完結⭐︎龍人様の番

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一緒に見た星

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その日はクルルーシュカと選んだ苗が大きくなって花が咲いたので、一人で葡萄ジュースでお祝いをしていたんだ。

朝から曇天で今にも雷雨に変わりそうなくらい遠雷が光っていた。

じめじめしたぬるくなった空気が顔にまとわりついて、酸素が足りない感じの茹だる暑さだった。

イングリッシュガーデンの城はあいも変わらず涼しげだが

ぶっちゃけいつ帰れるのかな~とも思ってたけど、クルルーシュカと言い争い、無視と暴れることで庭師の仕事もゲットしていたし、舗装工事や新しいガゼボを協力して作ったりまあまあ充実もしているから、そのまま雇ってもらってていんだけども。

今は煉瓦で作る小道を早朝から庭師達で作っていた

ロックガーデンみたいに石を積み上げて、穴から星を見るらしい

夜、見にきてみようかな

「おーい、亜貴、休憩だってー!お前朝ちゃんと食べてんの?昼と夜は見るけどさあ」

最近、仲良くなった庭師の狼獣人のホーイさんがぴくぴくと毛深い耳を動かしながら言う

見た目どう見ても体は逞しい男だが顔が犬なので、つい撫でてしまう。

朝は絶対にクルルーシュカが譲らないから、朝食だけは城で摂らないといけないんだよな

「ホーイさん、昼飯のメニューなんだった?」

「んー、餡掛け焼き飯と茄子の煮浸しと、あー♡デザート骨だって♡」

端末で食堂のメニューを確認していたホーイさんの顔が緩む

やっぱり、犬とかだから骨が嬉しいのかな

「まじで?俺の分あげるわ」

「嘘♡大好き♡亜貴♡」

パタパタと感激して尻尾をふるホーイさんに骨は好きではないとは言えない

「そのかわりさあ、昼からと明日休むから、親方に言っといてくんない?飯終わったら呼ばれてるんだよね」

「いーよー、誰に呼ばれてんの?」

クルルーシュカだが、俺は色々隠して働いているので黙ってしまうとホーイさんは、ああわかったわかったと、さっさと食堂に向かう

このめんどくさがりで追及してこない性格もなかなか好ましい

昨日、侍女長から言われた言葉を思い出す

『いくら何でも全く会わないように気をつける人がありますか!?朝食も龍王様がどれだけ楽しみにしているかわかりますか!?それをパン一つ掴んで、ごちそうさまーと退出されてるそうですね!?今日という今日は昼から、いや明日も一日空けておいてください!!!全く、あたられる方の身になってください機嫌が悪くて大変なんですよ!!』

ノンブレストで言い切った侍女長だが、なんで追い返されるのに、そこまで気を使わなきゃならないんだ

そうは言っても、確かにクルルーシュカの目が日に日に怖くなってきている気もするので、言われた通りに休みをとったのだ

なのに、昼は食堂で済まして帰ったので、昼から帰ったのに侍女長は黙って怒っていた

クルルーシュカはずっと昼食を一緒にとれるとはしゃいでいたのに、俺が来なかったからだそうだ

俺としてはそんなん知らんがな、初めから言っとけよ状態だ

「もう龍王様は執政に戻られました!何考えてんですか!本当に!」

「んなこと言われてもなぁ…んじゃ、あれ、仕事戻っていー?」

「いいわけないですよね!?ほら、夕食のために着替えますよ!!」

ぐいぐいと侍女長に浴室に追いやられ、クルルーシュカが俺のために買い溜めしていた上等な服に着替えさせられ、いつもより多くあの甘い匂いを振りかけられる

「ちょっ…やめ、この匂い嫌いだよ」

ぎらっと侍女長に睨まれて言葉を噤む

女人の怒りは怖いのだ

ギャンギャン文句を言いながら侍女長が夜まで部屋でおとなしくするよう言いふくめて去っていく

「あーもー、夜まで退屈じゃんかー!もうやだ!夜食も行かない!明日一日にしよ。遊びに行こ」

窓を開けると、庭師が騒ぎながら小道を作り芝を刈っている

ホーイさん達を眺めながら足をぷらぷらする

この格好では、どこにも行けないよな

あ、やば、ねむ……朝は働いてたし最近、休んでなかったからなあ

ちょっとのつもりで、うとうとし始めて寝入ってしまっていた

目を開けると辺りは暗くて、ゴツゴツした筋肉質な脚に凭れていたことに気づく

そろりと見上げると、月に照らされた白い髪が風に靡き、白い睫毛が影を落としていて、アメジストのような紫色の目が潤み、白い肌は石膏のように逞しい体を惜しげもなく晒して腰布だけでラフな格好のクルルーシュカがいた

幻想的で、この世のものではないような美しさに息を飲む

「…ごめんな、寝てた」

起き上がると、クルルーシュカの大きな手が髪を撫でてくる

「…狂いそうなくらいずっと待ってたから、苦じゃないよ」

クルルーシュカの言葉に首を傾げながら、窓の外を見ると、星が見えている

これは、あのロックガーデンを見に行くチャンスじゃないだろうか

「あ、なあ、今から…暇?」

「ふふ、なにそれ。暇だよ、亜貴の為なら、時間なんていくらでもとるよ」

「……星見に行かない?」

天上人の住む浮島のせいか、星が近いように思う

満天の星なのだ

クルルーシュカの手を引いて、ロックガーデンの穴から星を一緒に覗く

「亜貴、いつまで待てばいいのかな…」

星を見ながらクルルーシュカが呟く

何か変なこと言うな、こいつ

「…悪かったよ。今いるじゃん」

「そうだけどさ、いつまで…いつまで待てばいい?」

わきわきと変態が手を伸ばしてきたぞ

俺は手で攻防しつつ、考える

こいつ、番様とやらをキープしつつ、俺を弄ぶつもりなのだろうか

ほんと、この星空の下、げすい奴だ

「別に待たなくていいよ」

勝手にすればいい。俺の食事を待ったりしなくていいのだ

「本当!?もう待たなくていいの!?」

何故か急にテンションを上げて、クルルーシュカが飛びついてくるのを、サッと避ける

じりじりと近付いてくるクルルーシュカを短距離走ばりに逃げて、その日は何とかなったんだ。

奴がなにを待っていたのか、俺はよく聞くべきだった。

end
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