単話集

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偽り ifもしもちゃんと番になったら

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物心ついた時にすでに俺の身近にいた幼馴染である賀集彰

彰は、両親共にαのサラブレッドのαだ。

彰は、サラブレッドらしく正しく遺伝子が作用して優秀で、同じαでもちょっとお目にかかれないくらい美形で、スタイルもモデル体型で

凄まじくモテた。

小中と、彰の争奪戦は凄惨で女子男子、α、β、Ω関係なく彰の虜だった。

熱狂的な人気を他所に、彰はいつだって俺に付きっ切りだった。

だから、嫌だった。比べられて貶められるのが

そして、嬉しそうに付き纏う彰を心の何処かで喜んでいる自分も嫌だった

中学に上がっても彰は俺の側を離れなかった

バース検査も2人並んで受けに行った

採血されて、止血をしている時間に、彰と目が合い、きっと彰はアルファだろうなと、ぼんやり思った

俺は平凡だしベータだろうな、とも

「ねえ、遊、バース性が何であっても離れないよね?一緒にずっといようね?」

何が楽しいのか背中に抱きついてきて、でかい体を俺に擦り寄せながら言う彰の顔をべしりと叩く

「当たり前だろ。何年一緒なんだよ」

照れ隠しに、そっぽ向いたまま言えば、彰は嬉しそうに笑っていた

転機

転機が訪れたのは、バース性の結果が出たその日だった

Ωと印刷されたプリントを絶望したまま握りしめ、その日は早退した

家に帰ると、アルファの母親にプリントを渡すと泣き喚かれた

ベータの父親が帰ってきてから話し合いが行われていたが、弟がアルファなのだ。2人はアルファの弟の為に、俺を施設に預ける結論に至ったようだった

次の朝、黙って荷物を纏めていると、アルファの母親に泣きながら抱きしめられ、オメガがアルファと暮らすのは危険なのだ施設にはオメガしかおらず安全なのだと言われて、高い値段であろう首輪と抑制剤をもらった

