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ウォーレンとのダンス。
そんなことがあったか、と記憶を辿ってみても、シェリナには思い出せなかった。
しかし期待の目で見てくるウォーレンの前では、とてもそんなことは言えずに、
「え……えーっと……」
と誤魔化してみたのだったが、意外にもウォーレンは一向に気にする素振りもみせない。
握ったままのシェリナの手を、壊れやすい物にでも触れるかのように優しく撫でて
「覚えていないですよね。
ですが、あなたが覚えていなくても構いません。
ただ私にとっては、大切な思い出の夜なのです。
あの時に見た、あなたの濡れたように輝く瞳が、今でも忘れられない……」
跪いたまま上目で見つめてくる彼のブルーの瞳の方が、自分のものよりも美しいに決まってる。
シェリナはそんなことを思いながらも、手を握られている以上、逃げるわけにもいかず、居心地悪く足をもぞもぞと動かしてしまった。
「この瞳が、モーリス様ではなく、私だけに向けられれば、と、そればかりを考えていました。
もちろん、あなたがモーリス様と一緒にいることに幸せを感じているのならば、邪魔をするつもりはありませんでした。
しかし、今はもう違います。
自分の手であなたを幸せにしてみせる、と堂々と宣言致しましょう」
「ウォーレン様……」
彼の指に撫でられると、その部分だけが熱を帯びていくのを感じた。
モーリスとは違う、長く細い指。
女性のもののように美しいけれども、シェリナの手よりも随分大きく、優しく包み込んでくれるウォーレンの手から目が離せない。
「先程お話しした通り、すぐに婚約して頂きたいなどと急かすつもりはありません。
ゆっくりと時間をかけて私を知って頂きたいですから」
「ありがとうございます。
そう言って頂けると、ホッとしますわ。
ありがたいお申し出ですが、あまりにも突然のことでしたから」
「そうでしょうね。困らせてしまって、申し訳ございません。
ただ……」
ふわりと優しかったウォーレンの手に、急に力がこもったかと思うと、ぐいと引っ張られて、シェリナはよろめいた。
「あっ……」
「どうか、できるだけ早く、私のことを好きになって下さいね」
ウォーレンの唇が、シェリナの手に触れる。
その途端、電流が走ったかのように、シェリナは体が熱くなるのを感じた。
そんなことがあったか、と記憶を辿ってみても、シェリナには思い出せなかった。
しかし期待の目で見てくるウォーレンの前では、とてもそんなことは言えずに、
「え……えーっと……」
と誤魔化してみたのだったが、意外にもウォーレンは一向に気にする素振りもみせない。
握ったままのシェリナの手を、壊れやすい物にでも触れるかのように優しく撫でて
「覚えていないですよね。
ですが、あなたが覚えていなくても構いません。
ただ私にとっては、大切な思い出の夜なのです。
あの時に見た、あなたの濡れたように輝く瞳が、今でも忘れられない……」
跪いたまま上目で見つめてくる彼のブルーの瞳の方が、自分のものよりも美しいに決まってる。
シェリナはそんなことを思いながらも、手を握られている以上、逃げるわけにもいかず、居心地悪く足をもぞもぞと動かしてしまった。
「この瞳が、モーリス様ではなく、私だけに向けられれば、と、そればかりを考えていました。
もちろん、あなたがモーリス様と一緒にいることに幸せを感じているのならば、邪魔をするつもりはありませんでした。
しかし、今はもう違います。
自分の手であなたを幸せにしてみせる、と堂々と宣言致しましょう」
「ウォーレン様……」
彼の指に撫でられると、その部分だけが熱を帯びていくのを感じた。
モーリスとは違う、長く細い指。
女性のもののように美しいけれども、シェリナの手よりも随分大きく、優しく包み込んでくれるウォーレンの手から目が離せない。
「先程お話しした通り、すぐに婚約して頂きたいなどと急かすつもりはありません。
ゆっくりと時間をかけて私を知って頂きたいですから」
「ありがとうございます。
そう言って頂けると、ホッとしますわ。
ありがたいお申し出ですが、あまりにも突然のことでしたから」
「そうでしょうね。困らせてしまって、申し訳ございません。
ただ……」
ふわりと優しかったウォーレンの手に、急に力がこもったかと思うと、ぐいと引っ張られて、シェリナはよろめいた。
「あっ……」
「どうか、できるだけ早く、私のことを好きになって下さいね」
ウォーレンの唇が、シェリナの手に触れる。
その途端、電流が走ったかのように、シェリナは体が熱くなるのを感じた。
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