首輪のわ

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昨日、奈津を知らない人だと言って逃れてしまった

自分には、もう話をする資格すらないのかもしれない

それに、もうあんな痛い思いをするのは絶対に嫌だった

携帯を眺めながら手が震える

声を聞きたい、声だけでも聞きたい…

目がおろおろと泳ぐ。少し話をするだけならばバレないかもしれない

通話を押すと、愛おしい奈津の声が聞こえる

「あ?紫苑?今大丈夫?」

「………う、うん、大丈夫だよ」

「ごめんね?一緒に逃げてあげられなくて…。学校戻ってきてるんだよね?今から少しだけ会えないかな?」

「あ…だめだ。戮が怒るし、匂いでバレるから…もう会えない」

こんなに情けない声を好きな人に聞かせるなんて、本当に情けなくなる

会えないと返事した事で、気まずいくらい沈黙がおちる

「明日、学校来るでしょう?その時に話があるから。今日はゆっくり休んでね。またね」

ことさら優しい声で奈津は携帯を切った

こんなやり取りしか出来なくて、嫌われたらどうしようと部屋をうろうろする

結局かけなおしたりも出来なくて、携帯を放り投げた

明日、奈津と会って平静でいられるだろうか?

どうして俺を神宮寺に売ったのかとか、どうして裏切ったのとか色々頭に思い浮かぶけれど、奈津を恨む気にはなれないし、取り乱して縋る気にもなれない

それに、もう本当に神宮寺が怖い

じくりと項の傷が疼く。お前の番を忘れるなよと言わんばかりの痛みは深くなっていく

神宮寺は紫苑の行動を全て知っているようだった。身動きは暫く取れそうにないだろう

下手に動いて再び拷問されるのは真平ごめんだった

でも、奈津が自分と接触してくれようとした事に震えるほど喜びも感じる

全然連絡もなかったから、やっぱり奈津は神宮寺だけが好きで自分なんて、ただの生贄で歯牙にも掛けていないと思っていた

鬱々としていたが、一気に気分が急上昇した

「なんかいい事あった…?」

帰ってきた神宮寺に開口一番に言われてヒヤリとした

絶対に奈津から連絡がきて浮かれていたとはバレてはいけない

神宮寺の首に腕を回せば、軽くキスをされて横抱きされる

「なに?教えて?どんな良い事があったの?」

髪に何度もキスを落としながら柔らかく微笑む神宮寺は、あの針を刺してきた時とまるで別人である

「や、戮が本当に早く帰ってきてくれたから…」

なにそれと幸せそうに笑う神宮寺に罪悪感が半端ない

何故、番なのに番だと認識できないのだろう

行為中の拒否反応は全くない上に満たされた感があるから体や脳が番を認識していないわけではない

神宮寺は自分の部屋のどでかいベッドに俺をそっと下ろすと、着替え始めた

筋肉質な背中を眺めながら、ふわりと香ったオメガの匂いに顔を顰める

「………岬か」

匂いの元である人物を呟けば、神宮寺は少しだけ振り返ったが、特に何も言わなかった

自分だけ特別とは思わないのがいいな

何度も心で繰り返した言葉を反芻する

「俺には厳しいのに自分はいいんだぁ?」

揶揄うように言うと神宮寺は少しだけ笑ったように見えた

あ、これは不味いかもしれない
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