指紋認証でしか外せない重たい首輪は、俺のバース性を責めているようでたまらなかった

捨てられた家を一度だけ振り返ってから、呼ばれていたタクシーに乗り、オメガ専用の施設に向かった

学校は施設から通う事になっていたので、区域の違う地区になる

見慣れない街並みに、オメガ専用施設は厳重な警備がなされていて、すぐにわかった

オメガはアルファから狙われる上に、希少価値が高いそうだ

何重にもなっているセキュリティを、バーステスト時に登録された指紋や声紋、体液等で解除していく

やっと開いた門は10秒しか開かないので慌てて中に入ると、閉じた正門からは再び施錠が行われているように中から動作音が聞こえた

彰と約束した、"ずっと一緒にいようね"は果たされないかもしれない

アルファの近くにずっと居られるのは、同じアルファか、影響を受けにくいベータ、さもなくば番のオメガだけだ

親友と言っても差し障りがない彰と番になるなんて考えられない

きっと彰も同じだろう

案内された簡素だが、生活に必要な物が全て揃っている部屋に少ない荷物を広げてしまう

静かな室内は殺風景で強烈に孤独が襲いかかってくる

いつもなら、今ごろ家族揃って食卓についている時間なのに

食堂は時間が決まっており、部屋に届けられたのを終わったらボックスに返却する。ヒート時の配慮かららしい

室内にユニットバスが付いており、シャンプーやボディソープなんかも備え付けられていた

窓の外をぼんやりと眺める。夜景が綺麗で、自宅の方向を見ていた時、目が眩むくらい空が眩しく光ったかと思うと、爆音と凄まじい爆風で窓がバリバリバリと音を立てて震えた

やがて光がおさまり、静かになったかと思うと、あちこちから消防車や救急車のサイレンが鳴り響く

美しかった夜景に、ぽっかりと開いたブラックホールのように一部分がない

大きな黒い闇は、先程まで存在していた光まで奪い去っていったようだ

唖然としながら窓を開けると、混乱の怒鳴り声や、叫びが聞こえる

慌てて自宅の光を探す

何が起こったのか、わからないがとにかく、家族が心配で家や、それぞれの家族の携帯にかけるが虚しくアナウンスが繰り返されるだけだった

彰から何度か着信が入っているようで不在着信がメールで何度か入ったが、携帯自体が繋がらなくなっているようで、かけ直してもアナウンスが流れるだけで諦めた

放送で、外に出ないようにとアナウンスがかかり、サイレンは朝方まで鳴り止まなかった

結局、なにもわからないまま制服に着替え学校に行くと、彰が飛びついてきた

半泣きになりながら、何度も体を手のひらでベタベタと確認し、本当に安堵したのか体の力をふにゃりと抜いて本当に良かったと彰は呟く

そして、首輪を見つめてオメガだったんだね!と声を弾ませていた

一方、俺は彰の言葉に頷きながら上の空で昨夜の出来事ばかり気にしていた

「昨日の爆発、隕石なのかミサイルなのか解らないらしいけど、D地区がぶっ飛んだらしいよ」

教室に入ると、昨日の爆音の話で持ちきりで、数人の席に花が供えられており、自分の席にも花があった

「先生、遊は無事なんだから、これやめてよ」

彰は気を取り直したように、花瓶に入った花を担任まで持っていく

「ああ、すまない。無事だったのか、なにせD地区はクレーターになっていて何も残ってないらしく安否確認もわからないのだ」

担任の声が遠く聞こえる

昨日、母親と話をしたばかりだし、弟は変わらず生意気で、父親は何も言えないみたいだった。みんな元気だったよ?先生は何を言ってるのだろう?

腰が抜けて、へたりとその場に座り込むと彰が支えるように抱き起してくれて、保健室まで連れてきてくれた

横になるようにシーツを被せられて、呆然と天井を見上げる

彰に手を握られて、撫でられていても頭が真っ白になって、ただ呆然としていた

「遊、大丈夫、大丈夫だから。悪いことなんて起こりはしない。寝るんだ。昨日、寝てないんだろ?だから、悪いことを考えてしまうだけだ」

目蓋に彰の大きな手を被され、喉から嗚咽が溢れる

「昨日、母さんに首輪を貰ったんだ…指紋認証のすごく高いやつと、抑制剤を…。で、家にアルファがいるから、施設に入るように言われて…」

涙が次々と溢れてくる。彰の手は優しかった

俺の考えすぎなんだろうか?寝不足から悪い考えをしてしまっているだけだろうか?それとも昨夜のあれは夢で、何も起こってないんだろうか?

「少し眠ろう?大丈夫だから…、遊、ずっと側にいるから…」

手を握ってくれた彰の手は温かかった。引きずり込まれるように寝てしまい、目が覚めると全く見覚えのない天井だった

上半身を起して辺りを見渡すと、広い室内には空気清浄機と、今、寝ていた大きなベッドしかない

起き出してドアを開けようとすると、向こうからドアが開いた

「あ!遊、大丈夫?オメガの施設なんて身寄りがないオメガは人身売買されたり噂をきくし心配だから家に連れて帰ってきたんだ。この部屋、好きに使ってね。荷物、取りに行こう?」

彰に差し出された手を戸惑いながら取る。

人身売買?ありえるかもしれない。ベータの人口が7割だがオメガの人口に対してアルファの人口は遥かに多い

番のないオメガを高値で売買しているのは、聞いたことがある

「彰、ごめんな?」

施設には、何も言わずに荷物を纏めて彰の家にお世話になる事になった

部屋は内側から鍵がかかり、ヒート時の為の抑制剤も副作用が少ない高額の物を渡された

「大丈夫だよ、ご家族が見つかるまで居ていいから。両親も滅多に帰ってこないし。ヒート時は教えてね?栄養剤とか色々用意するから」

頼もしい幼馴染に、じわりと涙が浮かぶ

普段、人気者の彰といると嫌がらせを受けたりするから避けたりしていて申し訳ない気分になる

「ありがとう、彰…本当にありがとう…」

ぽんぽんと頭を撫でて、彰は気にするなと部屋から出て行った

あれから数ヶ月は平和そのもので、病院でいつものように定期検査を受けたら、あと2週間でヒートに入るので準備するようにと通達された

はじめてのヒートで、勝手がわからないが彰から貰った副作用が少ない方の抑制剤を持ち歩き予定日の3日前から部屋に籠る事にした

彰にヒート予定日を告げると、栄養剤やペットボトルのお茶や水、簡易に食べれそうな非常食が入った段ボール一式を渡された

ちゃんと部屋の内鍵を掛けて、抑制剤を飲みドキドキしながらヒートを待つ

初めはかなり辛いんだと、聞いたことがある

ベッドで携帯でネサフをしていたら、いつの間にか寝てしまっていた

目を覚ますと、まだヒートにはなっていないようだった。抑制剤が効いているのかもしれない。少し怠いが起き上がり、バスルームに入ってシャワーを浴びる

彰の家は両親共にアルファで、富裕層が住む地区でも指折りの大金持ちだと聞いた事がある

バスルームは施設とはうってかわり、大理石で出来ていて造りからして違う

シャワーパネルを押してお湯を止め、用意されていたバスタオルで髪と身体の水滴を拭いながら脱衣室に出る

バスタオルもふわふわで、厚手のよく吸収しそうな生地で心地よい

着替えを用意してなかったことを思い出し、バスタオルを腰に巻いたまま部屋に戻ると、妙な熱さと、くらくらするような目眩に襲われる

これが、ヒートなのだろうか?ベッドに寄り掛かるように身体を預けてその場にへたり込む

抑制剤があんまりきいてないのだろうか?

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