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「結婚!?」

トーマスを押し退けて、思わず大声を出してしまったのはシェリナだった。
いったい何を言い出すのかと目を丸くしてウォーレンを見ると、彼はにっこり微笑んだ。

いつだって、その場にいる女性たちをみんな虜にして来たウォーレンの笑顔が、自分だけに向けられている。
そう思うと、シェリナは耳まで真っ赤になって、俯いてしまった。
代わりにトーマスが訊ねる。

「それは……これまた急なお話ですな。こう言っては失礼ですが……本気なのですか」
「もちろん本気です。
実は以前からずっと、お嬢様には好意をもっていたのです。
しかし婚約者がいらっしゃったので、気持ちは胸に秘めて来たのですが……」

ウォーレンが自分のことを言っているとは、とても信じられなかった。
誰もが憧れる男性が、まさか自分に以前から好意を持っていたなんて。
そんな夢のような話があるわけない。

「もちろんシェリナ様には、改めてきちんと話をさせて頂くつもりです。
ただ、どれだけ私が本気なのかを分かって頂きたく、先に伯爵に話をさせて頂いたのです。
夜分遅くに家にまで押しかけたのは、本当はこの話がしたかったからなのです」

考えてもみなかった展開に、どんな態度を取れば良いのか分からず、オロオロしているシェリナに対し、ウォーレンはさも余裕たっぷりに見えた。
いや、本当にそうだろうか。
シェリナは彼の目のふちが、ほんのり赤くなっているのに気がついた。

透き通るように白い肌に、薄く広がる紅色は、もしかしたら彼も緊張している証なのかもしれない。
そっと彼の手を盗み見ると、握りしめた両手は、力を入れすぎて白くなってしまっている。

「シェリナ様が私のことなど、なんとも思っていないことは、よく分かっています。
それでも、出来ればこれから少しずつでも、私のことを好きになって頂ければ、こんなに嬉しいことはありません。
どうか私に、アプローチする許可を頂けませんか?」
「……どう思うね、シェリナ?」

トーマスに言われて、シェリナはハッと我に帰った。
驚きが大きすぎて、呆然としてしまっていたのである。
何か気の利いた事を口にしようと思ったが、頭が働かない。
そこでシェリナは言葉を飾る事なく答えることにした。

「突然のお申し出に驚いてしまいました。
それにお気持ちは嬉しいのですが……まだ混乱しているというのが、正直な気持ちです」

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