自分こそは妹だと言い張る、私の姉

神楽ゆきな

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「スチュアート様から……?」

カトリーヌは箱を受け取ると、可愛らしいリボンを丁寧にほどいて蓋を開けた。

「綺麗……」

そこにちょこんとあったのは、金細工の髪飾りだった。
所々に宝石が埋め込まれている小さな金の花々は、一目でカトリーヌを魅了してしまった。

「わあ、本当に綺麗ですね!
よくお似合いになりそうですわ。
おつけしてもよろしいですか?」
「ええ、お願い」

鏡を覗き込むと、金の花々がカトリーヌの髪を美しく飾っていた。
それを見ているだけでカトリーヌの胸は高鳴った。

「これ……本当にスチュアート様が下さったの?」
「もちろんです。
あのスチュアート様が、奥様にこのようなお気遣いをされる日が来るなんて……!
私はもう、嬉しくて嬉しくて!」

だからやけにマリアンナは嬉しそうだったのか、とカトリーヌは合点がいった。
そして知らず知らずのうちに、自分まで頬を緩ませてしまっていた。

そっと金細工の花に触れながら、小さく微笑む。
現金なもので、今のカトリーヌは、レイラのことで悩んでいたことなどすっかり忘れてしまっているのであった。

そしてこの後のスチュアートの言葉に、カトリーヌはさらに舞い上がることになる……。


それは一時間後のことだった。

「……と言うわけだ。
行こうか、カトリーヌ」

と手を引かれて、カトリーヌは喜びのあまり頬を赤らめて、彼を見上げた。

スチュアートが言うには、お茶会に招待されているから、これから出席するというのである。
普段はお茶会やら舞踏会にはまず顔を出さない彼が、どういう風の吹き回しか、とは思わないでもないが、まあ出席することに異議はない。

むしろ、一緒に出掛けられるなんて、嬉しくて仕方がなかった。

しかし彼に手を引かれても、足が動こうとはしなかったのである。
気持ちの問題などではなくて……

「え……2人で!?
じゃあ私は、どうなるの!
置いてけぼりなんてイヤよ!」

と盛大に駄々をこねているレイラが、全力でしがみついてくることが理由であった。

「そんなこと言ったって……招待して頂いているのはスチュアート様と、婚約者の私だけなんだもの。
仕方ないじゃない」
「そんなのひどいわ!
私だって行きたいわよ!」

と子どものように最後の最後まで喚いていたが、こればかりはどうにもならないとレイラも分かっていたのだろう。
不貞腐れつつも最後には諦めてくれたのだったが、いよいよカトリーヌが馬車に乗り込むというところで、レイラが気づいてしまったのである。

「え、どうしたの、その髪飾り!
可愛いっ!」
「え……」

カトリーヌは咄嗟に髪飾りに手をやった。
しかしそれよりも早く伸びてきたレイラの指が、無遠慮にそれに触れてくる。

カトリーヌはレイラの手から逃れるように、急いでスチュアートに続いて馬車に乗り込んでしまうと、レイラに引きつった笑顔を浮かべた。

「えっと……」

本当のことを言ってはならない、と彼女の本能が告げていた。
スチュアートからの贈り物だなんて知れたら、また一悶着起きることは目に見えている。

だから適当な言葉で誤魔化そうと思ったのに。

「私からの感謝の気持ちだ。
いつも世話になっているからな」

スチュアートに言われてしまって、カトリーヌは顔をしかめた。
そんなことを言われてレイラが黙っているわけはないと思ったのである。

しかし恐る恐る目をあげた先で、何故かレイラは微笑んでいた。
そして声を荒げるどころか

「あら!素敵なプレゼントを頂いて良かったわね」

と微笑んで見せたのである。
それから

「少し曲がっているわ!
直してあげる」

と素早く手を伸ばしてくると、髪飾りをさっとイジって

「これで大丈夫ね。
じゃあ気をつけて行ってらっしゃい!」

と笑顔で手まで振ってくれたのである。
これにはカトリーヌも呆然としてしまったが、機嫌を損ねなかったことにホッと胸を撫で下ろしたのだった。

それから、ゆっくりと走り出した馬車に揺られつつ、チラリと隣に座るスチュアートを見た。
それに気がついたらしい彼が、チラリとこちらに顔を向けてくる。

長い前髪の下から覗く唇が、小さく動いた。

「よく……似合っている」

その一言が嬉しくて、嬉しくて。
カトリーヌは思わず彼に見えないように俯いて、ニンマリしてしまったのだった。


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