首輪のわ

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目が覚めると、神宮寺がお綺麗な顔で横で寝ていたので、べしりと叩いておく

昨日は最悪だった。なかなかいかせてもらえず、首輪をつけない事を約束させられた

外す事はないのだけれど、このまま一週間神宮寺に見張られているのは、本当にまずい

なし崩しに番にされるのは容易に想像できる

一方、こちらは頼りになるはずの叔父は神宮寺の味方で、番推奨派

冗談ではない。今回流されたら、3ヶ月後から1人で一生、発情期を耐えないといけないのだ

アルファにしたらフェロモンに流されたで済むが、オメガからすれば一生を左右する恐ろしいイベントだ

番が出来たら落ち着いたり、フェロモンの効果がアルファに対してなくなるから、その面は良いとしてだ

伸びをしてシャワーを浴びて部屋に戻ると、神宮寺がもそりと起きた

「………おはよ」

心底幸せそうな照れを含んだ微笑みに背中がぞわぞわぞわと落ち着かなくなる

「……はよ」

ドライヤーをだすと、神宮寺が背中にのしかかってくる。重たい

「貸して、乾かしてあげる」

「へっ!?いや、いーよ、自分で…」

神宮寺はドライヤーを取り上げると、柔らかい絶妙な温度で髪を乾かしてくれはじめた

なんだこの絵面は…

神宮寺の長くて細い指が髪をないまぜる。なんとなく、その仕草はセクシーで昨日の出来事を想い出してしまう

「…んな、顔すんな。また夜な…」

耳元で囁かれて、ぐしゃと頭を撫でられて、後ろを勢いよく振り返ると、神宮寺は本当に幸せそうで心臓が痛くなる

やめてくれ、俺は嫌で仕方がないのに

逃げ場がない焦りに髪が乾くやいなや勢いよく立ち上がって、制服に着替える

「……じゃあな!」

内心を悟られたくなくて、急いで部屋を出る。何故か頬が紅潮して心臓が煩い

携帯を見ると奈津から折り返しはなく、返信も既読もついていない

嫌な予感に奈津の部屋に行くと、部屋には鍵がかかっていた

何回か着信を入れると、寝起きなのか、声が掠れた奈津が出る

「あ、開けて!昨日何で来なかったんだ?」

無事で良かったと思いながらも責めるような口調になってしまう

昨夜、奈津がいてくれたら神宮寺は悪態だけついていなくなっていたはずだから

施錠が外された音に、部屋に飛び込むと酷い顔色の奈津がいた

朝は寝起きがいい奈津にしては珍しい

「体調悪いのか?大丈夫?」

顔を覗き込めば、振り払われ奈津は部屋に戻ってベッドに突っ伏す

戸惑いながら施錠して、部屋に入ると、ふわりと神宮寺ではない、違うアルファの匂いがした

鼻元を押さえて考えこむ俺に奈津は、ふっと笑う

「鍵、取り上げられた…。やっぱり戮様に逆らったらダメだよ…、ごめんね?紫苑…」

弱々しく手を伸ばす奈津の手のひらを頬に当てる

「奈津、まさか……」

「ごめんねぇ、紫苑にさせてあげたかったけど、番がいるオメガは番以外とすると、拒否反応で吐いたり気持ち悪くなるんだ。でも、こんな事ならさせてあげれば良かった…」

奈津の肌けた胸元や首には噛み跡や痛ましい鬱血痕が残る

あの時、俺がもっと探していたらと涙が止まらない

「奈津、今でもさせていいって思う?」

手を握りながら言うと、奈津は吹き出した

「紫苑さぁ……思ってるよ…、でも、それは流石に戮様にばれるし、こんなもんじゃ済まなくなるから、迷うなぁ…」

「一緒に逃げよう?ね?」

もうこれしかない

奈津の手をぎゅうと握る。奈津は驚いた顔をした後、にっこりと笑う

「……いいね、それ。逃げて、2人でどっかでできたら、すごくいいなぁ…」

呟いて奈津は身体を起こすと、引き出しの中から一枚の地図と封筒を取り出して渡してきた

「ずっと使ってない別荘がある。使用人はいるけど、姿は見せないから。ヒート中に移動はできないだろ?ヒート前に戮様にばれないように移動してほしい。其処で、2人でどうするか決めよ?」

奈津にキスをして頷く。2人で生きていくんだ

「…わかった。俺がいなくなったら、そこにいるから、絶対に迎えに来てね?」

ぎゅうと宝物みたいに鍵と地図を抱きしめる

これで、一生を縛る恐ろしい脅迫から逃げられる

叔父さんは適当だし、神宮寺も四年先まで番予約が埋まっているのだ

わざわざ俺1人いなくなったところで何も思わないだろう

「奈津、連絡入れておくから、今日は休みな?夕方来るから、それまでドアを開けんなよ?」

奈津を寝かせて、寝顔を見つめる

可愛い俺の番ーー

「………ん?」

変な考えが思い浮かんで頭をふる

でも、奈津が番だったら良かったのに

おでこにキスをして、奈津の部屋のカードキーを借りる

「おやすみ、奈津…」

部屋を出たら、大きな胸板にぶつかった

「あ、わり…」

顔を上げると、神宮寺が見下ろしていた

「さっそく浮気か?」

怒り顔の神宮寺は、美形だけに迫力がある。そのまま腕を掴まれて部屋に逆戻りした

「あ、神宮寺!奈津に酷いことしただろ!何であんな事したんだ!」

「俺は何もしてないぞ?ただ周りが勝手にやってくれただけで。素直に鍵を渡さないから、あんな事になる」

神宮寺の手には鍵があった。しかしそれはパンツの鍵であって首輪の鍵ではない

「鍵も無意味だったわけだしな。その項を噛むのが何より楽しみだ…自分で外しておけよ?おい、もう奈津の部屋に行くのは禁止だ」

「………えっ?」

「今までが寛大すぎた。お前らの百合ごっこには今まで目を瞑ってやったが、もうダメだ。奈津には違うアルファの匂いがついたからな。お前にうつったらと思うとゾッとする」

くんくんと匂いを嗅がれ、首をふる

「やだ!奈津に会えなかったら…!」

「はい、カードキーも没収。会いに行ったら奈津がどんな目にあうかわかるよな?」

ポケットに入れていた奈津の部屋のカードキーも奪われ唖然とする

「あまり俺を怒らせるなよ?こんなにわかりやすい運命を無視しているお前を、許している間に奈津のことは忘れろ」

言い捨てて神宮寺は部屋から出て行く

今度は俺がベッドに突っ伏す番だった

頭の中がごちゃごちゃになりそうだ
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