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番外SS
しおりを挟む富裕層の区域にある黒い重厚な邸宅の空気は重く、豪華であるのにどこか屋敷の空気はいつも冷たかった
多く持つものは、持たないものに与えなくてはいけない
そう言い聞かされた思春期の時に、連れてこられたのは、父親の提携先の息子だった
オメガらしく細身で、華やかで雄を誘う匂いを撒き散らしていて、繊細そうな彼の事を全然好きになれなかった
ただし、ヒートの時は欲望が勝ち目の前で匂いを撒き散らされて我慢できなかった
でも項は噛めなかった。白く柔らかそうな首筋は晒されていたけれど、好きでもないのに番うなんて嫌だったから
本当は、好きでもない相手との行為も好きじゃない。自分の頭と心がバラバラになったような感覚に陥るから
彼と一年過ごしたある日、父親に呼び出された
滅多に喋らない父親の書斎を開ける手はドキドキした
俺は上手くやれているんだろうか?成績も、運動も、他のアルファの追従を許していない
もしかしたら、褒めてもらえるのかも
そんな事はおくびにもださないように、重厚な扉を開けた瞬間、頬に熱い熱が走り俺は廊下に吹っ飛んだ
何が起こったのか把握する前に、鼻から液体が流れ、シャツで拭うと、それは鼻血だった
「戮、何故番わない?お前は不能か?」
冷たく見下ろす父親が恐ろしくて顔を上げられない
ぼたぼたと溢れた鼻血を拭い、すぐに立ち上がる
使用人達は一瞬心配そうな顔を見せたが、父親が手を振ったので俺を見ないように下がっていく
失望の溜息に、耳の奥がワンワンと鳴り響く
「……番には、相手への責任が生じます」
「だから、責任を果たせと言っている。わしが連れてきたオメガは全員番え。番にさえなればいい。アルファ家庭で持て余しているのだから、これは救済だ」
目頭が熱くなる。本当に好きな人と以外、番たくないと、本能が叫んでいる
ぐっと唇を食いしばる
「一度番になり捨てられれば、オメガの人の負担になります。心を病む人も……」
言い切らない内に、今度は違う方の頬を張られた
「口答えするな!オメガが人だあ?勘違いするな!あれは、獣だ。わかったな?」
前髪を掴まれて、言い聞かすように吐き捨て床に叩きつけられる
父親は、大のオメガ嫌いだ
アルファ性同士で結婚して、オメガには差別的な意識しかない
ただ、俺も騒がしいオメガがあんまり好きではないのだが、これはあんまりではないだろうか?
彼にも彼のアルファがおり、幸せになる道もあるはずなのだ
「あれは名家の出なのだが、誰彼構わず誘惑して迷惑だそうだ。ただ、身篭るかもしれないから買い取った。オメガの忌まわしいにおいが迷惑だから早くしろ。後もつかえている…」
父親の言葉に呆然とする
「後がつかえているとは?」
鼻血はもう乾いていた
「そのまま言葉の通り。困っているのはあれだけではない。恩を売っておくためだ。早くしろよ」
「あなたが、噛めばいいのでは?」
きっと睨みつけ胸ぐらを掴むと父親は乾いた笑いを漏らした
「わしの子はもういらん。お前の子が必要だ。気に入らないなら、娼館に売るぞ?」
出ていけといわんばかりに、手を払われて書斎を追い出され呆然とした
娼館と俺の番、どちらが悲惨だろうか?
どちらも悲惨だろう
しかし、見捨てて娼館に売られるには好きでもない彼と時間を過ごしすぎていた
俺は次のヒートの時に、泣きながら彼の項を噛んだ
彼は恍惚としていたけれど、俺は絶望感でいっぱいだった
次の日、彼の居場所は見知らぬ男に変わり、それは番になる度に変わっていった
体が受け付けないのか、だんだんと俺はオメガの匂いだけで吐くようになり、気持ち悪くなっていった
俺にとっても、名前も覚えれないオメガにとってもの地獄は一体いつまで続くんだろう?
そんなある日、しぃちゃんに出会った
黒髪で少し釣り上がった猫みたいな目をしていて、いつも楽しそうな彼の匂いは、今まで嗅いだ誰の匂いよりも俺の胸をしめつけた
運命の番、近くに嫌々番ったすごい臭いのオメガ達がいたので、近づかないとわからなかったが、すぐにわかった
見つけた、俺の番、俺だけの
胸がざわざわと騒いで高鳴り、体が紅潮していく
近くにいるだけで、この多幸感はすごい
てっきり、しぃちゃんも同じだと思っていたのに
しぃちゃんは、あの嫌々番った奈津だけを見ていた
最初は、オメガ同士だしまさかと思ったけど、しぃちゃんの目線や、態度などにいちいちむかついた
俺の番なのに、どうして?
腹の中に湧き上がる燃えるような凶暴な気持ちを抑えながら奈津を呼び出して、いつものようにしてもらった
周りが側近なだけに、俺が番を作りたくないと知っていて相手が二度と俺に近付けないように勝手に脅してくれるのだ
ついでに、しぃちゃんを完璧に誘き出す為に駆け落ちの約束を神宮寺の別荘を指定してさせておいた
しぃちゃんの首輪の鍵は手に入れた
もうすぐ、もうすぐしぃちゃんも目を醒まして、あんな目で奈津を見る事もなくなる
そして、その視線を俺に向けてくれるようになるのだ
end
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遂に完結してしまった…、寂しいです。
番外編SSで、戮が色んなΩと関係を持ったその背景が分かってびっくりしました😱
モンスターペアレントのせいだったんですね😣
まともだったのに、心が壊れてしまってあんなヤンデレになってしまった…。
最後まで本当に好きな展開でとっても面白かったです☺️
きちんと両思いになったけど、いつか首輪と足輪は外して貰えるのでしょうか(笑)
これからもロロ様の作品を楽しみにしております🤗
最後までありがとうございます😊♡ヤンデレは元々だったりしますが中々ひどい毒親ですよね😠首輪と足輪は第三子あたりで外してもらえるかもしれませんね😍♡ありがとうございます😊♡
あ、前のタブルだから、神宮寺の神宮寺入れるとトリプルで移動でしたか。すいません😣💦⤵️
トリプルです^ ^😍表現が、どこまで許されるのか手探りなので描写きつくなりすぎないようにしましたが楽しそうですよね😍♡
完結お疲れ様です!!とても好きな作品だったので寂しい気もしますが2人が両思いになれてよかったです(*^^*)戮の方も辛い過去があったんですね。これからはしぃちゃんとずっと幸せでいて欲しいです(*´ ∨`)
ありがとうございます😊♡紫苑も一途な方なのでゴタゴタしても仲良くやっていくと思います^ ^ありがとうございます😊♡