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間話 弱グロ注意、読まなくても大丈夫です
しおりを挟むイングリッシュガーデンが見事な庭園は小川が流れてレモングラスが生い茂り、亜貴にあげた一区間も美しい花々が咲き誇っていた
"庭師の男と逃げたようです!!!"
初めに聞いた時には信じられなかった。さっきまで番の儀式で、露出が激しいのはやめて欲しかったけれど、さっきまで亜貴とパレードで一緒だった筈だ
手を繋いで番の儀式を挙げたし、誓ったはず
今はお疲れでしょうからと侍女長が控室に連れて行ったから、側にはいないが、手の温もりがまだ残っている
度々、亜貴が2人いるような錯覚もあった。匂いが他人と混ざっているような、気にする事もなく亜貴はまごう事なき番なんだけれど
今となっては本当に亜貴が言ったのか怪しいが、侍女長から亜貴が怖いから儀式を延期して欲しいと言われ、随分待った。逃げたというが、番の儀式を挙げたのだ
番の儀式は神聖なもので、他者と交わろうものならオメガは、この世の地獄のような責苦の苦痛を味わう
アルファ性には、その制約はないが、それは後継を残さねばならない権力者達のエゴだろう
だから、この時は逃げたと聞いても何処へ逃げるというのか、しかも男と逃げるなんて手が触れるだけでも苦痛を味わうだろうにと帰ったら、お仕置きだなとか少し余裕もあった
控室からリースが出てくるまでは
頬を染めて、ふわふわした金髪に甘い砂糖菓子のような男は、番の儀式の亜貴の衣装そのままだった
リースと名乗る兎獣人のオメガは、自分が誓いを立てたのだと言う
しかも、今なら解るが偽りの亜貴の匂いがする。いつも混じる邪魔な甘いにおいのせいで気が付かなかった
いつから、こいつだったのか?
嫌な予感に血の気が引いていく
「亜貴、亜貴はどこだ!!?」
胸に迫りくる喪失感と、龍身になり全てを破壊したいような焦燥感に駆られる
私の番が奪われた!奪われた!!
目の前のリースを縊り殺してやろうとしたが、番の儀式を誓った相手のために何もできない
そして厄介な事に、リースからは亜貴のにおいが少しだけするのだ
「リース様を番様にすれば良いのです。ユティエル家という立派な名門のオメガ令息です。一般的に男と逃げたオメガなぞ輪して体でも売らせて捨てれば良いのです。龍王様を侮辱した逃げたオメガと狼獣人を極刑に処しましょう」
そう言い募る侍女長の脚を掴んで持ち上げると、コロリとガラスの瓶が落ちて来た
亜貴の匂いがする。香水瓶を割り砕く
こんなものに、私は騙されたのか
「ひぃいい!おやめくださいませ!!龍王様!お許しを!」
泣き叫ぶ侍女長の脚の腱を引きちぎり、首を掴んで引き摺り外に行こうとすると足元にリースが縋り付いてくる
「あ、あの、いっ、一生懸命、陛下にお仕えします…!!」
蹴り首を縊り殺したかったが、どうにもこの番の戒めはオメガに不利な分、オメガへの暴力や害することは人を介しても出来ないらしい
とても厄介な制約だ
「君は自分の屋敷に帰って沙汰を待つように。亜貴に何かあったら、君には何も出来ないが一族に血で償わせるから」
そのまま侍女長の首を掴んだまま煩い悲鳴を上げていたので、喉も引き裂く
ぐべぇと変な声をあげて侍女長は静かになった
その足で念の為、船が寄港しているのを調べとくように侍女長に命じ、心配が残る、あの木崎 巡という男のところに念の為向かう
犬がカモフラージュで、巡の所へ行っていたら目も当てられないからだ
私を迎えた巡は変な顔をしていたが、室内を確認までした私を罵倒していた
「ざまぁみろ!亜貴はお前なんかタイプじゃない!俺と亜貴を引き裂きやがって!いい気味だ!!」
すーと全身の血が引いていくようだった。私は間抜けな男で番を奪われてしまったのだろうか?
ああ、でもこいつは亜貴の友達だから、我慢しなきゃ、我慢しなきゃ…戻ってきた時、嫌われ……
「俺はお前の知らない亜貴を全て知っている!ははっ、痛快だ」
はっ、と気付くと巡を死なない程度に嬲ってしまっていた
血塗れの巡に袋を被せ、椅子に縛りつけながら、亜貴の幼少期の話を余す事なく話させて、小さい頃の写真や私物を取り上げつつ、こんな事をしている場合ではなかったと我に帰り浮島に戻る
亜貴が他の誰かに番にされていては、気が気ではなく港の監視カメラに犬と仲睦まじげに寄り添う亜貴を見て、手が震えた
私を騙して、犬と逃げたのか
気付くと侍女長の首と脚を、ぷちりと捥いでしまっていた
あまりに胸に渦巻く憎悪に、亜貴が私のために作ってくれた庭園の区画を跡形もなく焼き尽くし、駅から途絶えた手掛かりに途方にくれていた
完璧に亜貴と犬は逃げたのだ。亜貴の発情期までには、まだ時間がある
番にさえなっていなければ何とかなる
亜貴から辿れないならば犬から辿ればいいのだ
日数が経つごとに焦りも大きくなっていく
数日後、天涯孤独のため、手掛かりがなかった犬の携帯番号を照会をかけて手に入れ、あらゆる回線から探知を試みた
そして、ふと亜貴の友達を椅子に縛りつけたままだった事を思い出して、死なれると不味いかもしれないと縄を解きに行くついでに、巡に犬に着信を入れさせた
繋がった先で、亜貴の声がする
『助けて…助け……』
巡が余計な事を口走ったので慌てて口を塞ぐ
『もしもし?誰ですか?く、クリマさん?…じゃなさそうだ。誰ですか』
「見つけた」
探知出来た先を見て、獣人街とは盲点だったと苦味走る
亜貴、君と会ったら私は怒りで我を忘れてしまうだろうか?狂いそうな時間、待ってやっと出会えた番なのだ。愛してる。
苦しい
顔を見たら全部許してしまうだろうか
end
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