首輪のわ

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教室の机に項垂れて、ぐったりと俯く

昨日はなんだかんだと宥めすかされて、神宮寺のいいようにされてしまって超腰がだるい

さわやかな朝の筈なのに、神宮寺は神宮寺でオメガクラスのオメガ達にキャアキャア言われながら自分の教室に去って行った

去るまでの間、神宮寺は岬とかを侍らせながら、ずっとこっちを睨んでいるのだからタチが悪い

そのうち岬達チビシリーズが気が付いてギロリと睨まれて、朝礼が始まるまで、ずっと文句を聞こえるように言われていた

奈津は何か言いたそうにしていたけど、首を振るジェスチャーと胸の前でバッテンを作って見せたので近づいて来ない

神宮寺のパシリは沢山いるので油断は出来ない

それに文明の利器に頼るからバレるのだ

ノートの切れ端に、昼休み第二準備室と書いて奈津の机の前にトイレに行くふりをしてバレないように落としておいた

放課後だと神宮寺に探し回られて都合が悪いしな

岬が見張り役なのか休憩時間はぴったりくっついてくるから撒かないといけないが、昼休みだけは神宮寺会いたさに離れるだろう

今までは、夢のために勉強をしなければと思っていたけれど、オメガが警察官になるには果てしなく無謀な事のように思えてから身が入りにくい

いやいや、神宮寺に捨てられた時のことを考えたら勉強は大事だ

アルファに捨てられた番同士…裏切った彼を責めながら、ぎくしゃくした関係の中、支え合う同棲中の狭い部屋…もてあました発情期からの…

むふむふ笑っていると岬に気持ち悪がられた

こいつに奈津の可愛さの10分の1でもあればなとため息をついて見せたら、意味がわからないけどムカつくー!と教室を出て行ってくれた

「待ってるから」

奈津に囁いて教室を出る

奈津に神宮寺に売られてからの初めての邂逅だ

恐怖の拷問から神宮寺は怖いし匂いでバレるかもとも思ったが、クラスメイトだから仕方ないで通せばいい

ドキドキと心臓が高鳴る

奈津は罪悪感いっぱいで泣くだろうか?神宮寺の番になった事でワンシーズンで捨てられるけれど、それって一生の事だし、奈津にも責任を取ってほしい

思いっきり罪悪感が煽られるように、直前まで泣いていたように見せるのはどうだろうか?

鍵がかかっていた第二準備室の鍵を開けて、奈津を待つ。もつべきものは理事長の叔父さんである

磨りガラス越しに来たら解るから、念のため鍵をかけて目薬を差してから鼻をごしごし擦って待った

何から話そうか

磨りガラスに人影がうつり、来たっ!と小躍りしそうになりながら、鍵を開けに席を立つ

思いっきり泣きながら詰ってみようかとかワクワクしながら鍵に指をかけると、信じられないくらいの怖気が背筋を走った

人間の第六感とでもいうのだろうか?

冷や汗がだらだらと額から流れる

人影は小さく、奈津くらいの身長に違いない

違いないのに、この背筋の戦慄きは一体どういう事だろうか?

そうっとその場にしゃがみこみ、扉の前に佇む人影を見上げる

コンコンと小さくノックする音が響く

疑心暗鬼になりすぎだろうか?

待たせたら奈津は行ってしまうかもしれない

震える指でカチリと鍵を外すと、信じられない勢いでドアが開き、半腰になって微笑んでいる神宮寺と目が合う

見たことないくらい爽やかに微笑んでいるのに周りの空気が黒く澱んでいるように見えるのは錯覚だろうか

しかし、やはり人間の勘は当たる。1番に思い浮かんだのは、これが神宮寺だったらどうしようだったから

躊躇いながらも扉を開いてしまった事が悔やまれる

そして俺は意を決した

かくなる上は!!!

