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久しぶりにレイラの目を気にする事なく、スチュアートと過ごす事の出来た時間は、とても穏やかに過ぎて行った。

突然お茶会に出席するなんて言われた時には驚いたが、もしかしたらスチュアートは、2人で過ごす時間を作ろうとしてくれたのではないか。
そんなことを考えると、自然と頬が緩んでいった。

一通り招待客への挨拶回りが済めば、決して社交的とは言えないスチュアートに近寄ってくる者は、すっかりいなくなった。
おかげで残りの時間は、ほとんど2人きりで過ごすことが出来たのである。

ゆっくり紅茶を楽しむ2人の間に交わされる言葉は多くない。
しかし不思議と、彼らを取り巻く空気は重苦しいものにはならなかった。

レイラがいない解放感からか、カトリーヌにはこの沈黙までもが心地よく感じて。
辺りのざわめきを聞くともなしに聞きながら、ティーカップを口に運び、横目でスチュアートを盗み見るこの時間を、心から楽しんでいたのだった。

しかし不意にスチュアートが腰を上げた。

「少し、行ってくる。
ここにいなさい」

何か用でもあるのだろう。
スチュアートはカトリーヌに頷いて見せると、1人の男性が座るテーブルに大股に歩いて行ってしまった。

「分かりました。行ってらっしゃい」

カトリーヌは彼を見送って、手にしていたティーカップを置いた。

軽やかな音楽が遠くから聞こえてくる。
が、それを遮るように、すぐ後ろで、若い女性たちが流行のアクセサリーについて熱っぽく語るのが聞こえてきた。

「それでね!とても素敵だったから、どうしても欲しくなってしまったのよ」
「あらまあ、だったらフィアンセにおねだりしてはいかが?」
「でも、つい先月もネックレスをプレゼントして頂いたばかりで……」

それをぼんやりと聞きながら、カトリーヌはふと鏡に映る自分の姿に目をとめた。
そしてちょっと頭をひねると、髪飾りにそっと触れて微笑んだ。

何度見ても、とても繊細で可愛らしい髪飾り。
それもスチュアートが自分の為に贈ってくれた物だと思えば、喜びもひとしおである。

ずっと大切にしよう。
そう心に誓って、金の花びらに触れた、その時だった。

カチャリと音がしたかと思うと、鏡に映る髪飾りが、グラリと揺れたのを見たのである。
思いがけない事に、カトリーヌは思わず固まってしまった。

彼女の髪からスルリと滑り落ちた髪飾りを、受け止める暇など無かった。
気がつけば、それは床に落ちるなり派手な音を立てて砕けてしまったのである。

「あっ……」

慌てて拾い上げた時には、もう遅かった。
金の花々は粉々になり、宝石は爪から外れてしまっている。

カトリーヌは真っ青になって、手のひらの上の欠片を見つめた。

「どうしよう……せっかくスチュアート様から頂いたのに」
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