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「ちょ、ちょっと待ってくれ」

とモーリスは言ってから、ウォーレンに敵意丸出しの目を向けた。
そして

「あなたは本当にシェリナと……」

と言いかけたのだったが、そこへノックの音と共に

「シェリナ。今、戻ったよ。
少し良いかな」

と声がした。
それが父親のものであることは、すぐに分かった。
シェリナはウォーレンとモーリスに目を向けてから

「……どうぞ」

と返事をした。
モーリスを見れば、父親が困惑するのは分かっていたが、まさか入室を拒むわけにもいかなかった。

しかし、入ってきたトーマスの後ろに、モーリスの父、アンソニーの姿を見つけた時、困惑したのはシェリナの方だった。
もっとも、彼女以上に困惑していたのは、

「お、お父様?どうして、ここに?」

と声を震わせて突っ立っているモーリスの方だったのだが。

「モーリス!?お前こそ、なぜここにいるんだ?」
「な、なぜって……」

モーリスは、アンソニーが指輪に視線を落としていることに気がつくと、慌てて背中に隠しかけたが、何を思ったか、ぐっと父親に見せつけるように持ち上げた。

「色々あってさ……やっぱりシェリナを愛していると気がついたんだよ。
それに、彼女ほど僕のことを愛してくれている人はいないしね。
だから仲直りの印に、指輪を渡しにきたんだ」

モーリスの自信に溢れた笑みを見て、シェリナは思わず身震いした。

「この…….!」

トーマスがモーリスの方へ、一歩踏み出した。
が、それをアンソニーが止めると、つかつかとモーリスの前まで歩いて行くなり、彼の頬に力一杯、平手を打ちつけた。

これには部屋にいた誰もが驚き、はっと息をのんだ。


「何をするんだよ!」
「それは、私のセリフだ!
お前は自分から、婚約を破棄したんだぞ。
それなのに、平気な顔でやって来て、仲直りだと!?」
「だ、だって……」
「今さら言い訳などするな!
みっともない!」

いつも温厚で、怒ることなどなさそうなアンソニーが、顔を真っ赤にして怒鳴っているものだから、シェリナは圧倒されてしまった。
モーリスが助けを求めるように、かすかに赤くなった目をこちらに向けているのは分かっていたが、助け舟を出す気などサラサラない。

チラッとウォーレンに目をやると、彼も驚いたような顔をしていたが、シェリナの視線に気がつくと、優しく微笑んで肩を抱いてくれた。

それを見たモーリスの顔が、みるみる青ざめていく。
そして、力尽きたように床に座り込んでしまった。

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