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「ああ、美味しかった!
今夜もとても美味しかったと、料理を作って下さった方に伝えておいて下さる?」

レイラはカップの中の紅茶を飲み干すと、笑顔を浮かべて、給仕してくれていた使用人を見上げた。
もちろんこれは、スチュアートの前で性格のいいところを見せる為の演技である。

本当ならば、レイラが座る際に音を立てて椅子を引いた使用人を怒鳴りつけてやりたいくらいである。
しかし当然そんなことはしない。
それどころか代わりに

「それからあなたも、いつも丁寧な給仕をありがとう」

と、微笑んでみせたというのに。

「い、いえ……恐れ入ります」

頭を下げた男は嬉しさのあまり頬を赤らめる……どころか、困惑したように唇の端をピクピクと引きつらせたのである。

この私が嘘でも感謝の言葉を口にしたというのに、その態度はなんだというのか。
カップを握る指に思わず力がこもった。


全く!本当にこの家の使用人たちはレベルが低いんだから!


ふうと息を吐いて心を落ち着けると、レイラは席を立った。
それとほとんど同時に、スチュアートとカトリーヌも席を立つのを待って、レイラは窓の外に目を向けた。

「今夜は雲がなくて星がよく見えそうね、
今日も3人でお散歩しましょうよ」

少しの沈黙の後、ゆっくりスチュアートが頷く。
レイラはニヤリとして、今度はカトリーヌに顔を向けた。

「もちろんカトリーヌお姉様も行くでしょう?」
「え?ええ……と」

カトリーヌは困ったように考え込んでいたが、やがて首を横に振った。

「ごめんなさい。
読みたい本があるから、今日はやめておくわ」

「ええ!?」

思いがけない返答に、レイラは甲高い声を上げた。

昨日までの自分だったら、スチュアートと2人きりになるチャンスだと手放しで喜んだだろう。
しかし今夜は……今夜の『作戦』には、是非ともカトリーヌが必要だった。

というよりも、彼女がいないことには意味がなかったのである。
思い立ったらすぐさま行動に移したいレイラにとって、好機を待つという選択肢はない。

なんとしてでも今夜『作戦』を決行したくてウズウズしているのだ。
こんなところでカトリーヌなんかに邪魔をされてなるものか。

レイラは素早くカトリーヌの腕に飛びつくと、子どものように揺さぶった。

「お願いよー!
カトリーヌお姉様がいないと寂しいんだもの。
3人で仲良くお散歩しましょうよ」

カトリーヌの意思など関係ない。
なにしろレイラがこうして駄々をこねさえすれば……

「はあ……分かったわよ。
じゃあ行きましょうか」

ため息混じりではあったが、いつだってカトリーヌは了承してくれるのだ。

「ありがとう!」

レイラは一応お礼を口にはしたものの、感謝などしてはいなかった。
カトリーヌが自分の思い通りに動くことなど、レイラには当然という気持ちなのである。

この後の『作戦』を考えると、レイラの心は浮き足立っていた。

「さあ、行きましょう!」

レイラは右手にカトリーヌの腕を、そして左手にスチュアートの腕を取り、軽い足取りで歩き出す。

もう少しでスチュアートの婚約者の座が自分のものになると思うと、笑みが溢れるのを止めることは出来なかった。
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