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まさかウォーレンが本気だとは思ってもみなかったシェリナだったが、結局彼は家にまでついてきた。
そして意外すぎる訪問者に驚いた顔になったシェリナの父、トーマス・ブライス伯爵に、ウォーレンは深々と頭を下げた。

「突然、しかもこのような夜分遅くに押しかけてしまい、申し訳ございません。
しかし、話をするには早い方がよろしいかと思ったものですから」
「いやいや、構いませんよ。確かに少し驚きましたがね」

トーマスは口髭を撫でながら頷いて、皆に座るように促した。
シェリナはトーマスの隣に、そしてウォーレンは2人の向かいに腰を下ろす。

「それにしても、あなたがシェリナと親しくして下さっていたとは知らなかった」

とトーマスは言ってから、シェリナに顔を向けた。

「そんなこと話してくれたことは無かったじゃないか、シェリナ?」
「お父様。ウォーレン様は以前から私と親しくして下さっていたわけではないのよ。ただ今日は……」

この説明は必要なことと分かってはいても、まだ気持ちの整理がついていない出来事ゆえに、シェリナは一瞬言い淀んだ。
膝に置いた両手に、思わず力がこもる。
ごくりと喉をならしてから、シェリナは口を開いた。

「モーリスが婚約を破棄したい、と言い出したのよ。
ウォーレン様がその理由に心当たりがある、とおっしゃって。
お父様に説明しようと、ご親切について来て下さったの」

早口に言って、ふうっと息を吐く。
少しの不自然な沈黙の後、口を開いたのはトーマスだった。

「婚約を破棄したい?モーリスが、そう言ったのか」
「ええ、お父様」
「それは本気で言ったのか?喧嘩をしたとか、冗談まじりにとか、そういうことではないんだな?」
「少なくとも私には、そのようには見えませんでしたわ」
「それはまた……急な話だな。いったい何が理由なんだ」

トーマスがため息をつきながら、深く椅子に腰かける。
その問いに答えたのは、ウォーレンだった。

「その先は私の方から説明致します。シェリナ様は話すのがお辛いでしょうし、私が直接見聞きしたこともありますので」

そう前置きして、ウォーレンは先程シェリナに話したことを、再度トーマスにも繰り返した。

イーストウッド国で、モーリスがマデリンに言い寄っていたのを見たこと。
高価な贈り物もしているらしいということ。
さらには、シェリナという婚約者がいることを隠しているということも。

トーマスは始めこそ深刻な顔で聞いていたものの、すぐに呆れ顔に変わり、ウォーレンが口を閉ざすや否や

「モーリスが、こんなに馬鹿な男だったとは……信じられん!」

と吐き出すように言った。
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