自分こそは妹だと言い張る、私の姉

神楽ゆきな

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「なんなのよ!
せっかく髪飾りを壊したのに、全然悲しんでいないじゃない!
それどころか、なんだか嬉しそうな顔しちゃって……」

レイラは部屋に入るなりベッドに飛び込んで、枕を叩きながらブツブツと呟いた。

「それにスチュアート様ったら、私と散歩に行くよりも休みたいだなんて!
全くバカにしてるわ」

感情に任せて、枕を力一杯壁に投げつける。
が、ポフっと情けない音がしただけで、少しもストレス発散にはならなくて。
レイラは歯軋りしながらベッドに突っ伏した。
そして宙を睨みつけたのだった。

「このままにはしておけないわ!
カトリーヌの方が私よりも幸せそうだなんて、認めないんだから。
見てなさい……明日こそ……!!」
 

さて、悶々としながら過ごした夜があけ、その翌日のこと。
いつものように夕食を済ませた3人は、順番に席を立ちダイニングルームを後にした。

今夜はカトリーヌもスチュアートも散歩には行かないことは、食事中の会話の中で確認済みである。
こっそりとカトリーヌの後をつけていたレイラは、彼女が部屋に入るのを物陰から確認して、満足げに頷いた。

「よし!カトリーヌは自分の部屋に入ったわね。
スチュアート様は執務室に仕事をしに行くって言ってたから、さすがのカトリーヌも邪魔しに行くことはないでしょ!」

踊るような足取りで廊下を進みながら、クスクスと笑い声を上げる。

「まあ……私はお邪魔しに行くんだけど」

そして早足に執務室の前まで来ると、躊躇いなくその扉を叩いた。
「どうぞ」というスチュアートの低い声が聞こえてくると、もう沸き上がってくるワクワク感を抑える事ができなかった。

今度こそ!
この部屋を出る時にはもう……婚約者の座はカトリーヌではなく、私のものになっているんだわ!

そう勝手に確信してニンマリとしながら、可愛らしく返事をして扉を開く。
いつも通りボサボサ頭のスチュアートが、前髪に隠れた顔を上げるのを見ながら、レイラは扉に背を預けるようにして立った。

「レイラ嬢。どうかしましたか」
「お仕事の邪魔をして、申し訳ございません。
でも少し……相談がありまして」
「相談……」

スチュアートは首を傾げてから、

「とにかく、お座り下さい」

とソファーに手を向けた。
これにレイラは

「ええ、ありがとうございます」

とニッコリと微笑みながら、なんでもないことのように後ろ手で扉を閉めた。
そしてそのままソファーへと足を向けたのだったが

「レイラ嬢」

スチュアートの言葉に足を止めた。

「扉は開けておいて頂きたい」

彼の言うことは、もっともだ。

独身の男女が使用人も伴うことなく、扉を閉めた部屋の中に2人きりでいるわけにはいかない。
そんなことは分かりきっている。

分かりきっていることを、敢えて女性がしているのだから、それに深い意味があることくらい察して欲しい。
レイラは扉のノブに手をかけたまま、恨みがましい目つきでスチュアートを見上げたが、前髪の奥に隠された彼の表情を判別することは出来なかった。

それでもまだレイラは扉を開こうとはしないまま、グズグズとその場に立ったまま動かない。
そして扉に寄りかかったまま、言葉を続けた。

「でも……誰にも聞かれたくない話なんです」
「大丈夫です。
使用人は食事の時間ですから、しばらくは呼ばない限り誰も来ません」
「そう……ですか」

そう答えはしたものの、レイラは扉を開こうとはしなかった。
それどころかノブにかけていた手を離すと、胸元を飾るリボンに手をかけたのである。

スチュアートはこちらを見ているか分からない。
しかしレイラには自信があった。

ゆっくり、ゆっくりとリボンをほどいていくと、ドレスの胸元が大きく開いた。

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