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さて、その翌日。
書斎にやって来たシェリナは、よく眠れなかったせいで腫れぼったくなった目を父親に向けた。

「おはようございます、お父様」
「ああ、おはよう。よく眠れたかい……いや、眠れなかったみたいだな」
「ええ、まあ……」

しばらくの間、トーマスは心配そうに娘を見つめていたが、やがて机の上に書類の束を置いた。

「これは何ですの?」
「報告書だ。調べさせたんだよ。モーリスとマデリンとかいう娘のことをな」

トーマスは言いながら、その中の一枚を取り上げた。
彼が口を開くまでのほんの一瞬、全てウォーレンの誤解だったということも、あるかもしれない、とシェリナは思ったが、

「まあ概ね、昨晩ウォーレン様が話してくれた通りだった」

トーマスの言葉に、最後の希望が打ち砕かれた。

これで、きっぱりとモーリスへの想いは捨てられる。
シェリナは未だに憂鬱な気分ではあったが、これ以上モーリスとの過去に囚われて、時間を無駄にしたくはないと、気持ちを切り替えることにした。

涙を流すのは、昨晩までで十分だ。
前を向かねば。
そう決意して、極めて冷静な口調で答えた。

「そう。それでは早速、モーリスのご両親にお会いしなければならないわね。
私がお手紙差し上げましょうか」
「いや、それは私がしよう。マデリン嬢の身辺調査についても、書いておいた方が良いだろうしな。
全く、これは……」

と、トーマスは首を振る。

「何か問題がある方なのですか?」
「大ありだよ。まあそれについては、後で話すとしよう。
まずは先に手紙を書いて、モーリスの両親と会う約束を取り付けなければ」

シェリナが部屋を出て行ってから、トーマスはペンを取り上げた。
そしてまずは、モーリスが婚約破棄を突きつけてきたことと、イーストウッドで彼が何をしていたのかを記した。

モーリスの両親は旅行中で、今日の昼頃帰宅するというのをトーマスは聞いていた。
つまり帰国したばかりのモーリスと、旅行中だった両親は、まだ会っていないはずだった。

モーリスが彼らに何と言うかは分からなかったが、自分の主張を正当化する為に、事実をねじ曲げる可能性は十分にある。
だから彼らが話をする前に、自分の手紙の方を先に読んでもらうつもりだった。

モーリスの悪行は包み隠さず伝えるつもりだ。
それに、これ以上愛娘を傷つけたくないあまり、先程は口にはしなかったが、報告には、モーリスがマデリン以外にも複数人の女性と浮気を繰り返してしたことが記されていたのだ。
そのことも、トーマスの怒りの火に油を注いでいた。

「さて……」

モーリスは便箋にペンを滑らせ始めた。
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