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間話 ぐろ
しおりを挟む亜貴の項に私の噛み跡がなかった
私の頭は真っ白になっていくのを感じた。震えながら、傷が痛むと言う亜貴を気遣って、ゆっくりと名残惜しかったけれど下せば亜貴は急に走り出して逃げ出した
その後ろ姿に釘付けになった。襟足が少し跳ねている黒髪に愛おしさを感じながら首を見て恐怖が襲いくる
どうして?確かに番にした筈だ
真っさらな項は、まだ亜貴が誰のものにもなっていない証だった
つまり、誰かのものにされてしまう危険性を示していた
どうやって番を解除したのか?いや、番を解除するのはアルファ性からしか出来ない。あれは解除というより最初から無かった事のように亜貴は真っさらになっていた
足元にぽっかり穴が空いたように、奈落に落ちていく気分だった
亜貴に溺れるあまり、私は何も見えていなかったのだろうか?
どうして?亜貴は最初から私の番になる気はなかった?この目の前の兎獣人と組んで番の儀式を逃げたくらいだ
今までは感じなかった憎しみが少しずつ胸に燻っていく
そこまで、私から逃げたいのだろうか?
亜貴を探すように静かに命じて、手に残った亜貴の脚につけられていた足環を見つめる
亜貴は、もう二度と会わないと言っていた
もう二度と会わない?私と?運命の番が?私を拒否した?
どす黒い怒りが沸々と湧いてくる
とりあえず、目の前のこいつは亜貴と組んで私から亜貴を取り上げようとしているということでいいんだよな?
番の儀式を挙げた、名前なんだったか忘れたけど兎としよう。兎には手を出せないが
「少しお話をしよう」
椅子に兎の取り巻き達を取り敢えず侍従達に縛らせ、兎と対面して座る
がたがたと震える兎の周りで、ゆっくり侍女の首を1人ずつ鋸で引かせていく
悲鳴を上げ血飛沫を浴びる兎は俯いたまま口を引き結んでいた
「教えておくれ。何故、亜貴が怪我をしていて、私を拒むのか。ずっと黙っているなら、周りの者が終わったら、お前の家族に変わっていくだけだ」
侍女達に持って来られた、お茶の匂いを楽しみながら口にする
兎は自分には手を出せないと、たかを括っているのか黙ったまま下を向いていて埒があかない
静かに耳打ちに来た侍女に頷く
「亜貴は見つかった?ん?医局にいるの?手当されてたから治療してるのかな?ふふ、あの耳は穴熊なんだ?穴熊のメイドさん可愛かったね。アルファは絶対に近付けないで亜貴が逃げないようにだけ見張ってて」
侍女が頭を下げたまま退出するのを兎が凄まじい憎しみを込めて睨んでいるのを見て、もう一口紅茶に口をつける
深い茶葉の味を舌で味わいながら、香りを楽しむ
これは取り返しがつかない事をしたかもしれない。兎の口車に乗って亜貴を危険な目に遭わせてしまった。どうやら兎は亜貴に悪意を持っている
亜貴はそんな私をどう見ただろうか?せっかく我慢して、優しくみせて亜貴を懐柔していたのに台無しだ
唇を舐めながら考える
どうやって亜貴を再び番にするか、そして噛み傷をどうやって消したのか聞き出さないといけない
目の前の兎ごときが何ができるというのかと侮っていたのも良く無かった
そもそも亜貴が、この目の前の兎と組んでいなかったとしたら?
亜貴が本当に着ていた番の儀式の衣装は脱ぎ捨てられていた。最初からすっぽかす気の衣装を一度でも着用するだろうか?
ふと考えついて、自分に害が及ばない限り口を割らない兎に気がつく
番の儀式を挙げた相手に間接的でも害を与えることは出来ない
つまり自分が関与しなければ害を与えられるのだ
再び唇を舐める
カップの中の紅茶が揺れた
end
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