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番の儀式に向けて
しおりを挟む龍人である天上人が住む区画は、文字通り人族が住む真上、天空にある
浮島のように浮かんでいる天界は、下から見上げるに栄えていて、人族の住む区画より都会だ
まだ下界と呼ばれる人族の区画にいた時は、よく自転車を漕ぎながら見上げていた
天界に入れる人族は、ごく僅かで龍人様が番探しをしている時に女性かオメガ男性にのみ門戸が開かれる
番に選ばれた者の待遇や末路は誰も知らない
庭の一区画を確保できた俺は当時、めちゃくちゃ浮かれていた
退屈で死にそうだった暮らしに、ようやく活路を見出せたのだ
だから、儀式の事は寝耳に水だった
「えー…違うかもしれないのに、その儀式をしなきゃならないの?」
いきなりクルルーシュカの番だと連れてこられたものの、俺はどう考えても手違いだとしか思えなかった
まあなんというかクルルーシュカはめちゃくちゃ美形だし、モテてるのがわかるだけに、何で自分が?とも思っていたから
「早く準備しますよ。衣装を決めないと!顔は絶対にベールで覆ってくれとの龍王様のお達しですから、アクセサリーと衣装を決めないと!」
てきぱきと衣装とやらを並べていく侍女長に目をひんむく
何故ならば並べられる衣装全て露出が激しいからだ
お腹までぱっくり開いた衣装や、スリットが腰まで入っているものや、とにかく選べない
「ほ、本気でこれ着るの?俺が?」
震える指で指をさしたのは、胸元とお腹が開いていて、腰までスリットも入っている衣装だった
「これでよろしいでしょう。アクセサリーを選びますよ!番様の燃えるような黒にはアメジストか…お衣装が白なので、ルビーもよろしいですわね、おほほ…」
てきぱきと合わされていく衣装に、侍女長の圧から着替えさせられ、髪もサテンの白リボンと合わせて編み込まれ軽く化粧まで施される
「うわ、やめ、侍女長、これでいい、もうこれでいいから!!」
鼻から下のみを覆うベールに顔を覆われ、ガーゼを被せられ衣装のサイズのみをお直しするからと、直す間、背中がぱっくり割れた衣装を着せられて、侍女長に追い立てられる
「さあさ、時間潰しに大好きなお庭でも散策してきてくださいな!」
ポイっと室外に放り出され、憤慨するのをぶつける間もなく閉め出された
しかも、あの嫌な甘い匂いを大量に振りかけられて
「お、横暴だ!」
侍女長にはなかなか強く出れないので、ぶちぶち言いながら庭の散策をする
この時間は、俺の庭いじりの時間帯でもあるので、厳戒態勢で誰も入れないようにされている
だから、お付きのものは誰もいない久しぶりの1人の時間なのだ
わくわくしながらガゼボに向かい、ガゼボに横臥して自分の担当のまだ土を作っている段階の庭を眺める
何植えようかな~
まったりとしていると、急に大きな黒い影ができて目線をあげる
「その方、この庭は出入り禁止だと知っているか?」
見下ろす紫水晶のような目は濁って恐ろしく、声色もいつもと違い低く恐ろしい
怒気を纏うクルルーシュカに、正体を表すのは造作ないが、悪戯心がむくむくと芽生えた
「も、申し訳ありません。迷い込んでしまったようです!!」
常に見慣れた姿勢でひれ伏し、ニシニシと笑う
気付いたら、どんな顔をするだろう
シュッと剣が抜かれ、真横に振り下ろされたのがわかった
「次はない。去れ」
有無を言わせない声色と、空気がビリビリしそうな怒気に、ひれ伏したまま逃げ出す
「あっ、ちょっと、待て!」
クルルーシュカがベールを引っ掴むが、俺は振り向かず脱兎の如く逃げ出した
怖い、あんなクルルーシュカ、知らない
戻ると、侍女長は不思議そうな顔をしながら、汗まみれになっていたので浴室に俺を放り込んだ
ベールを無くした事を、咎められたりはしなかった
その後、クルルーシュカが来たそうだが、俺が入浴中だと知って帰っていったらしい
侍女長にベールの持ち主を探せと命じて
だから、俺は知らなかったのだ
あのときに、すぐに何でバラさなかったのか後悔することになるということを
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