「あ、戮じゃん!会いたかったー♡少しも離れたくなぁい♡」

半腰の神宮寺の首に抱きつき、ほっぺたにちゅちゅと軽くキスをして、うるうると見上げる

神宮寺は何も言わずニコニコしたまま、腰を抱いてきて、頬を指ですりすりしてきた

「しーちゃん、お約束、覚えてる?」

いつになく低い声に腰あたりがビクついたが、首を傾げながら神宮寺に擦り寄る

今は全力で媚を売るのだ

針は回避したい。絶対に針は回避する。決してこの状態の神宮寺に悪態をついてはならない

「んー?戮ぅ、大好き♡」

「やっぱり、しーちゃんには難しかったかな?」

「だってやっぱりあんな別れ方したし気になるじゃん?ずるずる気にするより最後に話だけしたかったの」

神宮寺は最後という言葉にピクリと反応して、ピリついていた空気が緩くなった。そして仕方がないというように前髪をかき上げながらため息をついた

なんとなく神宮寺がすると色っぽいし様になる

「奈津に、さよならしに来たの?それなら今度、俺がいる前でしようね。もう解ったと思うけど、しーちゃんの事は全部報告に入るからね。奈津に何て言うつもりなの?」

「………………今まで色々してくれて、ありがとうって」

さよならする気なんて、さらさらないが

微妙な間が空いてしまったけど仕方がない。神宮寺だって本気で奈津に最後の挨拶をさせるつもりじゃないよな?オメガ同士なのに狭量すぎない?

「そうか…。ようやく俺だけにしてくれるんだな?しーちゃん…」

予想外に体の力を抜き心底安堵したように柔らかく微笑む神宮寺が心臓に悪い

そんな幸せそうな顔をされたら罪悪感でいっぱいになるじゃないか

「いや、ちょっとそれ人聞き悪いぞ、戮…だけというか、奈津がたまたま最初にいたというか…」

「そうだな、たまたまいただけの奈津なんて早く忘れて俺だけにしなよ?俺だけでいいよ」

気がつくと神宮寺は何度も唇を啄み、凄まじい美貌を幸せいっぱいそうにトロンとした表情にゆるませて、のしかかってくる

耳元で囁きながら熱い息をかけてくるから、恥ずかしくなって身を捩るとますます抱きしめられる

「しーちゃん、俺だけにして?俺だけ見て?」

なんなんだこいつは?

甘えるように全身を擦り付けてくる神宮寺の声に必死さも混じっていて、なんとなく体の力を抜く

本当に、戮は俺のこと好きなのかな?

この短い間だけの愛情なのだろうが、少しは信じてみてもいいのかもしれない。神宮寺は番なわけだし、仲が良い事に越したことはない

友好的にしておけば捨てられた後も関わらなくとも、面倒だけ見てくれるかもしれないし

神宮寺の艶やかなグレージュの髪を撫でながら思う

そういえば、こいつ脱色しまくってるだろうに、あんまり髪が痛んでないな…

でも、頭の隅からずっと神宮寺に捨てられたオメガたちの姿が離れない

時間が経ったら飽きて、簡単に次の発情期には神宮寺には避けられるのかと思うと、ズキンと心臓が嫌な音を立てて痛んだ

額や瞼まで震えて熱い

口元を手で押さえる。あれ?これもしかして、これは俺は神宮寺の事が好きなんじゃないだろうか?

「あー、腹減ったな。戮はもう食べた?」

ひりついた喉からしぼり出した声が思いの外震えて、誤魔化すように見たくないものを見ないように目を瞑る

なんだか泣けてきそうで、喉が締まり鼻を啜る

首元に頭を埋めていた神宮寺は緩く首を振る

「じゃあ、食堂行こうぜ。腹減ったわ」

ぎゅうとくっついてきていた神宮寺は返事をしない

背中に回っている手に力が込められてきて怖い

「ねえ?俺だけにしてくれるんだよね?」

低い声で囁かれてゾワリと背筋が寒くなる

見上げる神宮寺の瞳が期待と喜びで溢れているのが見えて目の前が真っ暗になるような堪らない気持ちにさせられた

神宮寺は悪魔だ

こんなの好きになるし、好きになったら、期間が来たら嗤って嫌いになって捨てるくせに

「も……もちろん、てか、番になってるし…」

声まで震え出して情け無い

番、俺が想像していた番はこんなんじゃないし、当たり前みたいに惹かれ合う人が出来て、あたたかい気持ちになって幸せで

少なくとも、こんなに不安に満ちていて胸をかきむしりたいくらい辛いものじゃなかったはずだ
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