上 下
4 / 39

しおりを挟む
モーリスが大声で宣言した時、シェリナは何が何だかわからずに立ち止まったが、はっとして再び歩き始めると、そのまま歩き続けるモーリスの横に早足に並んだ。

彼が舞踏会真っ只中の屋敷の中で話し始めなかったのが、まだしも幸いではあったが、2人のいる庭園にもチラホラ人影が見える。
その幾人かに気取られぬよう、叫び出しそうになるのを、なんとか飲み込んだ。

いったい、どうして彼は突然そんなことを言い始めたのだろう。
もう結婚まであと数ヶ月を残すばかりだと言うのに。

「どうした、シェリナ。聞こえていないのかい?
聞こえているのなら、承諾の返事が欲しいのだが」

そう言われても、とても承諾など出来ない。
いや、したくない。

これまで築き上げてきた2人の関係を、こんなところで、ましてや、こんな形で終わらせたくはなかった。

「ちょっと待って、モーリス。いったいどうして急に、婚約破棄だなんて言うの」
「それは君が一番良く分かっているんじゃないのかい」
「どういうことなの。説明してくれないと、さっぱり分からないわ」

言いながらも、涙が込み上げてくる。

モーリスはいつもシェリナに歩幅を合わせて、ゆっくりと歩いてくれていたのに、今日は彼女が小走りにならないと追いつかぬほどの早足で、歩き続けている。
いつもみたいに急に笑顔になって、「意地悪して悪かったよ。冗談さ」と頭を撫でてくれるんじゃないかと、彼の横顔を見つめても、モーリスは少しもこちらを見てはくれなかった。

「ねえ、モーリス。お願いだから、少し止まってちょうだい。きちんと話を……」

シェリナが腕をつかもうと、手を伸ばしかけた時だった。

「モーリス!お話は無事に終わったかしら?」

後ろから甘ったるい声がしたかと思うと、人影がシェリナを追い越して、モーリスの隣に並んだ。

「マデリン!」

決してシェリナの為には足を止めようとしなかったモーリスが、立ち止まって両手を広げながら、その人影を迎えたことに、シェリナはビックリしてしまった。

「もう到着したとは知らなかった。明日の予定じゃなかったのかい」
「今さっき着いたところよ。あなたを驚かせたくて、黙っていたの」

モーリスの胸に甘えるように擦り寄りながら、マデリンと呼ばれた娘が、上目でシェリナを見る。
ばっちりと目が合ったシェリナは、ドキリとしてしまった。

小柄な体に、豊かな金色の巻き毛、長いまつ毛に、ぽってりとした唇。
どこを見ても可愛らしい容姿の娘なのに、シェリナを見る目はやけに冷たかったのである。

突然の婚約破棄宣言に、タイミング良く現れたマデリン。
シェリナは嫌な予感しかしなかった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

離れ離れの婚約者は、もう彼の元には戻らない

月山 歩
恋愛
婚約中のセシーリアは隣国より侵略され、婚約者と共に逃げるが、婚約者を逃すため、深い森の中で、離れ離れになる。一人になってしまったセシーリアは命の危機に直面して、自分の力で生きたいと強く思う。それを助けるのは、彼女を諦めきれない幼馴染の若き王で。

あの素晴らしい愛をもう一度

仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは 33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。 家同士のつながりで婚約した2人だが 婚約期間にはお互いに惹かれあい 好きだ!  私も大好き〜! 僕はもっと大好きだ! 私だって〜! と人前でいちゃつく姿は有名であった そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった はず・・・ このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。 あしからず!

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

処理中です...