が抜けて立てない

手だけで逃げようと後退りするが、ミネルバの歩みの方が早かった

屈み込み、ネロを観察するように見ている。手に持った細い鞭で、ネロの首筋を撫で腹のシャツを捲る

そこには昨夜つけられたミネルバの奴隷印が深く刻まれている

「契約、まだだったんだよね。抵抗する姿が見たくて。契約事項、私の許可なく移動魔法を使ってはならない。私の許可なく喋ってはいけない。私の許可なくスキルを使ってはいけない、私の許可なく食事してはいけない。私の命令には絶対に従う事、以上を契約とする」

お腹の奴隷印が光り激痛を伴う。痛みに身体を折り曲げる姿をミネルバは笑って見ていた

「靴を舐めなさい」

誰が舐めるかと思っていても、身体が勝手にミネルバの靴を舐め始める

何か叫んだり、悪態をつこうとしても喉から声が出なかった

お面をずらし舌を伸ばし靴を舐め続ける自分に涙が出る

「もういいよ、さあおいで…」

ミネルバはあの時と変わらない優しい笑顔なのに、どこか寒い

手を取られ、洞窟に連れて行かれる

行きたくない、そこであったミネルバにされた事を思い出して、首を振る

被っているお面がカタカタ鳴った

嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤダ嫌だ

「……抱かれに戻って来たんだろう?醜悪な化け物だが、身体は悪くない。抱いてやるから来い」

全身が震え出したネロをミネルバは嘲笑うように自慰を命じる

身体は命じられたまま、履き物をずらし、まだ萎えている陰茎を取り出して擦り始める

「情事中は声を出していいぞ」

ミネルバの声に、喉が開放される

「ひ、ひ、嫌だっ…やめて、嫌だ…」

「嫌なのに自分で自分を慰めてるの?本当に嫌ならやめてごらん?」

揶揄うように耳元で囁かれ、首を振る

しかし、手は止まらなかった

「ん…やだ、嫌、やめ、させて…ん…」

「何を?自分でやめたらいいのに、やめないのはお前だろう?」

ミネルバの大きな長い指が擦って勃起した陰茎に触れた瞬間、腰を震わせて射精する

信じられない恥辱に真っ赤になって俯くが、手がまだ止まらない

いったばかりで、体もだるいのに追い立てるように擦り上げる

「ふふ、何回いけるかな…?」

ミネルバが腰かけたベッドの下で身体を丸めて手だけは止まらない

「あ、ん、嫌だ…、くっ、はっ…」

「服を全部脱ぎなさい」

静かなミネルバの声に、身体は従い服を脱ぎ始める

「やだ、脱ぎたくないっ…やめて、嫌…」

言葉は虚しく、下履きも下着も全て脱ぎ捨てられる

「おや?お前傷はどうした?」

ミネルバは今気付いたように、胸あたりから喉に伸びていた傷痕がない事を確かめるように指の腹でなぞる

「面を取りなさい」

震える手でお面を外す、涙でべたべたになった顔に、ミネルバが息を飲んだ

「………ネロ」

涙の跡を拭い、切なそうな愛おしそうな顔をして、ミネルバの唇が口を塞ぐ

ぎゅうと抱きしめられて、舌を絡ませ随分と長い間ずっとキスをしていた

今までの手つきが嘘みたいに優しく横たえられ、頬にぽたぽたと水滴が落ちてきた

「…………ネロを返してくれ」

いきなり頬に込められた指の力に痛みで悲鳴を上げる

恐れて見上げればミネルバは泣きながら嗤っていた
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