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儀式の延期
しおりを挟む「え?延期になった…?」
侍女長の言葉に聞き返すと頷かれた
あれだけ練習もさせられた番の儀式が延期になったのだ
花持たされたり、礼したり色々してたのに
ただ、衣装が何故か変わって、露出もない清楚な感じになり、髪もベールを被るから髪飾りもいらないとなったのだ
これは、喜ばしい事である。喜ばしいことではあるのだが
「な、なんかあったの?」
いや、別に自分も楽しみにしていたとか、そんな事は全然ないし、いいのだけれど、いきなり延期ってなんかあったのか気になる
「そ…それが、数日前に龍王様が会った方とお会いしてから決めたいと…」
「なんだそりゃ。他に番がいるってこと?なら俺、帰れるんだよね?」
思えば勝手な話である。番に疑惑があるならば俺をさっさと解放すればいいだけである。それを延期だなんて随分失礼な話だ
「あ、あの、万が一番様じゃない場合、不敬に問われてしまいますので、今からでも丁寧に龍王様にお仕えください…」
「いや、だから違うなら違うでいいから…不敬も何も、もう会わなくてもいいし。もういい帰る」
無為な時間だったが、俺は笑って許すよ?別段被害はないし、やっぱりジャンクフードは恋しいし、体に悪い夜更かしやゲームだってしたい。そう思って帰るために拐われてきた時の服装に着替えようとすると、侍女長が慌てて止めてくる
「おやめください、帰されるなら、きちんと送りかえされる筈ですから…まだ決定もしていません!待ち時間中は、お庭で好きに過ごしても構わないそうです。」
侍女長を半目で見ていると顔を逸らされた。俺は別に庭いじりが好きなわけではない。この城の中で敢えてするなら、マシな事をしたかっただけだ。
本音は一日中ゲームしたい。
まあしかし、何事も段取りや決まり事もあるのだろう。何日間か飼い殺しな訳だ
「まあ、いいよ。ご飯は確かに美味しいから我慢するよ。でも早くしてね。」
侍女長にそう感じ悪く言い捨てたのが先程
いつでも庭に出ていいとの事で、俺はほぼ一日中外に出ていた
食事も、もう行かない
時間的に元の俺が庭に出る時間は誰もいなくなるが、他の時間は庭師の人たちに混ざって剪定や肥料配合を教えてもらって作業をして、その後食堂で混ざって夕食を食べていたら城が騒がしくなっていたようだった
るんるんで帰って珍しく浴室が用意されていなかったので自分で用意をして泥を洗い流し、バスタブに浸かっていると、侍女長が飛び込んできた
「あ、つ、番様、申し訳ありません!あの、ずっと浴室にいたので?」
侍女長が俺が湯船に浸かっていたので慌てて外に出たので、んー、と曖昧に返事をしておく
探してたのかな?でも外に出るよう言ったの侍女長だし
「亜貴、大丈夫!?具合が悪かったの!?」
侍女長の後に飛びこんできたクルルーシュカに眩暈がする
ゆっくり風呂にも入れないのかと、じとりとクルルーシュカを見ると、クルルーシュカの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく
目がキョドキョドと動き、ごくりと息を飲むクルルーシュカに脱力する。
「…どこも悪くねぇし、早く出てけよ…見んな…」
隠すように身を小さくすると、ああうう、とか言いながら出て行った
一体あれはなんなんだ
がしがし頭を拭いて、頭からバスローブを被って部屋に戻ると、やけに姿勢が良いクルルーシュカが待っていた
ゲッと思いながらも、後少しの辛抱だし、侍女長が不敬が何たらとか言ってたなとも思うが、俺の無礼は、この誘拐とチャラだろう
だから、無礼で通させてもらう
「もう寝るんだけど」
昼間たくさん動いたので、もう体がくたくただ。早く出て行ってほしい
「あ、うん。その…じゃあ…」
いそいそと俺のベッドに入ろうとするクルルーシュカの金のネックレスを掴む
そうじゃない、そうじゃ
「いや、早く用件済ませて出て行ってほしいってことなんだけど」
「あ、ああ。食事に来なかったから、心配したんだ。見当たらないし、逃げ…いや、体調が悪いのかと…」
紫水晶のような瞳が本当に心配そうに潤んでいるが、騙されてはいけない
番を間違えて、連れてこられた俺のことなんて放っておけばいいのに
「もう行かない。食事も一緒にしない。」
俺は食堂というスーパージャンク&美味い大盛り気遣わないを手に入れたからな
「えっ……それはどういう…」
真っ赤から真っ青になっていくクルルーシュカは絶望感漂わせる顔になっていくが、食事くらいいいだろう?寂しいのかな?一人で食べるの。いやでも番様とやらがいるだろうし
感じ悪くない断り方ってあるかな
「クルルーシュカも忙しいだろうし、俺に合わせなくていい。好きにするから、好きにしたらいいってことだよ。悪くとらないで」
手を取りながら、微笑むとクルルーシュカは、照れながらも、もじもじしながら言いにくそうにしている
「それは、駄目だ。一緒に…食事しないと」
弱々しい言葉に、何で?と返しそうになったが、ぐっとこらえる
「じゃ、朝食だけ」
「ずっと一緒がいい…」
泣きそうにうるうると潤んできたクルルーシュカの瞳に、うっと負けそうになる
なんでだよ!俺は食堂のが口に合ってるんだよ!
いや、こんなこと言えない
「夕食は今後パス」
「ちゃんと食べないと体に悪いよ?」
「用はすんだよな?じゃあ、おやすみ」
ぐいぐいとクルルーシュカを追い出しにかかると、振り返ったクルルーシュカが不意に、ちゅっと頬にキスをして、幸せそうに笑う
「おやすみ」
出ていくクルルーシュカを見送りながら、俺は頬を撫でる
「何ちゅー顔をするんだ…」
頬が赤くなっていくのを感じた
end
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