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「モーリス、こちらの方は……?」
「こちらはマデリン・ギレット子爵令嬢だ」
モーリスは、まるで見せびらかすようにマデリンの腰に手を当てて言ってから、彼女の形の良い耳に唇を近づけた。
「そしてマデリン、こちらが……」
「シェリナ様でしょう?」
マデリンがシェリナを真っ直ぐ見ながら、微笑んだ。
それから、突然名前を呼ばれてギクリとしてしまったシェリナを見て、小さく舌を出した。
「やっぱり。そうだと思ったのよ。モーリスのお話に出てきた通りの方でしたもの。一目で分かりましたわ」
白い肌にチラチラと動く赤い舌が、やけに目について、視線を動かせなくなる。
バカにされているのだろうと分かってはいたが、怒りよりも悲しみの方が大きく波打っていて、何も言葉に出来なかった。
「お優しそうで、可愛らしい方ね。モーリス、あなたには勿体無いわ」
マデリンが言うと、モーリスは大笑いした。
「その通り、シェリナは僕にはもったいない!だから彼女は僕なんかとの婚約は取りやめて、もっと素敵な人とやり直すべきなのさ」
「それであなたは?」
モーリスの肩にマデリンが頭を乗せると、彼は優しく金色の髪を撫でた。
「決まってるさ。君と結婚する」
「まあモーリス!嬉しいわ」
勢いよく抱きつくマデリンに、ぐっと顔を寄せていくモーリス。
ついこの間まで、彼女の場所にいたのは自分の方だったはずなのに。
どうしてこんなことになってしまったというのか。
2人の目には、シェリナは入っていないのだろう。
すっかり自分たちだけの世界に浸っている。
そんな場面を指を咥えて見ていることなど、シェリナには出来なかった。
一刻も早くこの場を立ち去りたくて、きびすを返して来た道を戻ろうとしたのだったが、
「シェリナ。帰る前に、返事だけはしていって欲しいのだが」
と、モーリスの声が追いかけてきたものだから、仕方なく足を止めた。
「返事?」
振り返ることはせずに、出来るだけぶっきらぼうに答える。
そうしないと、声が震えてしまいそうだった。
「もちろん、婚約破棄についての返事だよ。了承ってことで良いだろう?」
嫌だ、と言ってやりたかった。
私がいながら、どうして急にそんな人と結婚するだなんて言い出すの、と大声で叫んでやりたかった。
それでも……
「良いわ。了承します」
もうこれ以上、モーリスとマデリンが一緒にいるのを見ていたくなかった。
2人の目の前でなんて、絶対に涙なんか流したくない。
「これで良いでしょう?では、失礼致しますわ」
唯一出来た抵抗は、精一杯、固い声音を出すことだけだった。
「こちらはマデリン・ギレット子爵令嬢だ」
モーリスは、まるで見せびらかすようにマデリンの腰に手を当てて言ってから、彼女の形の良い耳に唇を近づけた。
「そしてマデリン、こちらが……」
「シェリナ様でしょう?」
マデリンがシェリナを真っ直ぐ見ながら、微笑んだ。
それから、突然名前を呼ばれてギクリとしてしまったシェリナを見て、小さく舌を出した。
「やっぱり。そうだと思ったのよ。モーリスのお話に出てきた通りの方でしたもの。一目で分かりましたわ」
白い肌にチラチラと動く赤い舌が、やけに目について、視線を動かせなくなる。
バカにされているのだろうと分かってはいたが、怒りよりも悲しみの方が大きく波打っていて、何も言葉に出来なかった。
「お優しそうで、可愛らしい方ね。モーリス、あなたには勿体無いわ」
マデリンが言うと、モーリスは大笑いした。
「その通り、シェリナは僕にはもったいない!だから彼女は僕なんかとの婚約は取りやめて、もっと素敵な人とやり直すべきなのさ」
「それであなたは?」
モーリスの肩にマデリンが頭を乗せると、彼は優しく金色の髪を撫でた。
「決まってるさ。君と結婚する」
「まあモーリス!嬉しいわ」
勢いよく抱きつくマデリンに、ぐっと顔を寄せていくモーリス。
ついこの間まで、彼女の場所にいたのは自分の方だったはずなのに。
どうしてこんなことになってしまったというのか。
2人の目には、シェリナは入っていないのだろう。
すっかり自分たちだけの世界に浸っている。
そんな場面を指を咥えて見ていることなど、シェリナには出来なかった。
一刻も早くこの場を立ち去りたくて、きびすを返して来た道を戻ろうとしたのだったが、
「シェリナ。帰る前に、返事だけはしていって欲しいのだが」
と、モーリスの声が追いかけてきたものだから、仕方なく足を止めた。
「返事?」
振り返ることはせずに、出来るだけぶっきらぼうに答える。
そうしないと、声が震えてしまいそうだった。
「もちろん、婚約破棄についての返事だよ。了承ってことで良いだろう?」
嫌だ、と言ってやりたかった。
私がいながら、どうして急にそんな人と結婚するだなんて言い出すの、と大声で叫んでやりたかった。
それでも……
「良いわ。了承します」
もうこれ以上、モーリスとマデリンが一緒にいるのを見ていたくなかった。
2人の目の前でなんて、絶対に涙なんか流したくない。
「これで良いでしょう?では、失礼致しますわ」
唯一出来た抵抗は、精一杯、固い声音を出すことだけだった。
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