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モーリスが大声で宣言した時、シェリナは何が何だかわからずに立ち止まったが、はっとして再び歩き始めると、そのまま歩き続けるモーリスの横に早足に並んだ。

彼が舞踏会真っ只中の屋敷の中で話し始めなかったのが、まだしも幸いではあったが、2人のいる庭園にもチラホラ人影が見える。
その幾人かに気取られぬよう、叫び出しそうになるのを、なんとか飲み込んだ。

いったい、どうして彼は突然そんなことを言い始めたのだろう。
もう結婚まであと数ヶ月を残すばかりだと言うのに。

「どうした、シェリナ。聞こえていないのかい?
聞こえているのなら、承諾の返事が欲しいのだが」

そう言われても、とても承諾など出来ない。
いや、したくない。

これまで築き上げてきた2人の関係を、こんなところで、ましてや、こんな形で終わらせたくはなかった。

「ちょっと待って、モーリス。いったいどうして急に、婚約破棄だなんて言うの」
「それは君が一番良く分かっているんじゃないのかい」
「どういうことなの。説明してくれないと、さっぱり分からないわ」

言いながらも、涙が込み上げてくる。

モーリスはいつもシェリナに歩幅を合わせて、ゆっくりと歩いてくれていたのに、今日は彼女が小走りにならないと追いつかぬほどの早足で、歩き続けている。
いつもみたいに急に笑顔になって、「意地悪して悪かったよ。冗談さ」と頭を撫でてくれるんじゃないかと、彼の横顔を見つめても、モーリスは少しもこちらを見てはくれなかった。

「ねえ、モーリス。お願いだから、少し止まってちょうだい。きちんと話を……」

シェリナが腕をつかもうと、手を伸ばしかけた時だった。

「モーリス!お話は無事に終わったかしら?」

後ろから甘ったるい声がしたかと思うと、人影がシェリナを追い越して、モーリスの隣に並んだ。

「マデリン!」

決してシェリナの為には足を止めようとしなかったモーリスが、立ち止まって両手を広げながら、その人影を迎えたことに、シェリナはビックリしてしまった。

「もう到着したとは知らなかった。明日の予定じゃなかったのかい」
「今さっき着いたところよ。あなたを驚かせたくて、黙っていたの」

モーリスの胸に甘えるように擦り寄りながら、マデリンと呼ばれた娘が、上目でシェリナを見る。
ばっちりと目が合ったシェリナは、ドキリとしてしまった。

小柄な体に、豊かな金色の巻き毛、長いまつ毛に、ぽってりとした唇。
どこを見ても可愛らしい容姿の娘なのに、シェリナを見る目はやけに冷たかったのである。

突然の婚約破棄宣言に、タイミング良く現れたマデリン。
シェリナは嫌な予感しかしなかった。
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